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サイクルツーリズムは形を変えながら広がっていく - 観光振興における自転車の可能性

サイクルツーリズムと称して 観光振興に自転車を活用する取り組みが、国土交通省による推進にあわせて地方自治体でも広がっている。特にここ数年はコロナ禍に伴う観光トレンドの変化により、密を避けたアクティビティとしてサイクリングに注目が集まっているように思う。全国で多くの自治体がサイクルツーリズムに取り組んでいるが、ノウハウがなく何から手をつけて良いのか分からないというケースが見受けられる。ネットで検索してみると、予算の確保の困難さやマンパワー不足も指摘されている。

今回は、その土地の持つ自然や文化、産業などを地域資源として自転車を使った地域活性に繋げる、戦略立案のプロを取り上げる。株式会社nada promotionの代表取締役、平山雄一さんだ。サイクリストには、2014年から2019年まで開催された埼玉県主催の大型自転車イベント「埼玉サイクルエキスポ」を外部プロデューサー的立場で支えた代表人物と言えば、イメージが掴みやすいだろう。

ポテンシャルは高いが情報がずれている

——地域振興にサイクルツーリズムって実際どうですか。

平山さん:どこの地域でもサイクルツーリズムに期待し、活性化を望んでいます。ただ、可能性は非常に高いが、残念ながら地域活性をやる側が自転車のことに詳しくない。例えば山が多くて坂があるのに一般的なシティサイクル(いわゆるママチャリ)をレンタサイクルとして導入するとか。サイクルツーリズムで人が来て地域活性するよね〜というイメージだけが先行していて、実際にどんなお客さんが来てどういう自転車だとその地域に良いのか、というところまではまだまだ意識されていない。で結局、サイクルツーリズムはイマイチだよねという地域は今もシティサイクルを置いていて、それじゃ分からないですよね。

平山さん:自転車選びだけでなく、サイクリングコースも問題で、とかく国道など大きな道を走らせようとし過ぎます。本当だったら田舎のちょっと街なかの小さな道とか、あまり車の通らない道の方がいいのだけど、どうも車で走る観光コースと自転車が一緒のような状態ですね。地域振興で交通インフラをバンバン作ることは今の時代できないけど、50km、60kmを移動してくれることをすごく期待しています。どちらかというと自転車好きの人やメーカーさんというよりは、地元側がもう少し勉強しないとダメだよね、というところはひしひしと感じますね。それがいちばん大きいかな。で、うまくいっていない。サイクリングコースをたくさん作ったのに誰も走ってくれない、と。シティサイクルで峠越えは無理があるし、女性をシティサイクルで走らせるのに国道は怖いと思います。そのあたりの感覚がサイクルツーリズムで地域を盛り上げようとする側に足らないのをよく感じます。10kmとか20kmとか無理無理…みたいな方でも電動アシスト付き自転車に乗ってもらえば何十kmも走れる、といった考えがない。利用者の楽しみ方をもう少し勉強すれば良くなると思います。

平山さんが紹介する形で、埼玉県で展開していた自転車の楽しさと地域の魅力を全国に発信する広報キャンペーン「LOVE bicycle SAITAMA」(埼玉県県民生活部広聴広報課)とTernがコラボし、ポタガール埼玉が秩父のモダン建築を巡る旅を情報発信した。

平山さん:レンタサイクルを借りる普通の観光客と、自転車好きでとにかく走りたい人との差がまだなかなか分からなくて、どんな人が来ても同じサイクリングマップ、同じ場所というのがもったいない。そういう意味で言うと、サイクル系メディアやメーカーさんがサイクルツーリズムのアドバイザーで入ってくると良くなると思います。あと、用意すべき設備も分かっていなかったりします。私が携わっていたところの話だと、手前には地域住民用の屋根付き駐輪場があって、サイクリスト用のサイクルラックは駐車場の端っこの方で遠くに野晒しで。その辺は、メーカーさんや自転車業界の方々が地域とコミュニケーションを取れればもっと変わってくると思います。交通インフラがない地域がたくさんあるので、周ってもらうという意味では自転車のポテンシャルはとても高い。ただポテンシャルの高い割に情報がずれているので、うまくいっていない状態です。

——サイクルツーリズムに取り組むうえで、土地によって向き不向きなどありますか。

平山さん:大きくはありませんが、自転車の種類を適切に選べていないため、不向きな土地があると感じる人はいると思います。山の多いところをシティサイクルで走るのはきついが平坦なところだと大丈夫。買い物をさせたいのであればカゴがある。土地そのもので向き不向きはないが、その土地にあった自転車選びが大切です。

