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免許不要なのに原付!?「特定小型原動機付自転車」10の謎ルール

街でよく見かけるようになった電動キックボード。
「ああ、免許がいらなくて、歩道も走れるやつね」
俺もそんなふうに思ってた。

ところが調べてみると――。

免許はいらない。でも原付。
歩道を走れる。でも時速6kmならいいわけじゃない。
「原付」なのに、標識では「自転車」に入ることがある。
そして免許不要なのに、持っている運転免許が止まることまである。

……なんだこの乗り物。

しかもこれは例外的な珍ルールを集めたわけではない。全部、実際に公道を走るときに関係するルールだ。

そもそも「特定小型原動機付自転車」って名前からして長い。さらに「特例特定小型原動機付自転車」なんてものまで出てくる。特定なのか小型なのか特例なのか。もう少し短くならなかったんですかね。

ってことで今回は、一般的な特定原付の紹介記事ではあまり触れられない、ちょっと深いところまで調べてみた。
知ってると誰かに話したくなる、特定原付の10の謎ルール。いってみましょう!

※この記事では基本的に、正式名称の「特定小型原動機付自転車」を「特定原付」、「特例特定小型原動機付自転車」を「特例特定原付」と表記します。長いからね。

「特定小型原動機付自転車」10の謎ルール。LUUPイメージ
シェアサイクル「LUUP」のポートにはキックボードタイプと自転車タイプの車両が並ぶ。ここにあるナンバーが付いてない自転車タイプは特定原付ではなく電動アシスト自転車

その前に。特定原付ってどんな乗り物?

まずは基本のおさらいから。
もう十分知ってる人は、ここ読み飛ばしてください。

特定原付は、2023年7月1日に施行された改正道路交通法で新たに設けられた、原動機付自転車の一種だ。代表的なのは電動キックボードだけど、あとで説明するように、キックボード型でなくてもいい。

道路交通法上のおもな条件はこんな感じ。
・長さ1.9m以下、幅0.6m以下
・定格出力0.60kW以下の電動機を使う
・構造上、時速20kmを超える速度を出せない
・走行中に最高速度の設定を変更できない
・AT機構が採られている(クラッチ操作が不要)
・最高速度表示灯を装備している

これに加えて、公道を走る車両は道路運送車両の保安基準に適合し、ナンバープレートを付け、自賠責保険(共済)に加入する必要がある。
運転できるのは16歳以上。運転免許はいらない。ヘルメット着用は努力義務だ。

購入するときには、国土交通省の「性能等確認制度」で確認を受けた車両かどうかもチェックしたい。性能等確認済シールが付いていれば、保安基準への適合性などが確認された車両だと判断できる。

と、ここまでは一般的な話。
ここからが本題です。

「特定小型原動機付自転車」10の謎ルール。HELLO CYCLINGイメージ
先ほどのLUUPの自転車型は電動アシスト自転車。だけどこちらのHELLO CYCLINGの車両は特定原付。どこが違うんだ!?

「特定小型原動機付自転車」10の謎ルール。性能等確認済シールイメージ
この「性能等確認済シール」がハンドルやシートポストの根本などに貼ってあれば、保安基準適合性等が確認されているってこと

1 免許はいらないけど「原付」!?

はい。原付です。

免許はいらない。ヘルメットも努力義務。最高速度は20km/h。
これだけ聞くと、かなり自転車に近い乗り物に思える。
でも、法律上はれっきとした「原付」。

もう、この時点でちょっとややこしい。
じゃあなぜ、「原付」なのに免許なしで乗れるのか?

免許がいらないのは、自転車に分類されたからじゃない。大きさ、最高速度、定格出力、車体構造などを一定範囲に収めた車両に、専用の交通ルールが作られたから。
同じ電気で動く乗り物でも、電動アシスト自転車、ペダル付き電動バイク、特定原付、電動スクーター、シニアカーは、それぞれ構造と性能によって道路交通法上の扱いが異なる。

