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今、サイクリングに行きたい「安芸灘とびしま海道」

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風情ある景観や島グルメ、ヒルクライマー必見の展望台など、しまなみ海道に並び、サイクリストが注目する観光スポット「安芸灘とびしま海道」。おすすめのサイクリングコースや絶景ポイント、ご当地のうまいもんなど、その魅力を地域活性化活動に取り組む斉藤孝穂氏に伺った。

斉藤氏はNPO法人「瀬戸内サイクルメディア」を運営し、呉市豊町地域おこし協力隊に参加、HITひろしま観光大使にも就任され、地元の瀬戸内をサイクリングを通じて盛り上げる活動をされている。

「しまなみ海道を走って、とびしま海道に来ると「いい」って言われるんです。「こっちの雰囲気が好き」という人もいるくらい。」

――斉藤さんはとびしま海道の御手洗(みたらい)の観光協会で、ガイドをされているんですね。

はい、大体1時間ぐらいでパッケージングしてますね。全部紹介しちゃうと3時間ぐらいあっても足りないです。

――サイクリングツアーもされているんですか?

サイクリストだから気づけた景色とかってあるじゃないですか。そういうガイドブックに載っていないところとか、サイクリスト目線で見る観光を一般の人向けにやっています。

――企画はご自身でされるんですか?

そうですね。サイクリングルートやイベントなど、プランをデザインするのが僕の能力です。で、それを仲間と実施します。

――なぜ呉市の自転車を使った地域活性化活動に取り組んでいるんですか?

友人が乗り出したことがきっかけで、自転車に乗り出したのは12年くらい前です。それまで広島市内でタクシー会社の運行管理者をしていましたが、実家の呉市も含めて自分の住んでいるところに全く興味がありませんでした。それが自転車に乗り出して行動範囲が広がると、自分が住んどる地域がめちゃめちゃいいってことに気づいて。何年かするうちに観光ガイドができるレベルまでになっていました。

最初は仲間内で始めた自転車だったが、SNSでチームを募集するとあっという間に大きな団体になったという。3年ほどで300人が参加し、手がけたイベントはこの10年で大小合わせて200以上になる。とびしま海道を知り尽くした斉藤氏に、魅力的な観光スポットを教えていただいた。

気候が良く走りやすいのはもちろん、手付かずのものが残っている情緒ある島々が「とびしま海道」の魅力だ。安芸灘大橋と通り、とびしま海道で最も呉市寄りの「下蒲刈島」。歴史的な建物が立ち並ぶ三之瀬地区は、さまざまな見どころがあり、ぶらぶらしているだけでも楽しい。

「白雪楼」
下蒲刈島の東部に位置する三之瀬地区にある。蘭島閣美術館の裏手に位置し、三之瀬地区を一望できる「白雪楼」は、元は江戸時代末期に京都から沼隈(現:広島県福山市)移築された建物。その後、竹原に移され、現在は下蒲刈島に寄贈され移築された歴史ある建物。

2階からは蒲刈大橋が見え、眺望が素晴らしい。
三之瀬地区にはたくさんの観光スポットがあり、入り口への狭い路地を見落とされる方が多いという。2階からの景色は一見の価値あり。
元は漢学研鑚の場として使用されていた。高尚が寝ながら天井にしたためたという筆。(複製)
1Fで抹茶とお菓子がいただける。入館料の400円に含まれているから驚き。職員の方も気さくで近くの見どころを教えてくれた。
蘭島閣美術館も見応えがある。

「みかん直売所」
三之瀬地区の手前にある旧広島藩下茶屋役宅の前には、手作りの直売所があった。ネコの人形はこちらのスタッフの手作り。みかんとレモンの収穫時期で、ところどころに直売所を見つけた。

「喉乾いとらん?」と試食用のミカンをいただいた。皮が薄くとても甘い!
直売所横の建物の隙間には、昨日産まれたばかりという子猫。

「とびしま海道で唯一の信号」
とびしま海道の7つの島を合わせて、信号はたった一つしかない。

学校教育のためにも必要ということで設置された。
呉市からとびしま海道に入る際には安芸灘大橋を通る。橋を抜けた先が信号だ。橋の通行料は島内の指定されたお店で1,000円以上買い物や食事をすると、往路の通行レシートと引き換えに復路の回数券がもらえる。引き換えが必要なので、忘れないように注意が必要だ。
島の外周路は海との距離がとにかく近い。島の中に向かう農道には坂道も多く、クライマーも満足できる。

――とびしま海道の魅力的なスポットを教えてください。

特にここが一番というところはなくて、逆に「展望台はどこがいいですか?」とか、「自転車でしっかり走るにはどこがいいですか?」とか、ポイントで聞かれた方が答えやすいです。「全部違って全部いい」って言っちゃうんで(笑)。

――どう周るのがいいですか?

