読む
バイクパッキング文化の伝道者と一緒に考える、バイクパッキングデビューのすすめ
2022.06.24

アウトドアにおけるUL化の流れや、こと自転車で言うと世界的なグラベルブームの影響なんかも相まって、ここ5年程度のうちに日本でもバイクパッキング関係のギアは急激に多様化、成熟され、「バイクパッキング」という言葉自体も随分身近になったように感じる。一方で、特にここ日本においては未だ発展途上の新しいカルチャーであり、発祥である北米などと比べても地域性や環境も大きく異なることからか、これから始めたい人にとってはまだまだ活きた情報が多いとは言えない中で、ある種のハードルの高さを感じるのが現状だ。
今回は、日本で初となるバイクパッキング本「バイクパッキングBOOK」の著者であり、自転車ツーリングを中心とした世界のユニークなブランド/ギアを数多く取り扱うALTERNATIVE BICYCLESの代表である北澤さんに、ビギナー目線でのバイクパッキングの始め方を一緒に考えてもらった。「バイクパッキングを始めてみたいけど何から始めればいいかわからない」という方は、是非一度読んでみてもらえたらと思う。

-まず、バイクに直接取り付けるバッグと一口に言っても、フレームバッグ、サドルバッグやハンドルバーバッグなどいくつかの選択肢がある中で、それぞれの特性や選びかたをお教えいただけませんか。
そうですね。大切なのは当たり前ですが自分の自転車に合うことですね。できれば友達の持っているバッグやお店で合わせられるといいかと思います。
最初から全部揃えるのも大変なので、例えば最初はスリーピングマットでテントを巻いてハンドルにバンドで括り付けるとか工夫してみてください。
フレームバッグは普段のライドにも使いやすいし一つあると便利です。比較的低重心で自転車の真ん中に荷物を配置できるので重いものを入れるのがいいですね。また、アクセスもしやすいのでライド中に使うものを入れるにもいいです。
サドルバッグは重心が高いので軽く、嵩張るものを入れましょう。うまくパッキングをするのが難しいので、頻繁に取り出すものは入れない方がいいですね。
-バイクパッキングに適した自転車や、どういうものを選んだ方がいいなどはありますか?一般的に言われるのは、計画するコースが未舗装路メインであればMTBやグラベル、舗装路ベースであればロードなどがあるかと思いますが。
日本だとどうしても舗装路メインになりますが、旅の道中に少しでもオフロードがあった方が非日常感が味わえるので、グラベルバイクがおすすめですね。

-では、北澤さんが実際にバイクパッキングを行うまでの流れを教えていただけませんか?
そうですね。基本的にキャンプ場を目指すのがいいかと思います。スタートまで車で行って、そこから出発しても翌日帰ってくるでもいいし、輪行だとさらにコースの自由度は上がります。
お勧めなのは、ルートの中に少しでも未舗装のオフロードを組み入れられたら最高に楽しくなりますよ。
それから、一度は本番と同じ装備で近所の公園とか河川敷でもいいのでちょっと走ってみるのがいいです。装備の問題や走っていて荷物の触れなどが起きないかなどにここで気付くこともあるので。




今回はバイクパッキングに興味があるビギナーの方に向けて、日程をベースにおすすめのギアや装備をモデルケースとして教えてもらった。
***********
case A : 日帰り
目的地でコーヒーを沸かしたり、ちょっとした料理を作ったりのデイキャンプから始めるのがいいかもですね。帰りがあるのでお酒が飲めないのが難ですが。。笑
この場合はフレームバッグに5〜7Lくらいのサドルバッグで身軽に行くのがおすすめです。軽い折りたたみ椅子があればハンドルに直接括り付けて持っていきたいぐらいですね。
case B : 1泊
泊まるとなると、実は基本的に1泊でも2泊以上でも荷物はそんなに変わりません。大切なのは荷物を持って行き過ぎないこと。バイクパッキングは自転車の軽快さとキャンプを楽しむものなので。
装備としてはハンドルバーバッグ、フレームバッグ、サドルバッグ(10L以上)にステムバッグやトップチューブバッグ、またフォークにダボがあればフォークバッグもあるといいです。それで150kmくらい走ったこともありますが、ビギナーということだとすると多くを目指さず、20〜30km /1日くらいから始めるのが良いのではないでしょうか。
寝床に関しては、雪山に行くわけではないので、Wウォールのテントよりも、より風を感じられるタープで寝たりがおすすめです。虫だけは嫌なので頭部にかぶるモスキートネットや小型の蚊帳などを使いましょう。ビヴィサックと呼ばれる防水の死体袋みたいな簡易テントも便利ですよ。これらはすべて、テントより軽く、小さいのも利点です。
それだとやっぱりちょっと心配という方は、シングルウォールのテントがおすすめです。そこもやっぱり軽さは重要だと思います。
あと食事まわりに関してですが、お湯を沸かすだけなら、カートリッジを使うバーナーよりも固形燃料やアルコールストーブがやはり軽いしコンパクトです。ネイチャーストーブと呼ばれる枝を燃料にする小型のクッカーも趣があっていいですね。
実は僕は冬にはバイクパッキングしません。どうしても荷物が重くなってしまうので…。それでも秋口に標高が高いところで雪に降られたことはありますが…笑。
虫も少ない方がいいので、季節的にはやっぱり春や秋がおすすめですね。無駄に荷物を増やす必要はないので、日本だったらコンビニをうまく活用して、ルート上での食料や水の補給を計画して下さい。
お酒が好きなら、軽くて冷やす必要のないウイスキーがおすすめです。ワインもいいですね。
それから、バッグは全てをパンパンにしてしまわないように。
ハンドルバーバッグやサドルバッグなど、スカスカだと走っていて左右のフレなどでグダグダになる部分はあらかじめ出し入れの少ないものを選びあまり旅程の中で開け閉めをせず、フレームバッグや自分が背負うバックパックなどで、途中で食糧など荷物が増えることを考えて、全体的なキャパシティに少し余裕を持たせてください。
case C : 2泊以上
前述しましたが、1泊でも2泊以上でも装備はほとんど変わりません。パンツとシャツと靴下のスペアが1組増えるくらいでしょうか。海外だったらコンパクトな浄水器が必要になったり、テンカラの釣り道具があったりすると楽しみも広がりますね。
冷え込む可能性のある時は、ダウンの靴下が軽くておすすめです。非常にコンパクトなのでほとんど荷物は増えませんが、足の冷えを抑えるだけで夜の快適さは格段に変わるでしょう。
まあ、続けていって、自分の快適なスタイルを構築することですね。
***********