乗り物 どうやって走る? 道路交通法上の扱い ざっくりした違い
電動アシスト自転車 ペダルをこぐ力をモーターが補助する 自転車(軽車両) 乗車中はモーターだけでは走れない
ペダル付き電動バイク
(モペッド)
モーターだけでも走れ、ペダルでも走らせられる 一般原動機付自転車または自動車(自動二輪など) ペダルだけで走っても、原付や自動二輪としての扱いは変わらない
特定原付 アクセル操作などで電動モーターを動かす 特定小型原動機付自転車 16歳以上は免許不要。構造上、時速20kmを超えて走れない
電動スクーター
(一般原付)
アクセル操作などで電動モーターを動かす 一般原動機付自転車など 車両区分に応じた免許や装備が必要
シニアカー レバー操作などで、電動モーターだけで走る 身体障害者用の車(利用者は歩行者) 基準を満たすものは最高速度6km/h以下。歩行者として歩道などを通行する

「ペダルが付いている=自転車」ではない。モペッドはペダルだけで走っている間も原付や自動車として扱われる。一方、ペダルのように見える装置が発電用なのか、車輪を人力で駆動するものなのかによっても構造は異なる。法令に「サドルを付けてはいけない」とは書かれていない。構造と性能の要件を満たせば、サドル付きや自転車型でも特定原付になれる。結局、見た目だけでは判断できないってことだ。

電動だから特定原付、というわけではない。特定原付に使えるのは電動機だけだが、それだけで区分は決まらない。
立ち乗りか、サドル付きか。それだけでもない。
原動機の種類を含む車体の構造と性能が、法令上のどの区分に当たるかで決まるのだ。

なので、同じような見た目の電動キックボードでも、時速20kmを超えて走れるものや、必要な装備を持たないものは特定原付ではない。
なるほど。見た目で判断しちゃいけないってことね。

ちなみに人力式のキックボードも、電動じゃないからって自転車になるわけではない。遊具として扱われるものを、交通の頻繁な道路で使うことは道路交通法で制限されている。

電動か、人力か。ペダルがあるか、ないか。それだけで区分できるほど単純じゃないのだ。
逆にいえば、特定原付は「電動キックボード」というひとつの形に縛られた乗り物でもない。
サドル付きも、自転車型も、三輪だってあり得る。ルールはややこしいけど、乗り物としてはけっこう自由なのだ。

わかったこと
「免許不要だから自転車」ではない。特定原付は、新しい交通ルールを持つ自由な原付だ。
「特定小型原動機付自転車」10の謎ルール。電動モビリティイメージ
電動モビリティといってもいろいろなタイプがある。画像はイメージです

2 同じ1台なのに名前が変わる!?

変わるんです。

車道を走っているときは「特定小型原動機付自転車」。ところが一定の条件を満たして歩道などを通行するときは、法律上「特例特定小型原動機付自転車」になる。

特定原付が車道専用で、特例特定原付が歩道も走れるやつ?

俺も最初はそう思っていた。
でもじつはこれ、別の車種じゃない。
同じ特定原付が、歩道などを通行するための条件をすべて満たしているときだけ、法律上「特例特定原付」と呼ばれる。
わかりやすくいえば、「歩道モード」時の法律名ってことだ。

特例特定原付になるためのおもな条件は次のとおり。
・最高速度表示灯を点滅させている
・点滅中は構造上、時速6kmを超えられない
・側車を付けていない
・走行中に操作しやすい位置にブレーキがある
・車体に鋭い突出部がない
・ほかの車両を牽引していない

ここで問題になるのは、フツーの特定原付がアクセルをちょっとだけ回して、時速6km以下で走っていれば歩道走行可なのかってこと。

ダメです。

特例特定原付の条件を満たす、つまり車体そのものが時速6kmを超えられない設定になっていて、最高速度表示灯が点滅していなければならないのだ。
じゃあ、時速20km設定では「特定原付」、時速6km設定に切り替えてほかの条件も満たすと「特例特定原付」。同じ1台が、状態によって呼び名を変えるってことか。
むむー。そんな車両区分、ほかにあるんだろうか。

なお、すべての特定原付に時速6kmの歩道走行モードが備わっているわけではない。時速6kmモードは特定原付そのものの必須要件ではなく、特例特定原付として一定の歩道などを通行するための条件だ。
実際、時速20km以下の特定原付走行モードだけを備え、歩道を走れない車両も販売されている。
「特定原付だから歩道モード付き」とは限らないので、購入時には確認したほうがよさそうだ。

わかったこと
特例特定原付という別車種はない。それは同じ特定原付が、歩道等を通行するための条件をすべて満たしている「状態」だ。
「特定小型原動機付自転車」10の謎ルール。歩道走行イメージ
歩道を通行するためには、車両も歩道も要件を満たさなければならない

3 時速6kmでも、歩道を走っちゃダメ!?

