読む
ストリート×自転車が生むカルチャー。CHARI & CO 後藤雄貴を動かし続けるもの
2021.02.05

30歳という若さで、アメリカのニューヨークに「CHARI & CO」をオープンした後藤さん。第一回目はニューヨークという街との出会いや、ショップオープン当時の現地の自転車文化について話してもらった。第二回目となる今回は、自転車ショップでありながらブランドとしても進化していくさまや、これまでに印象に残っている出来事、日本の自転車文化に思うことなどを話してもらった。
実はニューヨークは1年のなかで気温差が非常に激しく、真冬は頻繁に-20°Cを下回ることでも知られる。気温の影響を大きく受ける業態である自転車ショップを、この街で経営していくことの難しさは言うまでもない。加えてそもそもの街が持つ新陳代謝の激しさだ。この土地で10年間以上も自転車ショップを経営していた日本人は他にまずいないだろう。そんな後藤さんから見るニューヨークと日本の自転車文化の違いとは。


気がつけば、自転車ではなくアパレルが店の半分以上のスペースを占めていた。
-オープン当初は自転車ショップとしての要素が強かったCHARI & COが、現在みたいにアパレルブランドとしても認知されるまでってどういった経緯があったんですか?
きっかけはショップオリジナルのTシャツを作り出した所からです。ただ、当時から単なるショップTシャツとはいえ、自分の性格的にもただ単にプリントしただけっていうのはちょっと…て言うのもあって。ポケット付けたりとか、背中にリフレクター付けたりとか、現在も定番で落とし込んでいる背面のリフレクターディテールなんかも、初期段階からやっていました。




-そこから一気に知名度が上がっていった感じですか?
当時は自転車レーンの導入とかもタイムリーで、加えて昔からニューヨーカーは健康志向、ECO志向が強いのもあって、街全体としても「自転車」には注目があったように思います。でもやっぱり一番の大きな転機はsteven alan※とのコラボレーションかな…。ブランドのプロダクションマネージャーのクリスがたまたまお客さんだったんですけど、steven alanは自分がかねてから好きなブランドだったと言うのもあって、じゃあコラボしようよって。
※1994年にニューヨークで創業されたブランド。ひねりの効いたアメリカントラッド、オーセンティックなアメリカンカジュアルをベースに、シンプルかつ着心地を追求したアイテムやスタイルが特徴。
-個人的には、そういうコラボまでの流れにも、すごくニューヨークっぽさを感じます 笑。
じゃあ何作ろうかってなった時に、元々シャツのブランドだしオリジナルのシャツ作ろうかってなって。首元や袖はリブ、胸のポケットはベルクロでガバッと開閉できるようにしたり、背中にはポケットつけたり…ちょっとアクティブなディテールを折り混ぜたシャツを作ったんです。そしたら、すぐにHYPEBEASTやFRESHNESS MAGAZINEが取り上げてくれることになって。
-ファッション界隈では早くから世界的に影響力あるWEBメディアですよね。
それまでの客層の中心だった「自転車に乗る人」以外で、ファッション界隈の人たちにもお店を知っていただく大きな機会になりました。自分にとって服作りはそこで芽生えたっていうのもあって。


-なるほど。
steven alanとはその後、冬物のアウターなども作ったりしました。あとは、当時あったストリートブランドの「DQM」で働いていた知人に、NYの某有名ブランドのCAPのOEMもやってる工場なんかをこっそり教えてもらって、キャップを作ってみたり。一方で日本のブランドのバッグや小物など向こうでは珍しいものをセレクトして仕入れてみたり…そうしてると徐々にアパレル系のアイテムが揃うようになってきて、気がつけば自転車よりアパレルが半分以上のスペースを占める、みたいな感じになってました。
-自然な流れですね。
その後、2009の終わりから2010ぐらいに BEAMS や BEAUTY & YOUTH など、日本のセレクトショップからも声がかかるようになって。それからは、あくまでショップの屋号として掲げていた「CHARI & CO NYC」が一つのブランドとしても認識され出したのかなって感覚はあります。
-オープンしてわずか1年でそこまで展開があるのが驚きです。何か他のショップとの差別化などで意識していたことってあったりしますか?
口コミやブログでの発信は注力してましたね。スニーカーのバイイングをやっていた時から地道に築いてきたコネクションもあって、今のようなSNSなどが無かった頃とはいえ一定の発信力はあったのかなと。わかりやすいところで言えば、先ほどのDQMもそうですし、あとはA LIFEとか。なので、ブログで面白いことを書いて、ハイプな人間に口コミでひろげてもらって…みたいな活動は地道に行っていました。それで俳優でありアーティストである ジャレッド•レト がMTVアワードに出演する時用の自転車を買いに来てくれたり。映画『はじまりのうた』(キーラ•ナイトレイ主演)のワンシーンに使われたり。後は、世間のブームの後押しもあって、ちょっと特殊な「いい立ち位置」にいれたのかなとは単純に思います。











