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ウェブサイト「駅と駅舎の旅写真館」中の人に訊く鉄道写真と輪行の活用

輪行(りんこう):公共交通機関を利用して自転車を運ぶこと。

旅先に自分の自転車も持っていけば、時間に縛られずに行動範囲も広がりとても便利。駅から距離のある観光地を巡ったり、いつもとは違うロケーションでサイクリングを楽しんだり。そんな時に便利なのが、工具無しで誰でもサッと折りたためるフォールディングバイク(折りたたみ自転車)での輪行。休日の朝に思い付きで出かけられる、気軽さも人気だ。

だが「輪行」はどこか、自転車ファンの趣味の延長線上というイメージがある。自転車好きの間では知られているが、日常的によく見る光景ではない。「便利なのでもっと広がればいいのに」と思う輪行について、一般の方々はどう思っているのだろうか。もちろん「輪行」そのものをご存じない方が大半だとは思うが、自転車ファンが趣味の延長線上で輪行を始めたパターンではない例として、今回は、鉄道写真愛好家が撮影活動のためにフォールディングバイクを購入し輪行で利用されているケースをご紹介する。

登場いただくのは、丁寧な記事作り、雰囲気のある写真の撮影や目の付け所、知識、蓄積された情報発信量などに圧倒されるウェブサイト「駅と駅舎の旅写真館」の運営者、Solanoさん。自転車は、3段変速を装備しながらもコンパクトさと軽量さが特徴の、輪行にも非常に有利なDAHONのK3だ。

古い駅舎に興味を持つのは必然だった

——プロフィールに「生まれながらの乗り鉄。近年は駅や駅舎巡りの旅に傾倒」とありました。これまでの経緯を教えてください。

「駅と駅舎の旅写真館」サイトTOPよりスクリーンショット

Solanoさん:物心付いた頃から好きでしたね。好きなおもちゃがプラレールだったり、銀河鉄道999にロマンを感じたり…。小学生の頃は、ブルートレインブームといってブルートレインが人気だった時代があり、親に夜の名古屋駅に連れて行ってもらったり、ブルートレインで家族旅行に行ったりもしました。いつの間にか遠ざかっていたのですが、何気にローカル線に乗りに行ったり、東海道新幹線に登場したばかりの100系新幹線を目にするなどし、鉄道への気持ちが再燃しました。

——ブルートレインは学生の頃に自費で大阪から西鹿児島まで利用したことがあり、なんとも言えない旅情を思い出します。夜中にどこかの駅にしばらく停まっていて、横を貨物列車が走る音が聞こえたり。新幹線は子どもの頃に乗せてもらった記憶がないので、100系をご存じで羨ましいです。

Solanoさん:それから全国各地に鉄道の旅に出るようになりました。旅で古い建物を見るのは元々好きだったのですが、2000年台前半頃、たまたま買った駅舎に関する本を見て、気になった古い駅舎を訪ね歩くようになり、レトロ駅舎の魅力に取りつかれるようになりました。また変な駅や、駅で発見する色々なものが面白く、駅でボーっとしたり街歩きなど、駅で過ごす何気ない時間が印象深く、レトロ駅舎だけでなく駅巡りにはまり今に至ります。

佐賀県伊万里市、JR筑肥線・肥前長野駅。かつてはボロ駅舎が残る駅として知られていたが、改修され、木造駅舎らしい古き良き味わいを取り戻した。(文章/写真とも Solanosさん)

——素人の勝手なイメージでは、鉄道好きの方って車両が好きなのでは?と思っていたのですが、Solanoさんの旧サイトを拝見して元々は(鉄道と)建築がお好きなことが分かりました。

Solanoさん:列車に乗るのが好きな「乗り鉄」でもありますが、元々、車両にはそれほど興味ありません。何系の何番台がと言われてもチンプンカンプンです(笑) 。だけど、車内設備や内装、サービスと言った観点からは興味があります。鉄道ファン歴は長いかもしれませんが、駅に興味を持つようになったのは後の事です。ですが、鉄道が好きで、旅先で古い建物を見るのは好きだったので、両者が融合するように古い駅舎に興味を持つのは必然だったのかもしれません。