——狭いエリアだと自転車は不要、などはどうでしょう。

平山さん:自転車の使い道を知らない人たちがいると、そういう話にもなりますね。バリエーションがまだ伝わっていないのでしょうね。自転車の存在が身近すぎるのだと思います。例えばバス釣りでボートを導入する場合、誰もボートのことを知らないので1から勉強しますが、自転車って誰でも乗っていて身近すぎるので、自分の知っている範囲で判断してしまう。自転車の種類や楽しみ方の違いを考えない、勉強していない気がします。

——自転車の種類とその楽しみ方がポイントということですね。

平山さん:日本にはたくさんの自転車の種類があるし、楽しみ方にもバリエーションもありますが、あまり知られてない、伝わっていないですよね。例えば車だったら、アウトドアには四駆がいいとかスピードを出すならこれ、子どもがいればミニバンがいいって用途によって選ぶようになりましたよね。自転車は、乗る側は選ぶようになったけど、地域で導入する側、提供する側はまだ知らない。そこがもっと普及すれば、もっと楽しい地域活性に繋がる。せっかく種類があるのだから、それが伝われば良いですね。

——ミニベロ、特に折りたたみ小径車だとフリーサイズのものが多いので身長を問わずどなたでも乗れて、レンタサイクルでも使いやすいと思うのですが、その辺りもご存じないことが多いのでしょうね。

平山さん:そうですね、ミニベロがフリーサイズで、バリエーションが多いことは知られていないですし、ディスカウントショップやホームセンターの安くて全然走らないイメージが強いので、山道は走れないだろうと。なので50km、60kmを走るという話をしても自分のシティサイクルのイメージで、ミニベロでは無理だろうという返答がよく返ってくる。小径車は走らないという思い込みが強いですね。

高知県(観光振興部観光政策課)からの依頼でTernが制作した、輪行を組み合わせた室戸岬までのサイクリング記事からのカット。平山さんの紹介により、様々なところで行政と民間(自転車ブランド)が繋がっている。

——中には、きちんと知識を持って正しく導入しているところもありますよね。

平山さん:あると思います。そういうところはうまくいっていて、利用率も高いと思いますし、サイクルステーションもよく考えて作られていてサイクリストにも評判が高いと思います。メーカーさんが自治体向け講習会、使い道教室などすれば良くなると思います。

——実際に案件として動かすのは難しいですよね。

平山さん:行政では年度予算があって年度の途中では動かせません。9月くらいに来年度の計画を立てて、積算して、議会にかけるので、その順番に付き合えると形になっていきます。そういう意味で言うと0から始める地域では1年とか1年半とかかかるので、動かすのに大変ですよねと言われることはある。ただ田舎と言われる地域での地域活性では、交通インフラが充実していない、特にコロナ禍でアウトドア系が注目されている今だと、地域活性を目的とした自転車の活用は昔と比べると難しくはないです。導入する側から見ると自転車はアウトドアのアクティビティの一つで、キャンプ、グランピング、バーベキューといったカテゴリーの中に自転車、サイクリングが加わってき始めたという状態です。そういう意味で言うと昔のように自転車だけで何をするのかというのではなく、キャンプ場に行って自転車に乗るのも楽しいよねとか、バーベキュー場に行くのに自転車があると便利だよねという感覚で、楽になってきています。自転車だけ、サイクルツーリズムだけに絞って地域活性をしようとすると、先進的に取り組まれている地域以外ではハードルが高いが、キャンプ、バーベキュー、トレッキングといったアウトドアに1アイテムとして入れると意外と早いですね。そこを考えずに自転車業界の方は自転車だけで地域活性を進めようとするので、ハードルが高くなります。

平山さん:アウトドアブランドと一緒に何かするのは、行政としてはとてもやりやすい。キャンプ場の整備、グランピング施設の整備って、それなりにお金がかかりますよね。でもその中でレンタサイクル、自転車の導入、サイクリングマップを作ることを入れるのは、施設整備費全体を考えるとそれほど大きくはない。自転車をアウトドアの1アイテムとして捉えるのが重要だと思います。入口はキャンプ場だけどゴールはサイクルツーリズム、という考え方ができればハードルは低くなります。

