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母になって、純粋にスポーツの楽しさを知った。元女子日本代表選手の活躍

2度のオリンピック出場、国内外のトライアスロン大会での優勝など、現役時代にはトライアスロン選手として第一線を走り続けた関根明子さん。2008年に現役を引退し、3人の子どもの母となった今でも、後進の育成に取り組むなど様々な活動を続けている。現役時代、トップに登り詰めたトレーニング方法や、現在、女性トップアスリートならではの目線で積極的に活動される原動力を伺った。

現役の頃は全く余裕がなくて、トライアスロンを外から見たことがありませんでした。それが引退して、子どもを産んで、専業主婦になって、だんだん子どもの指導に関わるようになったときに、初めてかっこいいスポーツやってたんだなって、まず自分で思ったんですよ。私こういうのやってたんだと思って。それが一番の印象でした。改めてすごいなと。

現役時代の関根明子選手

――引退後も、幅広い活動をされていますよね。その中でも、一番力を入れて活動していることを教えてください。

今は子どもの指導をメインでやっています。最初は全く子どもの指導には興味がなかったんですけど、そういう仕事が多くきていて、そのうちに魅力に気付いたというか。育てたりとか、見守ったりとか、トライアスロンを始めたばかりの子を指導するのが、楽しくなりました。純粋にスポーツを楽しむっていうかな、子どもたちがその場を楽しんでいるので、それが私も楽しいです。

――関根さん自身は厳しい現役時代を送り、トップアスリートに登り詰めた。キッズ教室での指導には、その頃の経験が活かされている。

私自身は、水泳からスタートして、陸上の長距離、トライアスロンと転向して行きました。子どもの頃は、水泳も選手コースがメインだったので、友達と放課後に遊ぶとか、部活動をするとかはなくて、家に帰ってすぐ水泳に行くっていう生活でした。高校から陸上を始めたんですけど、もちろん放課後は練習で、土日も試合か練習があって、強くなるためのスポーツしかやってこなかったので、今はほんとに新鮮です。スポーツをしている子どもの笑顔を見て、スポーツって楽しいんだっていうのやっと知った(笑)

子どもたちが楽しみながらスポーツに取り組めるよう指導している

――教え方も現役の頃の方法とは違いますか?

はい、全く違います。今、そうすれば良かったと思います。トレーニングばかりで専門的なことをやりすぎたので、もうちょっとゆとりがあって、幅があって、遊びの延長でトレーニングできてたら、燃え尽きることもなかったのかなと思います。スポーツの楽しさや基本を知らずに、常に鍛える、目標に向かう、目標に向かって今何を頑張るか、という形でやってきたので、今、子どもの指導を通じてやっと原点を見ている感じです。

――トライアスロンのオリンピック選手に直接指導してもらえるということで、関根さんのキッズ教室は人気がある。

キッズ教室は、多い時は20〜30人集まります。でもトライアスロンって、やってる子が少ないので、少ない時は4〜5人くらいの時もありますよ。目的もそれぞれで、普段水泳もバスケもやっていて、トライアスロンもその一つとしてやりたいという子もいれば、親が熱心で、最初からオリンピック目指してる子もいるし、ほんとにバラバラです。

――オリンピック選手に教えてもらえる機会があれば、親としては連れて行きたいなってなりますよね。

でも、ほんとにいろいろな子がいますよ。ジーンズを履いてきてたり。以前は、そういう子が来ると、やる気あるのかと思っていたんですけど、今はそれでいいんだなって思えるようになってきた、やっと(笑)。私自身の殻が破れたのかな。一応、自分のチームを作っているんですけど、コロナ禍の影響でストップしたままで、その間に他所のチームから依頼があってレッスンしたり、指導のイベントを徐々に始めました。そこに来る子は、募集が市だったり、学校だったり、バラバラなんで、来る子にも個性があって幅広いですね。トライアスロン知らなくてもくるし、ちょっとやってみようかなとか、こんなのあるんだみたいな。気軽に来てもらえてると思います。

様々な年代の生徒が集まる埼玉県ふじみ野市でのトライアスロン体験教室

――教室では、どんなメニューをするんですか?

スイム・バイク・ランの3種目を3時間くらいですかね。それも休憩とか着替えの時間もあるので、一つのレッスン自体は40分くらいです。

――指導の際に、どういったことが難しいですか?

