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自然素材を使った自転車のフレームビルダー
2022.07.01

アルミやクロモリ、カーボンなど自転車のフレームとなる素材はさまざまあるが、竹や木材でフレームを作るビルダーがいる。それも部分的にではなく、チューブやラグなどフレーム全体が自然素材で作られている。オリジナリティに溢れ、美しいフレームについてビルダーのジェルソン氏に伺う。
工房にはオリジナリティのあふれる自転車が

――自転車の設計はどこから発想するんですか?
最初は荷物を運ぶためにロングテールの自転車を作っていました。その時は全部、竹で作っていたんですけど、ちょっと柔らかかった。強度は充分だけど柔らかすぎてもう一つだなと思って、それでこの自転車は木で作りました。あとは荷物を載せやすいようにケースをつけて、安定するように重心も低くしています。そのためにフォークも無くしました。フォーク部分のパーツは台湾の自転車の展示会に出たときに紹介してもらったパーツです。これはテストで作ったものですけどね。
――フレームは木で出来ているんですね。
そう。鉄とかも使ってますけどね。車体をどれくらい長く作ったら乗りにくいかとか、素材やデザインのチャレンジで作りました。
竹で自転車を作るアイディアはどこから?


――モノづくりのアイディアはどこから生まれるんですか?
橋を見たり、建物の建て方を見て、どこに強度がいるかとかを参考にしています。
――もともと建築を勉強されていたんですか?
いや、全然です。出身はブラジルで14歳からパソコンの組み立てや修理の仕事をしていました。あとは専門学校に行ってプログラミングの勉強もしたけど、プログラミングはあんまり好きじゃなかった(笑)。面白いけど、コードを書いてソフトを作るよりハードウェアの方が好きだったから日本に来てからはモノづくりの仕事をやっていました。
――どんなきっかけで日本に来られたんですか?
21歳まではブラジルで働いていましたが、ずっと同じことばかりしているのが嫌で、勉強して新しいことにチャレンジしたいと思っていました。それで当時のお客さんに相談したら「外国に行ってみたら?チャレンジできることがいっぱいあるよ」って言われて、海外に行くことを決めました。
――チャレンジ精神旺盛ですね。
なんでも全力でやらないと意味ないと思います。だから、ビザを取りやすい国を調べて日本に来ました。当時はビザを取るのも難しかったですが、僕は日系人だったので日本には比較的来やすかったです。
――竹や木でフレームを作ろうと思ったのは何故ですか?
日本に来たときに、日本人の友だちが連れて行ってくれた京都の飲食店のディスプレイがめちゃくちゃ格好良かったのがずっと頭に残っていました。当時、「うわー、格好いいな!」と驚いていたら、竹で出来ていると友達が教えてくれました。そのとき友だちに「なんでこんなに綺麗に作れるの?」って聞いたら「日本ではこれくらい普通だよ」って言われてとても驚いたのが印象に残っています。
日本で暮らすようになって、自分が乗りたかった自転車がなかなか見つけられなかったので、それなら自分で作るしかないと思って素材を考えるうちに綺麗な竹で作るイメージが出てきました。当時は溶接の仕事をしていたんですけど、家に帰ってから溶接の仕事はしたくないし、家の中で作れる素材はなんやろと考えて、竹なら出来そうだしやってみようと思いました。
――フレームの色がすごく綺麗だなと思ったのですが塗装はどうされているんですか?
ハンドペイントでしています。竹の節の感じも1本1本違うので、同じものは作れないです。金沢の塗金箔とか漆とか、卵の殻とかも使って塗装しています。


どんな乗り心地だと思いますか?

――想像と全く違って、とても軽い乗り心地ですね。
乗り心地は軽いけど、フレーム重量はカーボンに比べたら全然重たいですよ。みなさんよく勘違いしているけど、フレームがしなって吸収するから軽く感じるようになっています。それから、チェーンステーには木を使ってます。木は弓のように整形していて、しなってエネルギーになるので軽く前に進む感じがします。だから長距離走ってもしんどくないし、早く走れます。硬すぎたり、柔らかすぎたりするとダメでしなりが大事です。
――かなり細かく計算して作られているんですね。
乗る人の好みよって合わせて作ることができますよ。硬めとか柔らかめとか、乗り心地がいい方がいいとか。僕は柔らかめが好きやけどね。全部、竹で作ったら一番柔らかくて乗り心地がいいんですけど、下りで60km/hくらいのスピードでは少しふわふわするので、もう少し硬い方がいいなと思ってチェーンステーには木を使っています。
――竹より木の方が硬いんですか?
そうですね。僕が作っているのは、乗り心地が良くて疲れにくい自転車なので、それは竹ならではで、他の素材ではなかなか出ないかなと思います。
――作り方はどうやって勉強したんですか?
自転車の作り方の本はあまりないので、造船を読んで材料とか使い方とか、作り方を勉強しています。
――船の作り方を見て自転車に応用できるのがすごいです。
最初はめちゃくちゃ苦労しましたよ。僕はブラジルのエンブラエルという航空機メーカーの創設者が好きで、その人ならどうするだろうって考えて参考にしました。そうすると飛行機みたいなすごいものが作れるのに、自転車が作れないわけないと感じて、船の作り方と、飛行機の作り方の両方を勉強して作りました。完成したフレームは、堺の試験場に持ち込んでJISの検査も通っています。
――竹のフレームをテストしたことはなかったんじゃないですか?
初めて持って行った時は、割れるって言われました。一日20時間、10万回、機械に揺られて試験して1回目は割れたんですけど、それからさらに勉強して改良をして2回目に持って行ったら割れませんでした。