——サイクリングコースを作りたいけど途中にお手洗いがないとか、交通量のわりに道路が狭くてビギナーには危ないといった場合はいかがでしょうか。

平山さん:確かにそういう場所は地方にも多いですが、どこでもいいからサイクルツーリズムをしようとするからそういうことになります。自転車だけでなく、歩こうがレンタカーだろうが、休憩施設は必要になります。キャンプ場がある、湖畔の散策路がある、町並みを散策する。そういうところじゃないところでコースを考えようとしても、休憩所がない、となる。そこは作り手側の知識が必要になります。最近は地方に行けば行くほど、散策路や道の駅、街なかの観光スポットなども増えているので、そこを繋げれば絶対に作れます。点と点を繋げるのが下手なだけです。海外の人によく言われるのが、日本ほど公園や駅でこんなに綺麗なトイレを普通に貸してもらえるところはないと。それを日本人として考えれば、ちゃんとコースは作れるはず。道が狭い、交通量が多いのも地元の人は分かっている。地元の人も子どもたちにそこを走らせてはいない。そこは危ないからこっちの道を走りなさいと、裏道を走らせている。メイン道路をサイクリングコースにしようとするから難しいのだと思います。

 

形だけ作っても継続させるのは難しい

——外部プロデューサー的立ち位置でどういったことをされていますか。

平山さん:他の方が何をしているのかは分かりませんが、私が外部プロデューサーとして心掛けているのは、コーディネーター役と通訳。例えば、地域の人たちとメーカーの人たち。地域の人たちはこんなところを走らせたいと言い、メーカーの人たちはロードバイクがある、クロスバイクがある、グラベルがある、ミニベロがある、eBikeがあると専門的な話をする。お互いの知識がないと、話がずれるんですよね。私の役割は、こっちの言うこととこっちの言うことをどう繋ぎ合わせるかのコーディネート、調整力。あと、こっちの言っている意味、山が綺麗なんですよ、サイクルツーリズムに取り組みたいんですよ、それはいいことですね、って日本語だから通じるんですよ。でも実際に見たら、峠の凄い坂で、休憩スポットもなくて、コミュニケーションがずれているんですよね。一方は、シクロだから行けます、ミニベロでも全然行けますよって言って、もう一方は、ミニベロって何だ、そんな小さなタイヤだと走れないだろうと思うわけです。言語が同じだから表面的には話せているけど意味がずれていて、ミニベロでも変速があって、電動アシストもあって、普通にシティサイクルよりも走れますよ、っていう本当の意味を伝える必要が出てくるので、私はその通訳係だと思っています。そこをきちんとしないと、ずれたままになっていい結果にならない。メーカーさんと話して入れたけど、結局高い自転車を買わされて終わってしまってるよ…となる。

——アキボウがCSR活動の一環でサイクルツーリズムに取り組んでいる自治体にも外部プロデューサーの方が入られていて、その方も広告代理店の方なのですが、どういう経緯でそういう方が多いのでしょうか。

平山さん:多いのは代理店系を辞めた人、雑誌社、メディアを辞めた人、あとは地域活性に明るい大学教授とか。代理店は過去にプレゼントとか、自治体の仕事をとってきている関係があって、行政のことが分かりやすい。メディアも、アウトドアをやりたい、なら某アウトドア雑誌の編集長なら相談できそう、っていう場合が多いですね。私のようなケースは珍しいのかも。

——平山さんはどういう経緯で今のような案件を手掛けられているのですか。

平山さん:高知県の場合はPRの案件からで、特殊かもしれません。埼玉県の場合は、大手代理店の外部ブレーンとしてプレゼンしていたら結局この人じゃんとなって、ブランディングのお手伝いをするところから始まりました。そういう自治体案件に関わっているとそれが実績になって、他の県からも声がかかりやすくなります。

——自転車に関係するところでは、これまでどういった案件に携われましたか。

平山さん: 高知県だと最近は宿毛市のサイクリングマップの開発やサイクルステーションのアドバイザー、同じく高知県のほかの地域ではサイクリングに関連する施設開発の基本計画などです。サイクリング向けロードマップを作ったけど誰も走ってくれないという相談は多いですね。国道ばかりでなく古民家の多い旧街道を走らせると良いのですが。都市部でいうと埼玉県、戸田市では親子載せ自転車で事故が多いのでどうすれば良いか、などあります。あとは、言えるのだと片山右京さんがチェアマンを務めるJCL(一般社団法人ジャパンサイクルリーグ)関係の仕事などですね。

平山さんが外部プロデューサー的立場で支えていた埼玉県主催の大型自転車イベント「埼玉サイクルエキスポ」。

——成功事例や、見えてきた課題などはいかがでしょうか。

平山さん:サイクリングステーションの改修はうまくいったと思います。例えばバイクラックはどこに置けば良いか、あとは水洗い場が必要など、ちょっとしたアイデアでお金もかかっていないけど思った以上に使われて、効果が出ている。逆にちょっと上手くいっていないなと思うのは、もっと大きな施設でレンタサイクルなどにも取り組んで、運営マニュアルもしっかり作って、アイデアや企画は悪くなかったが、実際の運営は地元の指定管理者になるので蓋を開けてみるとマニュアルが守られず、もうできないと止まってしまっている所もあります。パッと作ったりイベントをしたりはできますが、運営に自分が携わるのではなく地域に渡す必要があるので、継続させるのが難しいですね。