子どもたちはどうしても興味が逸れるので、いかに遊びの延長で引き付けておくかっていうのが、毎回大変です。教えようとすると嫌がるので、いかに遊びながらするか。でも親は教えて欲しくてきているので、そこのバランスが難しいかな。

キッズ教室では基礎的な体の動かし方から教えている

関根さんはキッズ教室での指導を行いながら、スポーツ庁の委託事業である「女性エリートコーチ育成プログラム」にも参加している。ナショナルチームクラスでの指導を目指す女性コーチを対象に、様々なジャンルのスポーツで活躍している女性が集まって、コーチングスキルの向上を目指すプログラムだ。

――女性エリートコーチ育成プログラムに参加された時のお話を聞かせてください。

最初に、その話を知った時は、すぐにでもメダリストを育てたい、ナショナルチームにスタッフとして入りたいという気持ちでプログラムを受けました。でも、受けていく中で考えが変わってきました。メダルを取るアスリートって20歳とかその前後じゃないですか。その選手が、メダルを取れるレベルになるまでには、こういうトレーニングして、こういう時期を経た方がいいんだなって考えていると、だんだん遡って行って子どもを指導するようになっちゃったんですよ。実際に最初はオリンピックを目指すような子を募集したんですけど、トライアスロンやってる子も少ないですし、オリンピック目指してる子って一握りで、あまり需要がなかったんですよ。そのときにある人に、需要があって提供するわけだから自分を押し付けちゃダメだって言われて。
そのうちに私自身の考え方も変わってきました。もちろん出会いなので、子どもたちの中で目標ができたりとか、縁があってオリンピックを目指すような子が出てきたりしたら、見たいなって言う気持ちもありますが、今の指導も楽しいです。

アテネオリンピック出場時の関根明子選手

――育成プログラムでは、いろいろなスポーツの女性が一緒に参加するんですよね。

はい。私は2期生で、一緒に研修したのは、野球、ラグビーが3人、サッカー、バレー、トライアスロンでした。1期生の方は、バスケがいて、柔道がいてって感じで、今3期生がやっています。

――違う業界でコーチを目指している方と一緒に参加してみて、いかがでしたか?

ネットワークが広がりました。種目が違うので技術とかに関しては全然違うんですけど、人が伸びるってどういうことかとか、育てることとかなど、コーチングの技術は共通しているので、そこの研修を一緒に受けて、お互い切磋琢磨して、刺激しあうことができました。

――その後、一緒に何かやったりとか、交流はありますか?

プログラムが終わってまだ半年で、それぞれに皆、それぞれの場所で一生懸命やっている段階なので、まだ一緒に何かやるっていうことはないです。
でも私はラグビーの練習にすごく刺激を受けました。トライアスロンって個人競技で、ラグビーはチームプレイなんで全然違うんですけど、トライアスロンの水泳はコースロープがない中で、人とコンタクトしたりとか、隙間の空いているところを縫って先頭の方に泳がないといけない時があって、ラグビーの練習の空間認識能力だったり、コミュニケーション能力だったり、その練習メニューがすごくトライアスロンにあって、それを取り入れさせてもらいました。逆に、この間は、こういうところを鍛えたいんだけどっていう相談があって、じゃあトライアスロンだったらこう言うメニューあるよって教えたりとか、そういう支え合いはありますね。

――楽しかったですか?

楽しかったです。海外研修も行きましたし、研修に海外から女性のトップコーチを招いてくれたり、他の競技でコーチングされている方を呼んでくれて、コーチングの技術を習うことができたので、ものすごく楽しかったです。普段は、どうしても自分の競技だけで、専門的なことをやってしまうので、すごく視野が広がりました。
印象に残っているのは、研修期間中に行ったカナダです。そこで習ったのが、マルチスポーツについての素晴らしさでした。カナダでもあまりに早く子どもが専門的なトレーニングに入りすぎて、燃え尽きたりとか、故障が多くて問題になっているそうです。なので、その頃にいかにたくさんのスポーツを経験して、投げたり、体を捻ってジャンプしたり、ボールを蹴ったり、基礎的な技術をたくさん得ることによって、そのあと専門的なスポーツにいったときの伸び率が全然違うというデータが出ていました。それにすごく感銘を受けまして、私の練習でも、一見トライアスロンに関係のないようなラグビーのコースやってみたり、大縄やったり、ボールを投げたりを取り入れてます。その延長で、一緒の研修を受けたメンバーから教えていただいたラグビーやサッカーの練習メニューを取り入れています。

ご自身の経験を活かし、また積極的に研修プログラムに参加することで、次世代の育成に真摯に取り組んでいる様子が印象的だった。しかし、関根さん独自の指導方法は、自身が現役時代に出会った指導者の影響も大きい。

――ご自身が現役の時に出会った指導者などで、印象に残っている言葉やスタイルはありますか?