ダメです。

時速6km以下なら、どの歩道でも走れる――わけではない。

特定原付が歩道を走るには、まず車体が「特例特定原付」の条件を満たしていること。そしてもう一つ、その歩道自体が特例特定原付の通行を認められていることが必要だ。

歩道では、歩道の中央から車道寄りの部分、または普通自転車通行指定部分を走る。そして歩行者が優先。歩行者の通行を妨げそうなときは一時停止する。
まあ、これは当然ですよね。歩道なんだから。

おもしろいのは、普通自転車との違いだ。
普通自転車ってのは、ここでは一般的なママチャリや多くのロードバイクのことだと思ってください。
普通自転車は、13歳未満や70歳以上の人が運転している場合、または車道の通行が危険な場合など、状況に応じて標識がない歩道でも通行できることがある。

でも特例特定原付には、その例外がない。
運転者が何歳でも、車道を走るのが怖くても、標識等で通行を認められていない歩道には入れないんです。

「特定小型原動機付自転車」10の謎ルール。標識イメージ
特定小型は、標識等で通行が認められていない歩道は、車道が危険だと感じても通行してはならない!

歩道を走るときは歩行者用信号?

じゃあ信号はどうなる?
特例特定原付で歩道を走っているからといって、常に歩行者用信号に従うわけではない。

特定原付は原則として車両用信号に従う。ただし、次の場合には歩行者用信号に従う。
・歩行者用信号に「歩行者・自転車専用」と標示されている場合
・特例特定原付として横断歩道を進行し、道路を横断する場合

つまり「歩道モードだから歩行者用信号」なのではなく、どの場所をどのように通行するかによって、従う信号が変わるのだ。

「特定小型原動機付自転車」10の謎ルール。標識イメージ

「歩行者・自転車専用」と標示されている場合はそれに従う

じゃあ、自転車横断帯があったら?

ここでもう一つ疑問。
横断歩道のすぐ横に、自転車マークが描かれた「自転車横断帯」がある場所もある。特定原付も名前に「自転車」と付いているんだから、ここを通るんじゃないの?
と思いきや、そうではない。

道路交通法では、自転車は道路を横断するとき、近くに自転車横断帯があれば、そこを通行しなければならないと定められている。ところが、この規定の対象はあくまで「自転車」。特定原付には、自転車横断帯を通行する義務はない。

一方、特例特定原付が横断歩道を進行して道路を横断する場合は、歩行者用信号に従う。この場合、横断中の歩行者がいるなど、歩行者の通行を妨げるおそれがあるときは、乗ったまま横断歩道を通行してはいけない。

つまり、横断歩道の横に自転車横断帯が並んでいても、「特定原付なんだから、自転車横断帯を通らなきゃ」ではない。

自転車によく似た交通ルールを持つ特定原付だけど、細かいところまで自転車と同じではないのだ。

「特定小型原動機付自転車」10の謎ルール。道路イメージ

自転車マークが描いてあっても、特定原付に「ここを通れ」という意味ではない。ややこしい!
わかったこと
時速6km以下でも、通行が認められていない歩道は走れない。歩道走行中も、常に歩行者用信号に従うわけではない。また特定原付には、自転車横断帯の通行義務はない。

4 ナンバーを外せば「自転車」になる!?

特定原付を見て、こんなことを考える人もいるかもしれない。
ナンバープレートを外し、電源を切って、足で地面を蹴って走れば自転車……いや、キックボード扱いになるんじゃないの?

なりません。

車両区分は、その瞬間にどうやって走っているかではなく、車体の構造で決まる。
ナンバーを外しても、電源を切っても、特定原付は特定原付のままだ。ナンバープレートは車両の種類を変身させるスイッチじゃない。もちろん、ナンバーを外したまま公道を走ることはできない。

では、もしペダル付きだったらどうだろう。
ペダルだけをこいで走っている間は、自転車扱いになる?

これも、車両区分は変わらない。

ペダルで時速20kmを超えたらどうなる?