——自転車のメンテナンスに自転車販売店さんのサポートが必要になるなどもありますよね。

平山さん:例えばビールだとマイスターみたいなものがありますよね。自転車もメーカーさんが研修などをしてくれれば、地元で全部できるように変わる気がします。先にも言ったように自転車は身近なものなので取り組んでもらうまでのハードルは低いのですが、それはあくまでもシティサイクルの感覚で、それ以上知識を増やす必要性がないと思われているところが課題ですね。

 

今後のサイクルツーリズムの可能性は

——話が戻りますが、地域活性のためには自転車はやっぱり良いのですよね。

平山さん:自転車を鉄道やバスで輪行するのはまだいろんな条件があったり、宅配も受けてもらえる運送会社が限られたりと難しい点もありますが、交通インフラが脆弱な地域が地方では多いので、長距離を移動してもらえる自転車はとてもありがたいですね。地域活性の相談を受けた時に、移動手段を考えるとベストは間違いなく自転車です。凄い可能性を秘めていると思います。

——来訪者の反応、実施地域での意識の変化はどうでしょうか。

平山さん:今の時代の人たちって、交通アクセスはなくても綺麗な景色を見たいという思いはある。以前はそこにレンタカーという選択でしたが、今は健康に対する意識が高くなったし、レンタサイクルを用意している地域も増えたので、来訪者も自転車に乗るハードルが下がってきている。受け入れ側では、交通インフラに加え、隣同士の地域が広域連携して周ってほしいという意識が強くなっている。ただそこはまだシティサイクルしか無かったりするので課題になっている。ひと昔から見ると、自転車を活用したいという考えは増えていて、ただどうすれば良いかという情報が少ない。来る人は自転車で周りたいと思っているけど、受け入れ側の知識とのギャップがまだある状況ですね。

——もっとこんなところだと可能性がありそうなどありますか。

平山さん:今は田舎というか地方での話が多いですが、これからはもっと中核都市で自転車の活用が増えると思います。例えば札幌とか福岡とか。都内ではシェアサイクルが増えましたが、地方の中核都市にはまだそれほど無い。田舎で峠を越えるなんていうニーズもまだありますが、中核都市の都市内観光での拡大を期待しています。ただそれには課題があって、中核都市では地域のバス会社やタクシー会社の存在がある。来訪者の移動手段が自転車に代わってしまうと困るわけです。博多なんて世界一のバス王国だったりしますからね。その地域の既存の交通手段とどう共存させるかがこれからの課題になりますし、そこがクリアになればすごく面白いことになると思います。

平山さん:よく私がバス会社の方にお伝えしているのが、自転車を積極的に載せてはどうかと。例えば自転車を載せるのに300円徴収するとします。来訪者は払いますよ。どこまでバスを利用してもらってどこから自転車を利用してもらうか。タクシー会社も同じです。ビジネスモデルをどう作ればいいのかが見えていない。そこが見えてくればやる可能性は大いにあると思います。

——逆の発想ですね、ためになります。では最後に、日本のサイクルツーリズムは今後どうなっていくと思われますか。

平山さん:期待する側から言うと、どんどん増えていくと思っています。日本人の観光は、インバウンドもですが、街なかにいたくない、もっと日本的な風景、原風景を訪ねたいという思いが強い。アウトドアもそうですが、その時に交通インフラがないので自転車の利用が増えてくる。つまり今イメージされているサイクルツーリズムではなく、もっと地域間の移動を楽しむ交通手段としてのサイクルツーリズムが増えてくると思います。サイクルツーリズム自体が旅行のカテゴリーの一つではなく、山の上からの景色を見たい、バーベキューで川に行きたいから自転車を利用する。サイクルツーリズムが目的、ゴールではなく、ロジスティック、交通インフラとしての自転車の利用が増えると思います。

平山さん:課題はメンテナンス、自転車の種類、相互間移動。まだ乗り捨てができずに、行って帰ってくる必要があります。また自転車を導入済みの地域では、最近は情報発信が課題になってきています。今後はレンタサイクルの稼働率もポイントになってきます。あとは先ほども出ましたが、地元の既存の交通インフラのことを考えないと戦うだけになってしまいます。私は例えば、レンタカー屋さんが自転車も貸せば良いと思っています。その辺りが今後のサイクルツーリズムに期待するとこであり、超えてほしいところです。

 

*協力 株式会社nada promotion
*この記事で紹介している情報は、2022年12月時点の取材に基づいています。

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