海外のコーチなんですけど、現役時代に1年間、カナダのコーチについてもらってカナダと日本を行ったり来たりしていました。シドニーオリンピックが終わってすぐ、カナダに行ったんです。そのコーチはすごく面白くて、指導者として上から言うんじゃなくて、お互いに対等で、喧嘩もしていました。世界選手権に一緒に行った時には、私はレース前日で緊張しているのに、コーチは旦那と2人で遊びに行ったんですよ。川下りみたいなアクティビティに。それで、その時に私はすごく腹が立ったんです。そんな場合じゃないだろって(笑)でも今考えるとそれがすごく良かったんですよ。集中する時は集中して、オフはオフでいいって言うか。日本のコーチって四六時中、一心同体で、同じ釜の飯を食う感じなんですけど、海外のコーチは全然そんなことなくて。その時は、日本のコーチのスタイルが染み付いていたので、なんて不謹慎だと思ったんですけど、今考えたらあれで良かったなと思います。だから私も今それを目指しています。あくまでも主体は自分だから、必要なときに必要なものを提供したらいいんだっていう。
同じ水泳のコーチで前日本新記録保持者だった千葉すずさんが、カナダにトレーニング留学した時の手記を読んだんですが、レースにもついてこないし、ベストが出ても出なくても関係ないとか、日本のコーチングとは違って、信頼関係の上で必要なときに必要なものを提供するスタイルに感銘を受けました。自分が主体で、日本みたいに上下関係があって、常に与えられるものじゃなくて、対等で程よい距離感があるなって。それこそが自立した選手が育つと思います。今まで考えていたコーチングスタイルがわーって崩れた瞬間でした。

――それが今、子どもの指導にも活かされているんですね。

みんな真面目なんですよね。学校体育の延長で来るので、話を静かに聞いてるんですけど、もっと喋ろうよ、遊んでいいよって思ってます。始めた頃は、練習と練習の間で、わーって遊んじゃうのがいけないことって思ってたんですけど、最近は、子ども本来らしくていいっていうか、やるときだけ集中したら、あとは自然のままでいいっていう。元気でいいなって思えるようになって、そういう変化がありました。大人しくなくていいよって、もっと野生を出しましょうっていうか、ありのままでいいんですよっていうか。

鳥取県鳥取市でのイベント。活躍の幅は全国に広がっている。

――関根さんの今後の目標も教えてください。今後、機会があればエリート選手の育成もやっていきたいと思いますか?

そうですね。やっぱり出会いだと思いますね。タイミングがきたら、私自身、そういう部分も多く経験してきたので、私の経験したものが活きるかな、与えられるかなと思います。

――ご自身の経験のどういった部分を伝えたいと思いますか?

練習に取り組めば取り組むほど、たくさんやることが増えると思われがちですが、結局はいかにシンプルになれるかっていうのが大切だと思います。目標に向かって、そぎ落としていく行為なので、そういうことは伝えたいなと思います。研ぎ澄ませる、シンプルになる、委ねるというか。分かりにくいかもしれませんが、私のイメージだといろいろ足りないから付け足していくではなくて、そぎ落としていくんです。トップに行くと、そういうのが多くなってきて、だから研ぎ澄まされるというか、そういう感覚なので。そこにいけたから、グッと伸びたというか、突き抜けれたような気はします。

――印象に残っている、ご自身で頑張ったことや、誰かからサポートを受けたことを教えていただけますか?

現役時代に、合理的な体の使い方を習いに武道の先生のところに行っていました。古武術ってわかりますか?小さな人が大きな人を投げるんです。それって筋肉ばかりに注目していると絶対に体が小さい人の方が弱いんですよ。だから、本来は投げれないんですけど、いかに体を合理的に動かして、少ない筋力でパワーを出すかっていうのを習っていました。武道の考え方って研ぎ澄ませていくっていう考え方なんです。西洋だと、例えば私が海外のコーチに着いた時は、「明子、細いから筋肉つけましょう」という感じで足していく発想なんですよ。だけど日本の考え方って、文化もそうですけどシンプルにそぎ落としてく。武道の先生の影響はすごく大きいです。

――最後に今後やってみたいことや、目標にされていることを教えてください。

小さい子どもや初心者からトップまで、レベルを問わず教えられるようになりたいです。今までのスタイルで強くするためには、1人の選手につきっきりになるじゃないですか。だけど、私は海外のコーチから影響を受けたこともありますし、武道の先生から影響を受けたこともあって、必要なときに必要なアドバイスを、お互いに信頼関係を作って与えたいなと思います。そして自分で自己マネージメントできるように選手を育てていくっていうのが目標です。あとは、今まで自分が経験してきたことや、スポーツの素晴らしさを伝えていきたいので、講演活動とか、文章を書いたりもしていて、表現する仕事もやっていきたいなと思っています。コーチングも表現だし、書くことも表現なので、コーチングだけに囚われず、表現することをやっていきたいと思います。

――何を表現して伝えていきたいですか?

言葉にしても、表現にしても、指導にしても、その人の成長というか、幸せになれるようにしたいです。その人が自立して、発展していくためのお手伝いのためのいろいろな表現をしたい。表現することでお手伝いをしたい。それが私が今まで経験した内容が活きてくることなので。私が今まで経験したことで、その人の発展を応援したいと思っています。トライアスロンを通じてですね。それは軸にしていきたいです。

関根さんはご自身の経験を活かし、後進の育成に取り組まれている。スポーツの面白さや楽しみ方を子どもたちに教えられるのも、世界で活躍したトップ選手ならでは経験や、指導者との出会いを通じて得たものがあるからだと感じた。女性エリートコーチ育成プログラムへの参加など、コーチングスキル向上への取り組みも積極的にされており、今後の関根さんが指導した選手の活躍にも期待が膨らむ。

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