ここから、ちょっと深い話。
特定原付は、平坦な舗装路で時速20kmを超える速度を出せない構造になっていなければならない。
では、モーターは時速20kmで止まるものの、ペダルをこげばそれを超える速度を出せてしまう車両はどうなるのか。

じつは、警察庁はこの点についてかなりはっきり答えている。
モーターを止めた状態でも、ペダルを使って平坦な舗装路を時速20km超で走れるなら、その車両は特定原付には当たらない。定格出力などに応じて、一般原付や自動車として扱われることになる。

だから、ペダルをこげば時速20kmを超えられる車両は、モーターが時速20kmで止まるからといって、適法な特定原付になるわけではない。

ただし、ここで問題になるのは「ペダルが付いていること」そのものではない。
ペダルで車輪を駆動すること自体が禁止されているわけではなく、人力を加えても時速20kmを超えないよう、車両側で速度を制御できれば、少なくともこの速度要件を満たす余地はある。実際、ペダルで車輪を直接駆動しながら、時速20kmを超えそうになるとブレーキを働かせる仕組みを採用したモデルも発表はされている。

一方、ENNE T350 ProやT600 GRのペダルは、車輪を直接こぐためのものではない。ペダルを回して発電し、その電気でモーターを動かす方式だ。
同じようにペダルが付いていても、その先が車輪につながっているのか、発電機につながっているのか。ここには、見た目以上に大きな違いがある。こういう仕組みを見ると、「特定原付=電動キックボード」というイメージだけでは、この乗り物を捉えきれないことがよくわかる。

→ 関連記事:エネルギーを循環させる特定小型「ENNE T350Pro」とは

わかったこと
ナンバーでもペダルでもない。正体を決めるのは「構造」。
「特定小型原動機付自転車」10の謎ルール。ENNEイメージ
このSHIFTAを運営するアキボウが扱うENNE T350 PRO はペダルを回して発電する特定原付。チェーンが後輪ではなく発電機につながっているのに注目

5 自賠責証明書はスマホの写真でOK!?

OKです。条件を満たせば。

特定原付は原付なので、自賠責保険(共済)への加入が必要になる。
当然、自賠責保険証明書も備え付けなければならない。
ここで困るのが、その証明書をどこに入れておくかだ。

スクーターならシート下の収納スペースなどに入れられる。
でも電動キックボード型の特定原付には、そんな場所はない。
ずっとポケットに紙を入れておく? 雨が降ったらどうする?

じつは証明書を備え付ける装置がない特定原付では、自賠責保険証明書の画像をスマートフォンなどへ保存し、画面に表示して提示する方法も認められている。
おお、ちゃんと車体事情を考えてるじゃないか。

ただし、保険会社から届いた「契約しました」というメールがあればいい、ということではない。証明書の記載内容を撮影した画像を保存しておく必要がある。
通信できない場所でも表示できるよう、クラウドだけじゃなく端末本体へ保存しておくほうがよさそうだ。もちろん故障や電池切れで表示できなければ義務を果たせない。心配なら、紙の証明書原本を携行する方法もある。

自転車保険は使える?

そしてもうひとつ。すでに自転車保険へ入っている人は、その保険で特定原付もカバーできるんだろうか。

答えは、契約による、だ。

特定原付は法律上、自転車ではなく原動機付自転車。自転車向けの個人賠償責任特約には、自動車や原動機付自転車の使用に伴う事故を対象外としているものもある。
一方、自動車保険のファミリーバイク特約などで、特定原付を対象に含む商品もある。

でも「ファミリーバイク特約」って名前なら全部OK、という話でもない。運転者の範囲、自分のけが、相手の物、車両そのものなど、どこまで補償するかは契約によって違う。
自賠責がおもにカバーするのは、事故相手の人身損害だ。だから任意保険についても確認しておきたい。

保険会社には「電動キックボードなんですけど」ではなく、「特定小型原動機付自転車です」と正式名称で聞くのが確実だろう。

わかったこと
証明書を収納する装置がない特定原付では、自賠責証明書をスマホに保存して提示できる。任意保険は名前で判断せず、補償対象を確認しよう。
「特定小型原動機付自転車」10の謎ルール。自賠責証明書イメージ
紙で携行しなくてもスマホにこの書面を写真として保存して提示すればオーケー

6 右折レーンがあっても入っちゃダメ!?

