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Sight from the Saddle 今日は自転車でどこ行く? -大阪・茨木市-

今思えば自分が自転車が好きになった理由は、非常にシンプル。それは、そこに「自転車が見せてくれる景色」があったからだ。

ちょうど良い速度域、ちょうど良い移動距離、それでいて小回りが効く。子供の頃は、歩いてではたどり着けない遠くへも、自転車でなら行くことができたし、大人になれば、自動車の速度感や機敏さでは出会えない風景を、自転車でなら見せてくれることがある。今っぽくいうなら、気軽にリトリートできるツールとして最適なのだ。

とはいえ、自分は自転車をライフワークというには正直まだまだ程遠く、自転車で走ると言っても、自宅から行って戻ってこれる範囲となると、そこに新鮮さはあまりなくなってきている。近頃は急に暖かくなってきたし、久々に新たな「自転車が見せてくれる景色」を見たい。そう、まだまだ日本には知らない道が、景色がたくさんあるはずだ。

そう思ってまずはiphoneを取り出して、試しに「おすすめ サイクルコース」をGOOGLEで調べてみる。無数のサイクルコースが出てきたが、数が多過ぎて決め手にかける。どれもイマイチピンとこない。天邪鬼な自分は、誰もがレコメンドするサイクルコースに行きたいわけでも無いのだ。

そういえば学生時代、ヒッチハイクで国内を旅していた時も、その地域の訪れるべきスポットを教えてくれた人は、いつも地元の人だったな。「旨い店はタクシードライバーに訊け」じゃないけれど、やっぱり「良いコースはローカルのサイクリストに訊け」ではないのか。

知らない素敵な道に出会うためには、やっぱりその土地に根付いた「自転車の先輩方」を尋ねようと思う。

今回訪れたのは、大阪の茨木市駅近くに店を構えるKURASHI CYCLEの店主、木原さん。地元である茨木市で少年期を過ごしたあと、大阪市内でバイシクルメッセンジャーとして、まさに自転車をライフワークにしていた人物。

「店から行ける範囲で、僕をライドに連れて行ってください。」そう言うと「いいですよ。でも、走れるんですか?」と二つ返事で、でも少しいたずらな顔で返してきてくれた。「余裕ですよ。難易度高めで設定しちゃってください。」と言いたいところだったが、自分にとっては初めての試みなので、難易度は初級〜中級ということだけオーダーして、その日は店を後にする。

後日、「店のお客さんも一緒に連れて行っていいですか?」と木原さん。もちろんです。旅は道連れなんとやら、だ。

そしていよいよライド当日。ショップの前に集合すると、木原さんが噂のお客さん、宮崎さんと共に出迎えてくれた。

左がKURASHI CYCLEの店主、木原さん。右はお客さんの宮崎さん。


「今日は短時間で程よい充実感も得たい時に走る道を行こうかなと。今は駅の近くですが、30分ほど走れば、山に行けるんです。実はこの南北のコンパクトさも僕が茨木を気に入っている所です。」
実は今回、当日までどんなコースを走るかは、深く聞かないことにしていた。その方が変な心構えを持たず、自分がよりニュートラルな気持ちで楽しめるかなと思ったのだ。

木原さんはFUJIのグラベルロードのフラッグシップ、JARI CARBON 1.1 で参戦。ちょっと足を伸ばすライドは愛車のRICTHEYのクロモリに乗る事が多いよう。

代わりに、逆に自転車の方には心構えがある程度必要になってくる。コース内容を当日のお楽しみにするなら、自転車はある程度広範囲の路面に対応できるようなスペックの車体でありたい。もちろん、自分が乗りなれた自転車が一番であることは言わずもがなだが、マイペースでライドを楽しみたい時は、やっぱりグラベルロードがおすすめ。例えば山に向かってちょっとした林道であっても、突然石畳であっても、路面の状況を気にせずに自分の思うままに自転車を走らせることができる。例えばビギナーであれば、この安心感はきっと何物にも変えがたいはず。