-確かに、自転車ショップでありアパレルショップでもあるって言う立ち位置は、独特ですよね。ちなみに最初からプリントTなどのグラフィックとかも後藤さんがやられてるんですか?
そうですね。自分がやることが多いです。でもやっぱりいろんなやり方を試したくなったりもするので、別のスタッフや知人のスケーター、ライダー、著名アーティストやそのアシスタントとか、周りの知人にもお願いしていましたよ。とはいえおおよそ自分の目の届く範囲です。初めて日本のセレクトショップで扱ってもらえることになった時でも、現地のプリント屋さんで刷ってもらったTシャツを、自らピックアップして箱ごとタクシーに積んで店に運んで、バックヤードのオフィスにあるミシンで自分で背中にリフレクターを付けたりやってましたよ。

Photo : Matt Reyes




-そうなんですか!まさにDIYですね。もともとミシンの腕前あったんですか?
いや…そこは見よう見まねで。ここだけの話、かなり初期のTシャツなんかはコスト度外視で、付けてるリフレクターの長さが現行のものより倍くらい長かったりします 笑。
-なるほど 笑。ちなみに、ルックブックなどのイメージビジュアル、写真とかもご自分で撮られたりすると聞いたんですが。
そうですね。もちろん、自分の視点だけでは面白くないので、最近はカメラマンに頼むことも増えてはきてますが、ほぼほぼ、自分で撮ったりすることが多いです。
-マルチですねー!元々写真はお好きなんですか?
…えーっと…す…好き、です…笑。
-笑。
なんていうか、僕はファッション学校出たわけでもないし、有名なメゾンのパタンナーやってて独立したとか、いわゆるファッションブランドではないので…服作りは素人ながらにやってきてる中で、やっぱり写真は最後のアウトプットとして大事にしているっていうのはあります。今でこそinstagramなどで当たり前になっているかもしれませんが、昔からブログ世代だったんで、伝えると言う点でも写真は大事かなと。どれだけ格好いい服作っても写真が格好悪かったら意味ないというか。
-もしかして写真だけでのお仕事もされたりとかあるんですか?
いえいえ、写真だけの仕事はまだないです。あ、でも…撮影した写真を雑誌の見開きなどに使っていただいたことはありましたね。日本の雑誌で「PEDAL SPEED」っていう雑誌なんですけど。
-おお懐かしい!PEDAL SPEED。大好きな雑誌の一つでした。
実は写真を始めた時に色々と教えていただいたのもPEDAL SPEEDに深く関わっていた、フリーカメラマンの山田さんという方で。やっぱり写真は楽しいので、今後は写真だけの仕事もチャンスがあればぜひやっていきたいなと言う興味はあります。






-毎回、ルックブックの写真が格好いいなと思っていたので、そう言うストーリーがあったこと、聞けて嬉しいです。ちなみに店をオープンされた当初に目指していた目標みたいなものってあったんですか?
最初はすごいざっくりで「10年」っていう数字をなんとなく見てましたね。ニューヨークのretail shopって、オープンから3年以内に95%が潰れると言われていて。それだけ家賃も高いし冬は長いし、やっていくことが難しいらしくて。なのでそう言うところで10年やったらすごいなって言う事はなんとなくイメージしていました。
-その状況で「10年」を目指すことが後藤さんらしいって、インタビュー後半の今なら思います 笑。そこまでやれる自信というか何か根拠みたいなものもあったんでしょうか?
オープンして3年ぐらいはブームの追い風もあって本当に繁盛したし、実際利益も出ていたんですけど、その後、ピストバイクブームが去ってからは正直に言ってやっぱり厳しい時期も続きました。正直、2015から3年間ぐらいとかはずっと自分に給料も出せていない時期もあって。かなり屈強の中やってました。でも、目標にしてた「10年」は何がなんでもやろうって。
-そうだったんですね。
そのあと2019になる頃には新しい家族も2人増えていて、やっぱり育てるのは日本で育てたいなって妻とも話をして。それ以外の環境の変化が重なって、2019年の暮れに前向きにNYの店舗営業を終えたって感じです。
-なるほど。
結果的にアメリカで、更にニューヨークで日本人が自転車屋をやって10年って言うのは他にいないだろって言えるかなって、そのプライドは確固たるものになりました。自分で言うのもなんですけど。すいません、少し話それましたが…。
-いえいえ。でも、そもそも日本人がニューヨークで自転車ショップやってるって言うことすらあんまり聞かないですよ。ちなみに、これまでにも日本に帰ってこられることはちょくちょくあったとは思うんですけど、そんな後藤さんの目から見てニューヨークと日本の自転車のシーンって違いとかあったりしますか?
そうですね…。SNSが普及してきてからは、シーンとか流行っているものとかで言うとタイムラグはほとんどないような印象です。ただ、自分もこうやって日本に帰ってきて、やっぱり環境の違いは感じます。