入っちゃダメです。

右折するんだから右折レーンへ。クルマなら当然の行動だけど、特定原付ではそうならない。
特定原付は、右折レーンがあっても左端を進み、いわゆる二段階右折をする。

ここでややこしいのが、50ccスクーターなどの「一般原付」とルールが違うことだ。

「原付の二段階右折」と聞くと、片側3車線以上ある大きな交差点を思い浮かべる。

実際、50ccスクーターなどの一般原付は、信号機などで交通整理された交差点で、進行方向に3つ以上の車両通行帯がある場合や、二段階右折の標識がある場合に二段階右折する。ただし、3車線以上でも小回り右折の標識があれば、その指定に従う。
ところが、特定原付はちょっと違う。

特定原付は、交差点では車線数にかかわらず、常にいわゆる二段階右折だ。
信号機などで交通整理されている片側1車線の交差点でも、右折レーンがあっても同じ。右折レーンには入らず、できるだけ道路の左端に寄って進み、交差点の側端に沿って右折する。

しかし特定原付は、警察庁の通達でも「一般原動機付自転車と異なり、常に、いわゆる二段階右折」と説明されている。
一般原付のルールを知っている人ほど、ここは間違えやすいかもしれない。

なお、二段階右折は「横断歩道を歩行者のように渡る」という意味ではない。
道路の左側から交差点の外側に沿って右折する方法だ。
右折レーンが見えても、つられて入らない。
これ、実際に街を走る前に知っておきたいポイントだ。

わかったこと
片側1車線でも右折レーンには入らない。特定原付の右折は、交差点の外側に沿って行う。
「特定小型原動機付自転車」10の謎ルール。標識イメージ
50ccスクーターなど一般原付は、この標識のある場所などで2段階右折する。一般原付は車線数や標識によって右折方法が変わるが、特定原付は車線数にかかわらず小回り右折をしない

7 「原付」なのに標識では「自転車」!?

原付なのに「自転車」。
何を言ってるんだ、と思いますよね。
でも、道路標識の世界では本当にそうなることがある。

たとえば、一方通行の道路などで見かける「自転車を除く」という補助標識。
特定原付は、法律上は自転車ではない。原動機付自転車の一種だ。
だったら、「自転車を除く」の自転車には含まれないはず。

ところが、含まれるんです、これ。

補助標識に「自転車を除く」と書かれている場合、その規制から除かれるのは普通自転車だけではない。特定原付も含まれる。

たとえば、一方通行の標識に「自転車を除く」という補助標識が付いていれば、特定原付も一方通行の規制対象から外れる。つまり、反対方向からも通行できる。ただし、その場合も進行方向の左端に寄って走る必要がある。
法律上は自転車ではないのに、標識の「自転車」には含まれる。
なんだか頭がこんがらがってくる。

しかも逆に、補助標識の「原付」は一般原付を意味し、特定原付を含まない。
「原付」には入らない。
でも「自転車」には入る。
いや、君の名前は「原動機付自転車」じゃなかったのか。

もちろん、特定原付が法律上の自転車になったわけではない。道路標識や道路標示で使われる言葉の意味が、そう定められているという話だ。

「特定小型原動機付自転車」10の謎ルール。標識イメージ
自転車を除く。特定原付も除く

いつの間にか、標識の名前も変わっていた!

特定原付の制度が始まったことで、じつは見慣れた標識の正式名称もしれっと変わっている。

・「自転車通行止め」
 →「特定小型原動機付自転車・自転車通行止め」
・「自転車専用」
 →「特定小型原動機付自転車・自転車専用」
・「自転車一方通行」
 →「特定小型原動機付自転車・自転車一方通行」
・「自転車及び歩行者等専用」
 →「普通自転車等及び歩行者等専用」

ずいぶん長くなったなー。

ややこしいのは、正式名称が変わっても、標識の見た目は大きく変わっていないことだ。

おなじみの自転車マークが、そのまま特定原付まで意味するようになった標識もある。名前だけが、いつの間にか特定原付対応へアップデートされていたのだ。

いつの間にか「自転車通行止め」から「特定小型原動機付自転車・自転車通行止め」に名前が変わっていた!

同じ標識なのに、置かれた場所で意味が変わる?