例えば輪行+バイクパッキングの旅の場合は、輪行袋を裏返してグランドシートとして併用して使うなど、玄人ならではの軽量/効率化テクニックなども参考にしたい。







-昔は根っからのバックパッカーだったとうかがっています。そんな北澤さんが自転車ツーリングにのめり込むのは、ある種容易に想像がつく部分ではありますが、そもそも自転車で旅をしようと思ったきっかけは何だったのでしょう?
初めての海外旅行がインドの一人旅だったり、アメリカ留学の帰りに中米を回ってヨーロッパに飛び、ロンドンから上海まで陸路で旅をしたりと、旅はよくしていました。新しい旅のやり方をしたいと思って、自転車になりました。もっと現地をゆっくりとみたいと思ったんです。
自転車旅を始めてからは、国内も色々と旅したし、海外はモロッコを一周したりもしました。最初はかなり緊張しましたが、初めての海外の自転車旅は刺激的でしたね。
それで2010年ごろでしょうか、バイクパッキングという新しい自転車旅のスタイルを知って、実際にギアを取り寄せて使ったりし始めました。
-今では週に2回は山に出かけるとのことですが、その生活スタイルはいつからですか?
もう10年くらいでしょうか。週に3回くらいは山に行っています。普段はMTBでのトレイルライドやコースでのダウンヒルが主ですね。
コロナになって、バイクパッキングの回数は減ってしまいましたが、やはりそれでも行くと楽しいですね。非日常感、小さな冒険みたいな感じがたまらないです。
自分はクラフトビールが好きなので、キャンプ場の近くにブルワリーがあるところを探したりしています。最近行ったのは、長野の伊奈の林道ですね。キャンプ場もビールも最高でした!
-理想とするパッキングのスタイルや、北澤さんが考えるパッキング自体の良し悪し(上手い下手など)はあるのでしょうか?
バイクパッキングに限らずですが、走りを考えれば自転車は軽いに越したことはないので、ULの装備を参考に、軽いことをベースに、でもお酒が好きなので美味しいつまみとお酒は持っていっちゃうので、笑 そこは好き好きで…。
自分の周りだと、同行者もお酒が好きな人が多いので、それぞれ持ち寄ったツマミやお酒をシェアして、「俺のコレうまいだろ」なんて自慢しあったりが楽しいです 笑。
前回はバケットとチーズと白ワインで、焚き火でチーズフォンデュしたりしました。
最初は特に、友達や先達の装備を参考にするのも楽しいかと思います。





-これからデビューを考えているビギナーへのメッセージをお願いします。
若い頃は一人旅ばかりでしたが、今は気の合う友達と行くのが楽しいですね。色々と助け合ったりできるし。
なので、まずは慣れている人と一緒に行ってこの文化の楽しさに触れるのが一番いいと思います。
最近はバイクパッキングの得意なスタッフのいる変わったお店(笑)もあるので、そんなところで連れていってもらうとか。
-最後に、バイクパッキングの一番の魅力とは。
自転車は楽しいし、キャンプも楽しいんだから、これが一度にやれるバイクパッキングが楽しくない訳がないです 笑。
生活の糧とギアを全て自分で運び、目的地まで走り、大地に抱かれて寝る、その自己完結感というか、完全に自分がコントロールできるフリーダムなところこそがバイクパッキング最大の魅力だと思います!

北澤肯(きたざわ こう)プロフィール
1971年生まれ。オルタナティブ バイシクルズ主宰。英会話学校講師、フェアトレード・開発援助コンサルタントを経て、マウンテンバイクやバイクパッキング等オフロードな自転車アクティビティ関連のギアの輸入販売、イベント企画を行うオルタナティブバイシクルズを立ち上げる。SSWC(シングルスピード世界選手権)2015主宰。KEENアンバサダー、児童労働ネットワーク運営委員、奥武蔵マウンテンバイク友の会副会長を務める。クラフトビール、豆腐、コーヒー、キャンプが好物。二女の父。週に3回は山へ。
#LINZINEの最新記事