ポルトガル鉄道、駅舎に飾られたポルトガルの絵タイル「アズレージョ」が美しいサンタレン駅。(文章/写真とも Solanosさん)

——駅鉄、駅舎鉄という言葉を初めて見ました。そういった趣向の方は一定数おられるのでしょうか。

Solanoさん:鉄道ファン全体ではまだまだ少数派ですが、近年は増えたように思います。それも更に細分化されているのが面白い所です。私のようにレトロ駅舎好きの人もいれば、全駅訪問に邁進する人、駅名標(駅名が書いている看板)をひたすら撮り歩いていたり、秘境駅などなど…。ブログやSNSを見ていると、色々な人がいるもんだなぁと感心します。

——国鉄というワードが出てきて懐かしい気持ちになりました。鉄道は国を支える重要なインフラですが、同時に古い駅舎はノスタルジーを感じる代表格ですし、様々な建築様式が採用された建築作品のように感じます。駅舎だけでも十分鑑賞に値するものですが、鉄道という要素と合わさって、更に深い意味が出るものでしょうか。

Solanoさん:どんなに長い歴史がある駅舎でも、洒落た洋風駅舎でも、気取る事が無い市井の文化財であるのが偉大な存在と思います。建築的な価値がありながらも現代まで脈々と使われ続け、人々の生活に溶け込み誰でも気軽に利用できるのが大きな魅力です。ただ、あたりまえのように佇んでいるためか、あっさりと取り壊されたり、その直前にようやく注目される惜しまれる事が多いのが残念です。老朽化で施設更新の必要があるのは仕方がない事ですが。

奈良県橿原市、JR桜井線・畝傍駅の木造駅舎。天皇陛下、皇太子殿下が使われた貴賓室が往時のまま残る重厚な駅舎だが、取り壊しの危機に瀕している。(文章/写真とも Solanosさん)

——鉄旅ホテルのページも拝見しました。部屋から列車・電車が見えるトレインビューホテルも楽しそうですが、クラシカルなホテルが好きな私は「駅舎ホテル」が気になります。ズバリ、Solanoさん的視点でベスト3の駅舎ホテルを教えてください。

Solanoさん:まだ多くの駅舎ホテルに泊まった訳ではなく、ベスト3をあげる程でもなく申し訳ないのですが…。泊まった中でしたら、南海電鉄高野線の高野下駅の駅舎ホテルと、東京駅丸の内駅舎の東京ステーションホテルです。

高野下駅舎ホテル「NIPPONIA HOTEL 高野山 参詣鉄道 Operated by KIRINJI」の部屋の一つ「天空」。(文章/写真とも Solanosさん)
高野下駅舎ホテル、駅の気配やトレインビューと言った宿泊体験が忘れられず、今度は広い方の部屋「高野」に宿泊。(文章/写真とも Solanosさん)

——高野下駅は高野山に行く際に何度も通過していますが、駅舎ホテルが開業していたのは知りませんでした。東京ステーションホテルは有名ですが、建築好きとはいえ鉄道マニアではないのでなかなか止まる機会はなく…でも記事を拝見していると「いつかは!」と思いました。

東京ステーションホテル。重要文化財、東京駅丸の内駅舎の中に泊り、威厳と歴史ある駅舎をより身近に、深く感じる。復原に伴いラグジュアリーホテルにリニューアルされ、より質の高いホテルに。(文章/写真とも Solanosさん)
重要文化財の駅舎、東京駅丸の内駅舎。レンガ造りの印象深い駅舎は、復原工事で3階部分が再建された。巨大な建築物でありながら、左右対称の均整の取れた造りや細かな装飾が美しい。(文章/写真とも Solanosさん)