さて、出発前とはいえ、やはりコースについては簡単な説明だけにしてもらって、早速店を出発する。

SPOT 01 安威川河川敷〜西河原公園
まずは茨木を大きく流れる安威川を渡り、河川敷の西側の道を北に上る。道路が整備されており、ウォーキングやジョギングを楽しむ人がちらほら。ぱっと見渡すかぎり、サイクリストは少ない。ふと水面に目をやると見れば水鳥の群れが目に入る。対岸には保育園児たちが散歩に来ていたり、何ともいえないのんびりした雰囲気が心地良い。
水との距離も近く、河川敷は非常にスペースにゆとりを持って整備されているので、所々広々とした空間がありながら適度に人々が行き交っている。この空気感も含めて、木原さんのお気に入りの景色の一つ。走っていると少しだけ路面の荒れたところにも出くわすが、訊けば川の水位が河川敷にまで上がることも多いため、基本的に路面は年中こう言う状態とのこと。そう言う面でもグラベルロードは安心ですね。なんていう話をしながら河川敷をそれる。ちなみに、桜の季節が終わるちょうどGW前頃にはこの辺り一面に菜の花が広がるようで、その頃にもぜひまた訪れたい。

河川敷から西にはずれる道に出てくるのは西川原公園。テニスコートや大きなグランドがあり、北側には屋外・屋内プールも。園内を小川が流れており緑も豊かなので、自然との一体感も適度に感じられる、地元の人たちに愛される公園だ。桜の木もあるので、春にはお花見にくる方も多いそう。駐車場をはじめ、トイレや自動販売機もあるので、小休止もしくはライドの起点にも良さそう。もちろん小さい子供たちも多いので、公園内は低速走行もしくは押して歩くぐらいが良いかも。

公園を過ぎ、しばらく北に登ると、高槻市に入る。塚原〜大和と住宅街を抜けて山のほうに黙々とペダルを進める。大阪薬科大学を過ぎ、府道115号(西五百住線)を進み、誰もが知るあのオリンピック選手も輩出しているフィギュアスケート名門校、関西大学高槻キャンパスの東側〜北側へと周囲をぐるっとまわって北に登っていく。茨木〜高槻は明治時代の早くから教育施設の創設が進み、大阪でも大学が多いエリアとして共に名を連ねる。ふと右に見える、無数の鉄塔群に圧倒される。関西電力の北大阪変電所だ。北大阪変電所は、黒部ダムの水力発電所から幾多の山野を越え送られてきた電気を中継し、大阪府北部から兵庫県南東部のエリアに送電しており、こう長245kmの日本最大級の長距離送電線「大黒部幹線」の最終地点だ。

SPOT 02 萩谷総合公園
府道115号に沿って引き続きペダルを漕いで山の方を目指す。スタートから10kmほどの、ちょっとした水分補給、休憩にぴったりの場所にあるのがこちらの萩谷総合公園。今回は休憩なので、入り口の駐車場のみでの滞在だが、なでしこリーグのスペランツァ大阪高槻のホームであるサッカー場のほか、野球場やテニスコート、全長約40mもあるローラー滑り台など、多様な楽しみ方ができる大規模なスポーツ公園。
自然が豊かで森林浴や野鳥観察なども楽しめる体験の森、観察の森などをはじめとした「自然系ゾーン」と呼ばれるエリアもあり、カエル池では天然記念物になっているモリアオガエルも観察する事が出来る。先程の西川原公園同様、こちらにも駐車場はもちろん、トイレや自動販売機もあるのでふらっと訪れるサイクリストも心配無用。

小休止を終え、再び自転車に跨がると「ここからはちょっと面白い感じです」と木原さんが言った。公園から少し戻った小道の入り口に見える「林道 車作線」の看板。木原さんの後を追って林道へと入っていく。

SPOT 03 安威川竜仙峡
看板から3kmほど走り、目の前に見えてきたのは、マス・アマゴ釣りの上り。釣り堀として有名な安威川竜仙峡は、上流ではアユ釣りを、支流である下音羽川ではマス・アマゴ釣りを楽しむことができる。こちらの施設は設置された公衆トイレがお粗末で有名のようだが、施設があるエリアからさらにペダルを進めて上り程なくすると少しきりっとした冷気が漂ってきて、山はいよいよ深まる。下方に聞こえていた川の音がより鮮明に聞こえてきて、少しペダルを止めてみる。木には丸い葉が愛らしいマメヅタがびっしりと一面に広がっており、思わず写真を撮りたくなる。山間部では決して珍しくない植物だが、出発からまだ30分と少ししか走らせていないことを考えて、改めて短時間で別世界に来たと言う実感が湧く。

少し先に行ったところに架かる、深山橋の脇から川に降りてみると、水の音だけがはっきりと聴こえる静かな空間で、橋が落とす影と差し込む光とのコントラストがより一層、自分だけの隠れ家を見つけたかのような気分を掻き立てる。まさに、車や徒歩ではなかなか出会うことのない空気感だ。

