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割烹料理店の女将が自転車タクシー?! 日本文化を「自転車のまち堺」から世界へ

自転車タクシーというものをご存知だろうか。自転車を活かしたまちづくりを推進している大阪の堺市で、割烹料理店での食事や刃物作りの見学など、自由度の高いコース設定もできる自転車タクシーが話題になっている。今回はその自転車タクシーを使って堺市の観光を盛り上げているチクロヴォーチェの代表、中上愛さんをご紹介する。

「割烹 秀」の前に停まる自転車タクシー。

ものの始まり なんでも堺

——堺市は、機械金属で優れた知識と豊かな経験をもっていた「鉄砲鍛冶」たちが自転車部品の製造にあたったことから、自転車産業発祥の地と言われるようになりましたが、元々は、2019年に世界遺産に登録されたことでも有名な古墳を作るために必要な工事用の鍬(くわ)や鋤(すき)を生産するために鉄の加工技術が発達したことを今回調べていて知りました。ところで中上さんは「割烹 秀」の女将で、着物の着付けなどもされていますよね。そんな和服の似合う中上さんが自転車タクシーの運行に携わるようになったところから教えてください。

中上さん:5年前に堺区がドイツ製ベロタクシーの走行実験をしていて、その報告会に参加したことがきっかけになります。堺には歴史深く素晴らしい観光スポットが数多く点在しているのですが、それぞれを歩いて巡るには少し遠いですしそれらを結ぶ交通手段、ループバス等がありませんので自転車タクシーで巡ることが出来たら良いのではと思いました。また、報告会では、国内で塾帰りのお子さんを自宅へベロタクシーで安全に送り届ける活動の例や、欧州でのカーゴバイクによるデリバリービジネス成長のお話を聞き、観光利用だけでないラストワンマイルのニーズや買物難民問題への活用など、自転車ならではの細やかな対応や可能性を感じました。

堺の伝統産業である「自転車」を活用して、区内の回遊性を高め、地域の活性化に資することを目的とした「自転車タクシー走行実験」が堺区区民評議会関連事業として2018年11月、12月に実施された。

中上さん:堺には世界的な自転車の企業様や堺の自転車産業を担ってこられた企業様が多くありますので「自転車のまち堺」として堺ならではのおもてなしを堺産の自転車タクシーでご案内したいと思い、堺区や企業様と車体の開発時から関わらせていただき、2022 年3月に運行開始となりました。現在の車体は堺区が所有しており、自転車タクシーの運用を堺観光コンベンション協会へ委託し、コンベンション協会から運行の委託を受けているのが私ども チクロヴォーチェ(La Ciclo VOCE)です。

——実証実験では日本でもよくイベントなどで目にするベロタクシーを使われていたようですが、堺で今走っている自転車タクシーは他で見たことのない可愛らしいデザインをしています。どういったコンセプトで作られたのでしょうか。また、チクロヴォーチェという名前がとても気になるのですが、どういう意味になるのですか。

中上さん:車体本体のデザインは家族型ロボット「LOVOT」でグッドデザイン賞を受賞された根津考太氏(znug design)のもので、コンセプトは街の景色になじみ、道行く人たちに愛されるアイコニックで愛嬌のある優しい乗り物というものです。外装のデザインは吉居いづみ氏(石原写真館)が世界遺産のある街ということで「和柄」と「堺」にこだわり素敵に仕上げてくれました。

車体前面は大阪で初めての世界遺産である古墳をロゴにしてポイントに、側面は着物でおでかけした際に着物に似合うような和のデザインに、「堺」という文字を自転車の車輪と組み合わせられた。堺は「ものの始まりなんでも堺」と古くから言われており、堺発祥のモチーフとして和傘がデザインされている。 画: 野村亜紀子

中上さん:名前については、チクロ(Ciclo)はイタリア語で自転車、ヴォーチェ(VOCE)は声という意味なのですが、ヴォーチェには噂(うわさ)という意味もあるということで、うわさの自転車になるようにとの願いもあって、イタリア語的には間違っていると思うのですが、どういう意味か聞かれた時は「うわさの自転車」とお答えしています。また、ヴォーチェは5年前、「自転車タクシーが堺のまちを走ったら面白いし実現したいね」と話をはじめた当初のメンバー3人(老舗バーの店主、現在の事務局長、私)のうち、一昨年に亡くなられたバーの店主 福岡氏の「Bar VOCE」という店名でもあります。自転車タクシーをとても楽しんでくれていましたので、ずっと一緒に走っていられるようにとチクロヴォーチェ(La Ciclo VOCE)と名付けました。

「Bar VOCE」店主 福岡氏

中上さん:昨年 11 月に、車椅子を利用されている 80 代のお母様と娘様からご予約がありました。車体は着物や海外の民族衣装でご乗車されることも想定し低い設計となっていますので、お身体にご不安がある方も楽にお乗りいただけるようになっています。また、前部の椅子を折りたたむことで、空いたスペースに車椅子を乗せることができます。ドライバーにはボランティアで協力いただいている消防士さんや郵便局長さん等、地域に密着したお仕事をされている方がおられますので安心してご乗車いただけます。

折りたたみ式の車椅子も載せることができるので、多くの方が利用できる。
車体の外装には広告を入れることもできるので、純粋な交通広告のほかイベント等でも利用しやすい。