さらにややこしい標識がある。
青い丸の中に、歩行者と自転車が描かれた「普通自転車等及び歩行者等専用」だ。

この標識は、歩道だけに設置されるものではない。
サイクリングロードのように、道路全体が自転車と歩行者のために設けられた「自転車歩行者専用道路」の入口に設置されることもある。
この場合、特定原付は歩道を通行しているわけではない。そのため特例特定原付になる必要はなく、別の速度規制などがなければ20km/hモードのまま通行できる。

一方、同じ標識が車道脇の歩道に向けて設置されている場合、その歩道を走れるのは、6km/h設定や最高速度表示灯の点滅などの条件を満たした特例特定原付だけだ。

同じデザインの標識なのに、
・道路全体に対する標識なら、20km/hモードで通行できる場合がある
・歩道に対する標識なら、6km/h設定などの条件が必要
という違いがある。

標識の絵だけでなく、それが道路全体に向けられているのか、歩道に向けられているのかまで見なければならない。
これは、知らないとまず見分けられない。

「特定小型原動機付自転車」10の謎ルール。標識イメージ
歩道にある「普通自転車等及び歩行者等専用」標識。この歩道を通行するときは6km/hモードで走らなくてはならない
「特定小型原動機付自転車」10の謎ルール。標識イメージ
いわゆるサイクリングロードの入口にある「普通自転車等及び歩行者等専用」の標識。ここでは20km/hモードのまま通行できる

「原付」なのに「自転車」扱い?

ここまでくると、もう一つ気になる。
特定原付は法律上は自転車ではないのに、標識では「自転車」の仲間に入ることがある。
では、「自転車レーン」や「自転車道」はどうなのか?

普通自転車専用通行帯は、いわゆる自転車レーンだ。特定原付は車両通行帯のある道路では、原則として最も左側の通行帯を走る。そこに普通自転車専用通行帯が設けられていれば、特定原付もその中を走ることになる。
ただし、路面に描かれた青い矢羽根や青い帯のすべてが、法律上の普通自転車専用通行帯とは限らない。自転車が走る位置を案内しているだけの路面表示もある。

一方、縁石や柵などで車道と分けられた法律上の自転車道も、特定原付は通行できる。
ただし、普通自転車と違って、特定原付には一律の自転車道通行義務がない。道路標識等による別の指定がなければ、自転車道を使うか、通常の車道左側端を走るかを選べる。

ここまでを整理すると
・法律上は原付。
・標識では「自転車」に含まれることがある。
・「原付」という補助標識には含まれない。
・「普通自転車専用通行帯」も通行する。
・自転車道も走れる。

……もう一度言います。
法律上は原付です。
ややこしい。

場所 特定原付の通行 意外なポイント
普通自転車専用通行帯 原則として、その通行帯を走る 名前は「普通自転車専用」だが、特定原付も通行する
自転車道 通行できる 自転車道を通行できるが、普通自転車のような一律の通行義務はない
「特定小型原動機付自転車」10の謎ルール。通行レーンイメージ

「普通自転車専用」なのに特定原付もここを走る。名前だけではわからない世界になってきた

「特定小型原動機付自転車」10の謎ルール。通行レーンイメージ

特定原付のルールはまだ周知されていないので、こういう風景も見かけます
わかったこと
法律上は原付。でも標識では「自転車」の仲間に入ることがある。

8 特定原付にも「ご当地ナンバー」がある!?

あるんです。しかも、けっこうかわいい。
東京都江戸川区では、特定原付専用のご当地ナンバーがすでに交付されている。

その話の前に、まず特定原付のナンバープレートについて。

特定原付にはナンバープレートが必要だ。
標準的な小型プレートは縦10cm、横10cmの正方形。一般的な原付のプレートより横幅が小さく、細い車体に収まりやすくなっている。
なるほど。専用サイズがちゃんと用意されてるのね。

ただしナンバープレートを交付するのは市区町村。制度が始まったころには、自治体の準備状況によって、従来サイズの原付プレートが交付される例もあった。
だからプレートの形だけ見て、「これは特定原付」「これは一般原付」と判断することはできない。

「特定小型原動機付自転車」10の謎ルール。ナンバープレートイメージ
同じ特定原付でも、登録した時期によって従来サイズのプレートが交付されることもあった

じゃあ、自動車みたいに好きな数字を選べる希望ナンバーはあるんだろうか。

全国共通の希望ナンバー制度では、現時点で特定原付は対象外だ。
2026年10月中旬から申込受付が予定されているオートバイの希望ナンバーも、対象は小型二輪と軽二輪。市区町村がプレートを交付する原付や特定原付は対象外だ。

ところが。
自治体独自の仕組みで番号を選べる例もある。

東京都江戸川区は2025年8月1日から、特定原付向けの10cm角デザイン「こまつなくん」を交付している。江戸川区特産の小松菜をモチーフにしたデザインで、一般原付用とは別の特定原付専用版だ。
これはかなりレアなんじゃないの?