とびしま海道は外周路を全部きれいに走っても95kmくらいの距離です。試しに外周路を走ってみるのも手ですよ。オリジナルで作っているサイクリングマップもあります。

斉藤氏が監修したものや、市が監修したものなど、観光に便利な島内マップが観光センターなどに設置してある。

――マップがあると分かりやすいですね。

このマップは実は、そんなに丁寧じゃないんですよ。わざとポイントだけをポンと置いておいて、どこにあるんだろうって近くに行って探してもらいたいと思っています。そしたら、道を聞いたりして地元の人と交流が生まれるでしょ。

御手洗地区には古い街並みが残っている。

大崎下島の御手洗地区は江戸時代に港町として栄えた。当時の推進力は風や潮の力。その風待ち、潮待ちの旅人が滞在したのがこの港町だ。現在でも明治~昭和の建物が残っており、町並みを歩くとまるでタイムスリップしたかのような感覚に。「どこから来られたんですか?」と地元のおばあちゃんに話しかけられ、垣根のないコミュニケーションにあたたかな気持ちになった。

昭和の頃まで、この港には多くの船が往来していた。
元は病院だった建物をリノベーションしたゲストハウス醫(KUSUSHI)。
古い街並みをのんびり走るサイクリストも多い。
今も残る古い街並み。
御手洗昭和館では懐かしい駄菓子や玩具が見つかる。
左手に見える建物ではスコーンを販売。御手洗町は写真スポットとしても人気が高い。
御手洗町出身で日本人で初めて自転車で世界一周した中村春吉は御手洗町の出身。(写真は当時の自転車をイメージして作成されたもの)
島内を回るスタンプラリーイベントでは斉藤氏が中村春吉のコスプレをしていたことも。
農道を登るとみかん畑が広がる。
歴史の見える丘公園からは御手洗地区の街並みと瀬戸内の海が一望でき、天気の良い日には四国まで見える。

――とびしま海道にはどのような方が来られますか?

今は観光船が来ているんですよ。SEA SPICA(シースピカ)っていうラグジュアリーな観光船です。30~40人くらいが降りられて、旅行会社で予約した人のガイドを私が頼まれます。

――どこから来る方が多いですか?

広島港発着なので、県内の方が多いですね。県外の方は、そういう観光船があるという認知がまだ進んでいないので車で来られます。関東圏や関西圏からもよく来られますよ。

――関東からも来られるんですね。

はい。横浜とか千葉、神奈川あたりは結構来られてます。週末になると御手洗のあたりは観光客で賑わっています。

――自転車でも走りやすそうですよね。

橋で繋がっているからね、船の時間を気にせずに走れるのもいいです。それにとびしま海道の岡村島から、しまなみ海道の大三島にもフェリーが出ているんです。それで愛媛の今治にも行ける。アクセスは多彩なルートがありますよ。よく、とびしま海道ならとびしま海道、しまなみ海道ならしまなみ海道っていうエリアで考える方が多いですが…。実はめちゃめちゃ自由で、僕らは航路も熟知しているので、多彩に組み合わせて楽しんだり、それをPRしています。

とびしま海道には実にさまざまなアクセス方法がある。車に自転車を積んで行くのもよし、しまなみ海道からフェリー旅もよし、体一つで行って現地でレンタサイクルをすることもできる。
とびしま海道レンタサイクルでは、ラインナップに女性向けや電動バイクなども揃い、乗り捨てや配車も可能で気軽にレンタルできる。

レンタサイクルは、5車種から選ぶことができる。初心者にも嬉しい電動自転車もラインナップされている。
配車や乗り捨ても可能。詳しくは、最下部の「とびしま海道レンタサイクル」のリンクをご覧いただきたい。

――NPO法人を立ち上げたきっかけを教えてください。

イベントで様々な人と交流することで世界が広がりました。平穏に生きたいって思っていたのが、違うなって。自転車が、興味のなかった地元を繋げてくれて、人を繋げてくれて、住んどるだけでええんかねってなってきて。なんかしたいって有志を呼びかけて会議していくうちに、NPOを作りましょうかってなりました。
NPO法人なら仕事をしながらでも、資本金がなくてもすぐに活動できる。活動趣旨もたくさんあって取捨選択できるので、我々のやりたいことができるように何でもできるようにして始めました。法人格を取ったおかけで自治体や、法人と話ができるようになったのは良かったです。

――NPO法人では電動自転車を使ったサイクリングイベントもされていますよね?