和食と和装と観光を繋げる

——観光名所が点在している堺は自転車タクシーで周遊していただくことで堺の魅力アピールに繋がると仰っていましたが、仁徳天皇陵を筆頭とした百舌鳥古墳群や歴史ある寺社、博物館や伝統工芸の体験など、本当に多くの魅力的なスポットが点在していますね。堺区の旧市街地は環濠都市としても有名で、その範囲内を巡るだけでも色々コースは組めそうです。

仁徳天皇稜とビジターセンター。

中上さん:自転車タクシーは堺の歴史、文化そして人を繋ぐ乗り物として、風景も楽しみながら移動できるちょうど良いサービスだと思っていますし、堺だけでなく日本の文化にも興味を持つきっかけになれば嬉しいです。チクロヴォーチェのサービスは主にチームのメンバーである市内事業者3社によりそれぞれ特色のあるプランをご用意しております。私が女将をしています「割烹 秀」では食事付きプランを提供しています。「堺の和体験 知輪-chirin-」では着物レンタル、コーディネート、着付け付きのプラン、「石原写真館」ではフォトウェディングプランもございます。また、チャータープランもございまして、コースの内容を自由に決めていただいたり、お任せいただくことも可能です。お客様が堺のどんな事を知りたいかによってコースを設定し周遊するプランとなっておりまして、三味線体験や和菓子店へ立ち寄ったり刃物作りの見学、お抹茶とスィーツを楽しんでもらったりとご要望に応じたオリジナルのツアーとなります。各コースの詳細は堺観光コンベンション協会公式サイトから「自転車タクシー」と検索していただいてチクロヴォーチェのプランをご覧ください。

「割烹 秀」食事付きプラン。写真は会席料理によるディナー。
「堺の和体験 知輪-chirin-」では着物レンタル、コーディネート、着付け付きのプランも(左)。昼食は茶寮つぼ市で茶粥ランチを特別に2階の部屋で(右)。
「石原写真館」によるフォトウェディングプラン。洋装プランもあり。

——昨年 12 月は「自転車タクシーで巡る堺イルミネーションモニターツアー」をされていましたね。堺市役所前から堺駅方面へ電飾された道を走る自転車タクシーを見かけました。

中上さん:イルミネーションツアーや春に向けて企画中の桜ツアーは、普段の運行に加えての夜間の特別運行です。チクロヴォーチェのドライバーは本業をお持ちの方がほとんどのため、平日の昼間の運行は難しく、ご予約は土日祝日となっています。今後、学生さんや平日走れるドライバーの方が増えていけばと思っています。また、チクロヴォーチェでは、自転車タクシーでの周遊を通じて堺の魅力をお伝えしようと、学芸員の方などをお招きして堺についてのさまざまなことを学ぶ勉強会を「割烹 秀」にて月2回ほど開催しています。一般の方も参加いただけますし、ドライバーの方は少し深い所までガイドできるようにと、積極的に参加され知識を深めています。

「自転車タクシーで巡る堺イルミネーションモニターツアー」より。
2022年10月の堺まつりでは、堺の自転車タクシーにベトナム人女性が、ベトナムの観光自転車「シクロ」に中上さんが乗って、国際交流を図った。
左は堺のシンボル、旧堺燈台。日本最古の木造洋式灯台として国指定史跡になっている。堺には観光名所が点在しているので、自転車タクシーでの移動が便利。右は夜桜とのカット。
運が良ければカオナシに出会えるかも。

日本のおもてなしや文化を、堺から世界へ発信していきたい

——初めて中上さんにお会いした時、この上品な着物姿の女性が自転車タクシー?と驚きましたが、割烹料理店の女将だからこそ、堺に点在するお店や観光スポットをうまく巡る方法としてこのサービスに取り組まれていることが分かりました。

自転車を活かしたまちづくりを推進している堺市建設局サイクルシティ推進部の貝塚さま(左)と。

中上さん:「ものの始まりなんでも堺」というように、南蛮貿易が盛んだった時代はきっといろんな物、ことが堺から日本全国へ広まっていったと思います。始まりのエネルギーとでも言いますか、堺はそんな土地なのかなと感じます。「割烹 秀」も変わらずこの地で70年以上時代の流れの中やってきました。そこに私が嫁いで来たのも意味があると思い、地域に根差したことをしていくのも良いのだと感じている日々です。

中上さん:堺には一休さんと地獄太夫の伝説や妖怪伝説など「実は・・・」な話がたくさんあります。堺は何度も焼け野原になりながらも、復興してきた街です。この地に立ってその時代へ想いを馳せ、ゆかりある所を訪れてみるのも良いのではないでしょうか。

中上さん:チクロヴォーチェは日本のおもてなしや文化を、堺から世界へ発信していきたいと活動しています。2025年の大阪関西万博では堺産の自転車タクシーで世界の方々をおもてなしたいと考えています。自転車タクシーで心地よい風を感じて堺のまちを巡ってください。ご予約お待ちしています。

 

*協力
 割烹 秀 大阪府堺市堺区一条通17-8
 堺観光コンベンション協会
*この記事で紹介している情報は、2023年3月時点の取材に基づいています。

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