――ほぼ独学で作られているんですね。失敗も多かったんじゃないですか?
チャレンジしないと面白くないです。僕は失敗とは言わないです。作り方が悪いだけ。
実際は99%くらい失敗ですけど(笑)。
モノづくりの大変さは実際にしてみないと分からないですね。価格だけ見て高いっていう人もいます。乗り心地が軽いので、重さを聞いてカーボンより重いことに驚く人もいます。僕も初めて作った時はこんな乗り心地なんだってびっくりしました。でも、それは言葉では伝わらないですね。実際にできたフレームを他の人に乗ってもらって、すごいなって驚いてもらえて、自分の感覚が間違ってなかったんだと思って。だからモノづくりは面白いです。
――オーダーでフレームを作れるんですよね?
フレームサイズもミリ単位で調整できるし、体が小さいとか、硬さの好みも要望にも合わせます。重要なのは前後にどれくらい重量をかけるかのバランスです。それが一番難しい。だから体の硬さとか、どんな走り方をするかとかを聞いて作っていて、完成は人によって全然違います。予算もお客さんと相談します。こちらが費用を提示するわけではなく、どんな自転車に乗りたいかとか、素材は何がいいか、形のイメージなども相談して決めます。この前は、自分の土地で取れた竹で自転車を作りたいっていう人もいました。
シンプルなものなら20万円台から、こだわる方は50万円くらいかける方もいますね。
――オーダーフレームでその値段なら安いですよね。制作にはどれくらいの時間がかかるんですか?
相談をして決めていくので1台作るのに時間はかかります。1台で大体2ヶ月くらいですね。
――素材の調達はどうされているんですか?
京都で職人さんが仕上げている竹を購入しています。しっかりと油抜きして乾燥してあるので強度も高いです。僕の作った自転車は壊れても100%修理できるのも特徴です。完成してからアクセサリーを作ってほしいとか、リフォームしてほしいという要望もありますよ。


チャレンジは続く
――竹や木以外の素材で、チャレンジしたいものはありますか?
カーボンファイバーで作るための実験をしています。これはヘッドチューブ用の型で自分で作りました。まずはガラスファイバーで作ってます。これなら透明なので、もし空気とかが入ってたら見えますしね。これをカーボンファイバーで作るとかなりの強度が出ますし、もっと早く作れるからコストダウンもできます。いろいろな作り方を試すのはキリがないけど面白いですね。

――型も手作りされているんですね。
これくらいはまだ普通な方で、大企業なら金属で型を作ります。これはガラスファイバーとか樹脂で作っているけど、昔のF1も小さいチームは車体をこれと同じような作り方でしていますよ。レース飛行機とか船も同じです。一度型を作れば、何台も使えるし、悪くなっても修理できます。
樹脂の型でも金属の型でも最後は人の手でポリッシュします。そこの上手い下手でかなり変わります。安いフレームは仕上げが甘いので触ったらわかりますよ。
――構想中の新しい自転車はありますか?
荷運び用の自転車の新しいものを考えています。キャリア部分を普通の自転車より長くして、ホイールも20インチくらいにして、子どもと一緒にキャンプに使えるようなものにしたいです。今の自転車(冒頭の写真の自転車)は大きくて重たいけど、少し小さくなるので軽くなります。服とかテントとかを載せとちょっとキャンプに行くような自転車をイメージしています。
――オリジナルの自転車でキャンプに行くのは楽しそうですね。
そうですね。フレームバックもありますけど、取り付けるとバランスが悪くなって乗りにくいので、新しい自転車は重心が下になるように設計しています。下にある方が軽く感じますよ。
早く走りたいならロードバイクが一番いいと思います。でも今作っているのは、速さではなくて、面白さとか楽しさです。いろいろな自転車を作って、乗って、お客さんにも意見を聞いて自転車を作るととても面白いです。飽きないですね。死ぬまでできるなって思います。

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