長年、サイクリストによるサイクリストのためのイベントをしてきました。それが電動アシスト自転車が出てきたことで、ここ数年は一般観光客向けのミニマムなイベントにシフトしました。

――変わったきっかけは何かあったんですか?

どうやったらサイクリスト以外の人を巻き込んで、自転車いいなって思ってもらえるかを考えていました。電動アシストなら、これまでは健脚の方しか連れて行けんかった丘の上とかも行けるじゃないかってなって。
これまでも数人~数百人までさまざまな規模のイベントをやったんですけど、大きなイベントになるほど僕のやることがないんです。もちろん楽しいし、達成感はあるんだけど、自分のやりたいことって何だろうって考えた時に、もっとディープに僕が知ってるところや面白さをお伝えして共感してもらいたくて、今はミニマムな方をやっています。

NPO法人瀬戸内サイクルメディア代表の斉藤孝穂氏。

――一般の方も増えてきているんですか?

増えていますよ。40代が一番多くて、あとは30代、50~60代。男性も女性も来られてます。ただサイクリストと一般の観光客はメインの置き方が違います。

――どう違いますか?

一番は、サイクリストは自転車に乗るのがメインなんです。自転車に乗っていかに心地いいか。時々、立ち寄りポイントがあって美味しいものがあって、いい景色があったら満足なんですよね。
でも一般の方は観光がメイン。それも最近は「景色見て、美味しいものを食べて楽しかった」じゃなくて、「ここに来た意味を共感できて、来てよかったという何かを感じてもらう観光」にシフトしています。それなら一軒家を借りて、ただそこに1週間くらい滞在する。暮らすことが観光ということも、これからはやっていこうと考えています。

――面白そうですね。

世の中、人が住んで歴史があるところって必ずエピソードがあるんですよ。この町には何もないよ、寂れてるよってところにも絶対ある。発信してないだけで。それを見つけて引っ張り出して、僕が自転車に乗ってたからこそ知って、これいいよ、これ美味しいよっていうことに導いて合わせてあげるのがガイドの仕事だと思っています。僕が初めてそれを見た時に感動したことは、他の人もそうだと僕は信じてます。お客さんが思っていたところで「うわぁ」っていってくれたら、めちゃくちゃ楽しいです。

上蒲刈島は一周約35km。外周路は一部を除いて平坦な道が続き走りやすく初心者にもオススメ。海沿いを走ることができ、とても気持ちの良いコースになっている。

海が道路のすぐ外側に広がっている。
釣り人しか行かないという道を辿ると見れる大迫力の豊島大橋。
上蒲刈島の北側を走るルートもオススメ。ブルーラインは引いていないが食事スポットなどもある。
海水浴場やグランピング施設など島内には多彩なアクティビティがある。
大崎下島の隣の岡村島には、ナガタニ展望台に至る斜度30近い激坂が。転んだ人が滑り落ちたという噂も。

呉市にはサイクリング以外にもたくさんの魅力がある。その一つがB級グルメ。とびしま海道内にも食事ができるスポットが多数あり、観光と合わせてグルメめぐりも楽しい。地元だからこそ知っているお店やお菓子を斉藤氏に伺った。

「かつら亭」
上蒲刈島の北側を通る外周路にある漁師料理の店。店内にはイケスがあり瀬戸内の新鮮なお魚をいただける。

外周路を走っていくとすぐに見つかる。
お刺身、天ぷら、鯛のカマの煮付けがセットになった「かつら御膳」このボリュームで2,200円とかなりお値打ち!
店内からは瀬戸内の海を一望できる。この景色を見ながらの食事はより一層美味しい。
店内には新鮮な魚が泳ぐイケス。
駐車場にはサイクルラックが設置してある。

豊島のお好み焼き「マリちゃん」
お好み焼きも美味しいが、醤油ベースのタチウオラーメンが隠れた名物とのこと。営業時間は10:00-15:00(水曜定休)だが、材料がなくなり次第終了するとのことなので、気をつけていただきたい。