ちなみに交付には寄付などの条件があり、1枚500円以上の寄付が必要。記号は「Y」で固定だが、1502~1700のうち未交付の番号なら希望できる。交付は先着順。

これから特定原付が増えれば、ほかにも各地で10cm角のご当地ナンバーが生まれるかもしれない。ちょっと楽しみ。

わかったこと
全国共通の希望ナンバー制度は対象外。でも、自治体独自に番号を選べるご当地ナンバーはある。
「特定小型原動機付自転車」10の謎ルール。ナンバープレートイメージ
江戸川区のこまつなくんデザイン。かわいいね!

9 歩道モード、走りながら切り替えちゃダメ!?

車道から歩道へ入る手前で速度を落とし、走りながらボタンを押して6km/hモードへ切り替える。
使い方としては、それが自然に思える。

でも、じつはこれ、できないんです。

特定原付には、「走行中に最高速度の設定を変更することができないこと」という構造上の条件がある。
つまり、20km/h設定から6km/h設定へ切り替えるときは、いったん停止しなければならない。
停止しないと切り替えられない構造になっているんです。

歩道から車道へ戻るときも、停止して20km/h設定へ戻す。
なんで?と思うけど、走行中に意図せず最高速度設定が変わらないようにするための仕組みと考えれば納得できる。

最高速度表示灯もおもしろい。
通常の20km/h設定では点灯。6km/h設定では点滅。乗っている人だけでなく、歩行者や周囲の車両からも、その特定原付がどちらの設定になっているか見分けられるようになっている。

最高速度表示灯って、単に「特定原付ですよ、電動アシスト付き自転車じゃありませんよ」と知らせる緑色のランプだと思っていた。でもそれだけではなく車体の状態まで周囲へ知らせる装置だったのだ。

こうして仕組みを知ると、20km/hで車道を走り、対応する車両なら6km/hモードに切り替えて一定の歩道も走れるというのは、なかなか面白い。止まって切り替えるひと手間は必要だけど、一台の小さなモビリティに二つの走り方を持たせた仕組みだと言えるだろう。

わかったこと
歩道モードは、走りながら変身できない。いったん停止。
「特定小型原動機付自転車」10の謎ルール。歩道モードイメージ
ハンドルバーエンドなどに装備される最高速度表示灯。20km/hモードでは常時点灯、6km/hモードでは点滅に切り替わる
「特定小型原動機付自転車」10の謎ルール。歩道モードイメージ
ENNE T350 PROでは 速度などを表示する部分に「M」マークの切り替えスイッチがあるが、停止しないと切り替えられない

10 免許不要なのに、持ってる免許が止まる!?

止まることがあります。

免許がいらないのに、持っていた運転免許が停止される。
そんなことが、本当にあったんです。

警察庁の「令和7年警察白書」には、2024年11月、酒気帯び状態で特定原付を運転した24歳の女性が検挙され、翌12月に保有する運転免許を30日間停止された事例が載っている。

免許のいらない乗り物なのに、持っている免許が止まる。
どういうこと?
これを理解するには、まず特定原付の「違反」と「免許」の関係を知る必要がある。

「免許不要」と聞くと、免許の点数も講習も関係ないように思える。
そう思うのがフツーでしょう。
ところが特定原付には、専用の講習制度がある。正式名称は「特定小型原動機付自転車運転者講習」だ。

対象になるのは、次のような危険行為だ。
・信号無視
・通行禁止違反
・通行区分違反
・指定場所一時不停止等
・酒気帯び運転
・ながらスマホ
・妨害運転

ほかにも踏切への立ち入りや整備不良車両の運転など、全部で17類型が定められている。

こうした危険行為を3年以内に2回以上繰り返すと、都道府県公安委員会から講習を命じられることがある。しかも、受講命令に従わなければ5万円以下の罰金だ。

免許を取る必要はない。
でも、違反を繰り返せば講習を受けることになる。
なかなか不思議な制度だ。

しかもこれ、ほとんど使われていない名目だけの制度ではない。
警察庁の「令和7年警察白書」によると、2024年中には1,460人がこの講習を受講している。

1,460人。
思っていたより、ずっと多くないですか?