SPOT 04 権内水路
さらに1km少し走らせると、少し整備された道と看板が見えてくる。今から300年近くも前に、この地域の庄屋であった畑中権内と言う人物が、約20年の歳月をかけて整備されたと言われている灌漑用水路。2kmにも及ぶ大規模なこの水路を、権内が独力で完成させたと言うから驚きだ。この地域一帯は、安威川を下にして田畑が高地にあるためどうしても水の便が悪く、もとは米作に向く土地ではなかったそう。庄屋として地域の農民の苦境を何とか救いたいと考え、水路の工事を計画し完成させこの地の農業に大きく貢献した権内は、今でも村の住民から尊敬されているそうだ。そんな、歴史とロマンのある水路に沿って伸びる道には、左右から生えた苔が路面に美しい緑のグラデーションを作っており、先程まで少しだけ降っていた雨が、かえってその魅力を引き出していた。流れる景色はいわゆる山間の道ながら、道は比較的きれいに整備されており、なるほどサイクリングにもぴったりだ。

茨木駅近くのKURASHI CYCLEを出発し、この水路エリアを抜けるまで、およそ20km。程よい疲労感と充実感、そして少しの現実逃避感を同時に得ることができるライドコース。

帰りはひたすら下りで一路帰路へ。府道46号に沿って下って行けばわかりやすい。

もう少し走りたいと言う上級者は、水路を抜けた後、さらに茨木市忍頂寺スポーツ公園まで目指すといい。茨木

の間伐材で造られたバイクラックや近隣の周遊コースマップもあり、施設の館長が実はトライアスリートというのもあって、サイクリストにも優しい。

茨木市忍頂寺スポーツ公園の館長はトライアスリートでもあるのでサイクリストにも優しい。
KURASI CYCLE提供のレンタサイクルも。
地域の間伐材を使用して作られたバイクスタンド。


 

-そもそも自転車を仕事にしようと思ったきっかけはなんですか?
元々はプログラマーとして働いていたのですが、大阪市内に一人暮らしで住み出した頃から自転車でうろちょろすることが多くなり、もう少したくさん移動したいな、ってことでロードバイクを購入して。それ以来は市内散策するのをロードバイクでやっていた感じですね。その後、ちょうどピストバイクブームの影響もあって「PEDAL」っていうニューヨークのメッセンジャーを追ったドキュメンタリー映画をDVDで見て。ドロップアウトして、メッセンジャーという職業に至りました。その後、30歳になる年に自問自答があって、そのままプログラマーに戻るのもな…て時にちょうど求人募集していた8to8 (はとや)の八木さんに拾ってもらって、修行して、2016年に独立しました。

-サラリーマンからいきなりメッセンジャーっていうのが行動力ですね。ちなみに1日にどれぐらいの距離を走行されていたのでしょう。
その時はお客様とかに聞かれたら「1日に100kmぐらい走ってるって言え」って先輩たちから言われてました 笑。

なかなか含みのある言い方ですね 笑。近年、メッセンジャー大阪では少なくなってきているようですが当時の仲間とは交流はあったりしますか?
今のお店も週末は特に忙しくなるのですが、実は週一で当時の同僚に手伝いに来てもらったりしてます。聞く限りではコロナもあって社会的にもペーパーレス化が急激に進んで需要もかなり変化があったようですね。

コロナの影響を受けてフードデリバリーのスタッフが急増していると聞きます。元メッセンジャーとして、自転車屋として、彼らを見て思うことはあったりしますか?
そうですね。この近辺はフードデリバリーがやっとこれから普及していくところで近くにはいてないのですが、基本的にはあまり違いはないようには思います。自転車への愛情の有無で双方に違いがあるようにいう方もいらっしゃいますが、どちらもやっぱり自転車に乗ることが好きな人は好きですし。強いていうならサービスの向上に関しては、取り巻く環境が違うのもあって差があるのかなと思ってて。どちらも極論「接客業」である中で、当時僕らメッセンジャーはしっかりとコミュニティがあって、お互いにマナーなど結構注意しあってたりしていたので、サービスクオリティが自ずと向上していくことに作用していくのかなと思います。フードデリバリーのスタッフも、SNSを中心に独自のコミュニティもあるんでしょうけど、なかなかそれがサービス向上には繋がりにくいのかなって思ったりしてます。

なるほど。説得力あります。少し話が変わりますが、木原さんがそもそも影響を受けた文化とか人物っていてますか?自転車関係でも、それ以外でもどちらでも。
誰を挙げるかが難しいところですが…やっぱり音楽は自分の中では外せないので、そういうところで言うとハードコアパンク〜アメリカンハードコアあたりのカルチャー自体に影響を受けました。FUGAZIやCRASSとか。そのあたりに本も置いてあるんですけど、イアンマッケイのインタビューなんかはすごく影響を受けてます。全てを自分達でやるDIY精神というか。音楽的にはTHA BLUE HERBはかなり影響受けてます。僕の中では完全なブルースです。