豊島はタチウオラーメンが名物。
細い路地を抜けるとお店がある。休日にはサイクリストが長蛇の列になることも。
タチウオラーメンの時期は逃したが、鯛出汁のラーメンもあっさりしてとても美味しかった。付け合わせのハヤトウリの漬物も絶品。

「直売所」
グリーンレモンとミカンの直売所が島内に点在する。試食をしているところも多いので、お気に入りのミカンを見つけて購入できる。

無農薬や低農薬で育てられたレモンは皮まで食べられる。

「海軍カレー」
呉市は海軍の街として栄え、港には軍艦が停泊している。大和ミュージアムや海上自衛隊呉資料館など、海軍ゆかりの施設も多く、地元のスーパーには様々な種類の海軍カレーのラインナップが並ぶ。

お笑い芸人とコラボしたものまである。

「鳳梨萬頭」
斉藤氏おすすめの鳳梨萬頭(おんらいまんとう)はパイナップルのジャムを挟み込んだお菓子。

たくさんありすぎて紹介しきれなかったが、他にもおすすめのグルメをたくさん伺った。フライケーキ(アンドーナツのようなもの)やびっくり饅頭(今川焼きや回転焼きに似ている)、赤あんという赤いアンコも名物だそう。いが餅というおまんじゅうは蒸し立てが美味しいそうだ。地酒も豊富で地元のスーパーでもリーズナブルに購入できる。

――NPO法人の活動でメインはなんですか?

やっぱり観光なんです。自転車が関係した企画と運営が一番得意です。あとは自転車活用事業ですね。自治体や団体が自転車を使って面白いことがしたいっていうときにコンサルティングに入ります。

――できることが幅広そうですね。

いろんなことができます。でも肝心なのは自転車です。それを使って何がしたいか、予算や規模はどうかというのも聞いて企画を組んでいきます。

――今後やってみたいことはありますか?

コロナになってから人を集めるようなイベントができないので、オンラインで地元の紹介をやっています。動画や写真で観光スポットを紹介しながら、リアルで走っている部隊もいてラジオみたいに「どこかに着いたみたいです。じゃあ、ちょっと中継してもらいましょう」って喋ってもらったりします。

――オンラインでやる面白さはありますか?

参加意識を高めるために、地元の特産品を事前に注文いただいて、その生産者さんとのやりとりをしたりとか、チャットで意見をもらえるのが楽しいです。オンラインもそれで完結じゃなくて「もしコロナが明けたら絶対行きたい」って言ってくれるんですよ。

ビデオチャットで地元の生産者とも直接、コミュニケーションが取れるのが楽しい。

――脱サラしてこの活動をされるのに不安はありませんか?

給料は半分になったし、それは不安はあります。地域おこし協力隊にも入ったので、3年間で身の振り方も考えないといけませんし。でも不安になって、うわぁって思っとる時ってどういう時かと言ったら何もしてない時だって気づいたんですよ。こうしたらいいかな、とか前に進んでたら不安じゃなくなりました。

――今後の目標を教えてください。

海外の人に来てもらうのが目標です。一番願っているのは長期滞在です。数週間から、何なら数ヶ月。アルベルゴ・ディフーゾってご存知ですか?

――初めて聞きました。

イタリア発祥で町全体がホテルになっている。田舎の集落に何軒か空き家があって、それをリノベーションして泊まれるようにしています。チェックインもチェックアウトも町の入り口でやって、あとは指定された家の鍵をもらってそこで暮らすというものです。買い物も地元の人と一緒、炊事とかも自分でやって暮らしそのものを楽しめる。観光客は、その島で暮らしている人の動線と重なって、まるでそこに暮らしているような感覚になります。

――楽しそうですね。

島の人たちも活性化されて、賑やかになって嬉しいです。それも観光客が押し寄せる嵐のような観光ではなく、数人の人が数日とか数週間そこに滞在して、まるで暮らしとる。新しく人がここに来て、暮らしとるみたいな雰囲気になる。で、中には本当に気に入ってしまって、移住する人が来るかもしれないっていうのを目指します。

――最後にとびしま海道を回るのに気をつけることはありますか?

この島のひとから見ると、橋で外と繋がったのはほんの10年ちょっと前です。それまでは島独自のルールがありました。交通意識も追いついてないところがあって、おじいちゃんやおばあちゃんがいきなり出てくるかもしれない。高齢者も多いんで、自転車で来るときには本当に気をつけて欲しいです。

関連リンク
NPO法人 瀬戸内サイクルメディア オフィシャルサイト
とびしま海道レンタサイクル

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