制度が始まったのは2023年7月。それからまだそれほど時間がたっていないことを考えると、「そんな講習もあるらしい」という段階ではなく、すでに実際に運用されている制度だとわかる。

じゃあ、違反すると免許に点数が付く?

ここで話を、冒頭の「持っている免許が止まる」に戻そう。
運転免許を持っている人が特定原付で違反したら、その免許にも違反点数が付くんだろうか。

まず、通常の特定原付の違反によって、持っている運転免許にそのまま違反点数が付く仕組みではない。
特定原付の反則金や運転者講習と、運転免許の点数制度は別もの。だから、一度信号無視をしたら運転免許にも点数が付く、といった話ではない。

だったら、運転免許にはまったく影響しない?
……と思ったら、そうとも言い切れない。

酒気帯び運転など、特に悪質・危険な行為をした場合には、点数制度とは別の行政処分によって、持っている運転免許が停止されることがある。

冒頭で紹介したのが、その実例だ。
2024年11月、酒気帯び状態で特定原付を運転した24歳の女性が検挙され、翌12月に保有する運転免許を30日間停止された。
免許のいらない乗り物での違反によって、持っていた運転免許が止まったのだ。

これは、ちょっと驚く。
もちろん、特定原付で違反をすれば、どんな場合でも運転免許が停止されるという意味ではない。
通常の違反が、そのまま運転免許の点数に加算されるわけでもない。
悪質・危険な違反などについて、公安委員会が個別に判断する別の仕組みだ。

それでも、「免許不要」と「持っている免許には絶対に影響しない」は、同じ意味ではなかった。

免許を持っている人も、持っていない人も、守るルールは同じ。
つまり、免許不要だから責任まで軽いわけではない。
そこはしっかり理解しておく必要がある。

その一方で、16歳以上なら運転免許の有無にかかわらず乗ることができるのは、やはり特定原付ならではの特徴だ。
免許を取るところから始めなくても、新しいモビリティを利用できる。

責任はある。でも、乗り始めるためのハードルは低い。
この二つが両立しているのが、特定原付という乗り物なのだ。

わかったこと
免許不要。でも「免許と無関係」とは限らない。
千葉県警察「特定小型原動機付自転車運転者講習の対象となる危険行為チラシ」より(出典:千葉県警察)

結局、特定原付は「自転車とバイクの中間」なのか?

ここまで調べて、ようやくわかった気がする。

特定原付は、「自転車とバイクの中間の乗り物」じゃない。一定の大きさと性能に収めた原動機付自転車に、免許不要や条件付きの歩道通行など、新しいルールを組み合わせた乗り物だ。

免許はいらない。でも自転車ではない。
歩道を走れる。でも時速6kmに落とすだけじゃダメ。
ペダル付きもある。でも構造上、時速20kmを超える速度は出せない。
自転車店で買える。でもナンバーと自賠責は必要。

なんだか「でも」ばかりだ。
だけど、この「でも」の部分こそが、特定原付の新しさなんだと思う。

これまでの自転車、原付、歩行者という枠だけでは扱いきれなかった小型電動モビリティに、新しい居場所を作った。そのために既存のルールを組み合わせ、必要な部分には専用のルールを設けた。

だから最初は、ちょっとわかりにくい。
制度もまだ新しい。標識、駐輪場、保険、販売店の整備体制など、社会の側も少しずつ対応している途中だ。

でも製品を見ると、立ち乗りだけじゃなく、サドル付き、自転車型、三輪、ペダル発電型と、すでにいろんな方向へ進化している。
一方で、免許を必要とせず、これだけ多様な形の電動モビリティに乗れるようになったこと自体は、なかなか面白い変化だと思う。
おそらく数年後には、「特定原付といえば電動キックボード」というイメージも変わっているだろう。

そのとき、どんな乗り物が街を走っているのか。

ちょっと楽しみになってきた。

「特定小型原動機付自転車」10の謎ルール。ENNEイメージ

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岩田 淳雄(ペダルプッシャー)

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