Solanoさん:高野下駅の方は、きれいにリノベーションされながらも、そこはかとなく古い造りを残したり、車両の部品を使った内装が楽しいです。また、列車の音や駅の気配じられ「ああ、駅に泊まってるんだなぁ」と実感できます。東京ステーションホテルは外観だけでも、丸の内駅舎の偉大さは感じられますが、三つしかない重要文化財の駅舎の中で一夜を過ごせる高揚感と、内部からしか感じられない歴史をより身近に感じられるのが味わい深いです。まだ泊まっていないですが、天竜浜名湖鉄道・二俣本町駅舎の中にある「INN MY LIFE」に、いつか泊まりたいです。

 

私のような鉄道好きにはいいとこ取りの旅

——「106日間北海道一周!自転車&キャンプ旅行」には驚きました。読み物としてかなり面白いです。ただ、理由は述べられていましたが、自転車で旅をするのはそう簡単ではないと思います。凡人は実際にはなかなかしない自転車での北海道一周を実際にされたSolanoさんのパワーはどこから来たものでしょうか。

Solanoさん:実は自転車ありきではなかったんですよ。自転車は目的でなく手段と言った感じです。1989年に初めて北海道を旅して以来、北海道に魅せられ何度も通うようになりました。主な手段は鉄道など公共交通機関だったのですが、その内、ちょっと違う旅もしてみたいと思うようになりました。また、キャンプや放浪の旅のようなものに憧れ、いつしかキャンプ道具積んで北海道を旅したいと思うようになりました。車やオートバイという手段もあったのですが、一日に数百キロ進むのは速すぎて嫌で、もっとのんびり進みたいと思っていました。かと言って歩きは荷物が重く疲れそう。そこで半ば消去法で出てきたのが自転車でした。

Solanoさん:1990年台前半にも1回、短期で北海道を自転車で旅した事はあります。しかし、自転車に関しては全くの素人。さらに普段これと言ってしているスポーツもありませんでした。自転車なので、まあ何とかなる、ぶっつけ本番で鍛ながら走ればいいと気楽と言うかなめている部分はありました。幸いにもこれと言ったトラブルも無く、旅の終わりには真っ黒に日焼けし、足の筋肉がガチガチの歴戦のチャリダーに仕上がりました。DAHON K3を購入するまで、その2回以外、本格的な自転車旅行をした事はありません。だけど、今こうして自転車に再び辿り着いたのは 今思えば、私の中に自転車に魅かれる何かがあったのかもと思います。

——「駅と駅舎の旅写真館」をされてだいぶ経ってから、自転車を利用し始めたように思います。駅舎巡りに自転車を利用し始めたきっかけは何でしょうか。

Solanoさん:色々あるのですが、ローカル線だと次の列車まで2〜3時間、ひどいと朝昼晩位しか列車が無いダイヤも今や珍しくありません。そういう路線の駅を効率よく巡りたいと思ったのも1つです。その気になればレンタカーという手段もあったのですが、鉄道好きなので、列車という手段は絶対に捨てたくありませんでした。また、車窓から見える街や何気ない風景が気になっていました。「あの道の先に行くと、何があるんだろう…」と。そんな風景の中に身を投じてみたいと、いつも思っていました。なので折りたたみ自転車と共に鉄道で旅をできたらなぁと 長い間、漠然と思ってはいたのですが、遂に実行に移したと言った感じです。

岡山県津山市、JR因美線・知和駅。昭和初期築の木造駅舎越しにDahon K3を記念撮影。(文章/写真とも Solanosさん)

——DAHON K3を選ばれた理由と、どのような利用方法か教えてください。

Solanoさん:ずばり軽さとコンパクトさです。折りたたみ自転車の中でも約8㎏と軽く、折りたたむとスーツケース位の大きさのコンパクトさはまさに輪行のための自転車。少し立客がいる程度の車内なら、持ち込んでも迷惑でないのではと思います。14インチという小径車は初めてで、乗り辛いくはないかと不安はあったのですが、ショップで試乗すると驚く程違和感が無くしっかり走ったので、購入の決め手になりました。

Solanoさん:当初の目的の駅巡りにももちろん活用しています。更に駅や鉄道沿線から離れ、今まであまり目が向かなかった所にもどんどん行けるので、旅の楽しみが広がりました。日常では健康のために通勤で使っています。自転車置場が無く、路上駐車だと盗難の心配があるので折りたたんでロッカーの片隅に置いています。