魂の叫びですね。言われてみればこのお店もいい意味でDIYをそこかしこに感じます。っていうかよく見たらサブカルの要塞みたいにも見えますが…。
実は本やレコード、CDなんかも販売用として置いてたりもします 笑。もちろん、自分がしっかりお勧めできるもの前提ですが。実はそこに置いてあるclammbonなんかは店舗でしか取扱できないCDだったり。

コロナの影響もあって、いわゆる一般車ではなく、スポーツバイクを購入検討される方が増えていると聞きます。一般車とスポーツバイクの違いや魅力はどんなところでしょう?
機能的な違いは、皆さん調べられたりで理解されてると思うので…気持ち的にはどっちが良い悪いはあんまりないかなって思います。うちはジャンルとしてはほとんどの自転車を扱っているので「フレームに車輪ついてたら全部自転車」っていう考えではやらせてもらってます。その人が好きで乗っていたらどんなジャンルの自転車であってもそれが最良というか。

-間違い無いです。今日は回れなかった茨木のおすすめスポットを。
観光、ライドの目的地としてもポピュラーなところだと、ユニバーサル園芸さんとか、今改装しているけどエマコーヒーさんとかですかね。

ちなみに、現在一番使用頻度の高い愛車は?
最近は…自転車乗ってません!

-出た!全然いいですけど 笑。
スケボーで移動してます。なんか自転車では短すぎる距離の移動ばっかになっちゃってて…。

インフォメーションなどあれば
直近ではスケボーイベントを企画したりとかやってます 笑。自分は全然滑れるわけではないんですけど、文化としてすごく興味があって。その他にも自転車に関係ないイベント多めで企画したり、全然動けてないですがオリジナルで服作ったりとか、せっかくなので自分の好きなことをやりたいな、っていうのはあって。よければインスタとかチェックしてもらえたら…です。

茨木の老舗スケートショップもサポートに名を連ねる、屋外開催のスケートボードイベントの企画など、ローカルに密着した活動も積極的に行っている。
オリジナルで展開するアパレルBICYCLE MAFIA。

了解です!では最後に木原さんオススメのライド後に行きたいスポットを!

 

AFTER RIDE 01 レストラン 四季
茨木市駅から徒歩で行ける距離にある、安くて美味しい、レトロな雰囲気がなんとも言えない昔ながらの洋食屋さん。ランチ時間はもちろんだが、夕方からの営業時間でもしっかりと定食が食べられるのは非常にありがたい。ご飯を大盛りにすると、予想の斜め上をいくマンガ盛りに出会える。程よい疲労感を得た後は、こちらの定食をがっつりたいらげてカロリーリセット。安定の日替わりランチがおすすめだがそれ以外にも恐ろしいほどの定食メニューがあり、店主の懐の広さが伺える。そしてなんと生ビールが衝撃の250円。腹パン必至の定食とビールの組み合わせでも1000円でお釣りが来るのだから、恐ろしいポテンシャルだ。

AFTER RIDE 02 3TREE BREWERY
お腹がいっぱいになった後、それでもビールは別腹、と言うあなたがいたなら、自転車は翌日まで駅前の駐輪場に停めてしまって、こちらの店を覗いてみて欲しい。青年期を関西で過ごし、茨木のビールフェスティバル「麦音(ばくおん)」に感銘を受けながらもそこにローカル産ビールがないことに気付いた、ビール好きの店主の森さん。自らこの土地でブリュースタンドを起ち上げるために、地元の北海道へ戻り修行。2020年の9月にオープンながらすでにこのエリアを賑わせる人気のお店だ。夫婦で作る愛情たっぷりの溢れるクラフトビールは、茨木に来たなら必飲。可愛らしいタンクが並ぶ「作業場」が入り口からも見えるように配置されているのも「誰がどんな思いで作ったのかを伝えていけたら嬉しいから」と言う、店主のビール愛の塊。自分が知るかぎり、サイクリストは季節ごとの変化や、一期一会を上手に楽しむ人が多い印象だが、そんなサイクリストたちも納得の、訪れるごとに新鮮な出会いがあるブリュワリーだ。

*協力
KURASHI cycle
レストラン四季
3TREE BREWERY

*車体
FUJI / JARI CARBON 1.1
この記事で紹介している情報は、2021年3月時点の取材に基づいています。

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