——自転車通勤して職場のロッカーの片隅に置かれているなんて、専門誌で取り上げられそうな憧れのDAHONユーザー像ですね。では、輪行の便利な点や、逆に不便な点をリアルに教えてください。

岡山県津山市、昭和初期のままの原形をよく留めた素朴な木造駅舎が残り、映画「男はつらいよ」のロケが行われた事でも有名なJR因美線・美作滝尾駅。大好きな駅舎で、4回目の訪問はDahon K3と共に…(文章/写真とも Solanosさん)
鳥取県鳥取市、JR因美線・用瀬(もちがせ)駅。用瀬は因幡街道の宿場町。輪行の旅で、素朴でありふれているけど、そこはかとなく古き良き味わいを残した街に出会う。(文章/写真とも Solanosさん)

Solanoさん:やっぱり鉄道の旅と自転車の旅を同時に楽しめる事です。特に私のような鉄道好きにはいいとこ取りの旅。列車だけだと、どうしても鉄道沿線かそこから歩きかバスでいける範囲内に限られがちでしたが、それに縛られず、ルートは無限大。行動範囲が広がりました。不便な点は、輪行だと、自分の席より自転車を安定して、なおかつ他人にできるだけ迷惑を掛けない場所に置く事が優先になるので、たまに座れない事があります。あと折りたたみ自転車の中では最軽量の部類とは言え、荷物を詰め込んだ小型のスーツケース位の重量はあるので、それを持ち上げるのはやはり重いです。駅ではバリアフリー施設のありがたさを身に染みて感じます。DAHON K3も転がし輪行ができればと思います。

——日本の主だった鉄道会社では「折りたたんで専用の袋に収納する」が旅客営業規則にもあるルールですからね。乗客の多い都市部では仕方がないとしても、地方ではいつか(サイクルトレインではなくて日常的に)緩和されることを個人的には切望しています。

 

これまで訪れてきた駅もK3と再び訪れたい

——撮影されるうえで何か気をつけていること、苦労されていることがあれば教えてください。個人的にはローカル線は本数が少ないので、列車と撮ろうと思うとかなりの時間を待たされる、忍耐が必要だろうな、など思います。

Solanoさん:列車はメインでなく、駅のワンシーンとして撮っているので、来ないなら来ないでそれほど困りません(笑)。駅はやはり多くの人々が集まる施設で賑わってこそ。人がいてこそ駅本来の情景というものがあると思います。だけど外観や造りを記録として撮影したい時、人がいると撮影し辛いなと思います。見知らぬ人にレンズを向けられるとたいていの人が不快に思うものでしょう。人はそのうち少なくなったり、途切れたりするので、忍耐強くその瞬間を待っています。車が目の前にドンと駐車されているとなかなか動かないので、あきらめて撮れる範囲内で撮っています。

——ロケ撮影あるあるですね。一部のマナー違反の撮り鉄の方のようにならないために、大人らしい行動は心がけたいですね。これから輪行を始められる方へのアドバイスなどはありますか。

Solanoさん:アドバイスできる程のベテランでも無いですが。でも無理のないプランを立てるのがいいのではないでしょうか?沿線の景色や空気感を愉しみつつのんびり走って、行きたい所があって、ふと目にしたところに興味を魅かれ立ち寄って、美味しいものを食べて…となると意外と距離は走れません。私の場合は、疲れ過ぎないで楽しく走るには、一日30㎞程度までが1つの目安かなと思っています。

——最後に、今後のSolanoさんの駅巡りに関する夢を教えてください。

Solanoさん:これまで訪れてきた駅も折りたたみ自転車・Dahon K3を持って再び訪れたいです。それぞれに素晴らしい駅ですが、輪行の旅で訪れ駅から走ると、好きな駅で新しい思い出ができますし、その駅や地域のまた違った魅力を発見できそうでわくわくします。

 

「駅と駅舎の旅写真館」
*この記事で紹介している情報は、2022年12月時点の取材に基づいています。

この記事を書いた人

チャイ職人△Te28ok

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