日本とニューヨークの自転車シーンの違い
-例えばどういったところでしょうか?
まずは日本は圧倒的に「走れる」ところがないんですよね。まだ帰ってきて少ししか経ってないので詳しくはわからないですけど…東京だと、シンプルに「どこで走ればいいんだろう」って言う印象です。ニューヨークだったら、自転車レーンがあったり、イーストリバー沿い、ハドソンリバー沿いとかにすごく走りやすい道があったりとか、ニュージャージーに橋を渡ったらもっと乗れるし、ベアマウンテンまで行って帰ってきたり、いいコースも、いいトレイルも含めていっぱいある。とにかく走れる環境が多くて、乗るのが楽しい道が山のようにあるんです。一方で東京は、多摩川とか荒川が走れるのはわかってはいるんですけど、もう少し都心に近いところでパッと50kmぐらい走りたいってなった時に、自転車レーンがあるわけでもなく、信号も引っかかっちゃうし、なかなか難しいですよね。まだまだ知らないだけかもですが。
-なるほど。確かにストップ気にせずマイペースで長距離を走れるところは、東京都内ではなかなか難しそうですね。
街もそうですけど、例えばニューヨークだと、自転車通勤を推奨してる企業は節税があるんですよね。なので、企業としても自転車利用を推進するメリットがあるような仕組みになってるんです。やっぱり街が狭くて人口が物凄く多いんで、皆が自動車移動だとどうしても渋滞になる。それを、ある程度自転車移動をする人を増やしたほうが、交通が回る。交通が回って移動が早くなったことによって経済が回る。っていう。
-間違いないです。行政としての取り組みは必要不可欠ですね。
単純にレストランで1回転しかできなかったのが2回転できるとか…経済効果への好影響ってゼロじゃないと思ってて。自転車レーンとか、駐輪場とか、事実大都市の多くは自転車の推進は大なり小なり取り組んで実績を上げているわけだし、そんな中で日本がこう言う取り組みに進んでないって言うのは、そう言う効果に目を向けてない部分もあるんじゃないかな、とも思ったりします。東京みたいな大都市でまだ何も動けてないのは、ちょっと珍しいかなと。
-確かにそうですね…。他にもありますか?
日本人ってヘルメットをほんっとにしないなって言うのは思いますね。
-そうですよね!ニューヨークだと、いわゆるコミューティング(街乗り)とかでもヘルメット被ってますもんね。
そうですね。基本的にかぶってます。
-日本だと、たまにロードバイクに乗ってる人ですらかぶらない人を見かけたりもします…。
それは…結構ひどいですね…。格好悪いとかっていうイメージがあるんですかね?国民性なんでしょうか….。
-おっしゃる通りです…。ヘルメットにまつわる法律などは同じはずで。ニューヨークでも法律で義務化されてるとかではないですもんね?
もちろんかぶっていないからって捕まることとはないですけど、自主的にみんな被っています。
んー…もしかしたらやっぱり命への気持ちがちょっと違うのかなって言うのは感じます。
-言われてみると日本人はそう言う意味での危機管理はかなり弱い印象ですね…。ただ、明らかに改善すべきところだと思うので、我々も微力なメディアながらそう言った面では正しい情報を発信していければと思います。
ですね。

CHARI&COと、後藤雄貴という個人としてのこれから
-ブランドやってて良かったなって思うことは?
そうですね…もちろん全部なんですけど…強いて言うなら、ギャンブルを辞めれたってことでしょうか。
-そうなんですか!
正直、ニューヨーク行くまではギャンブルばっかりやってて…本っ当にダメな人間だったんです。
なので、結果それを断つことができたって言うことが何よりよかったです。
-まさかの暴露…。でもそれを捨てれるって、初渡米はやっぱりそれぐらいインパクトあったってことですよね。
そうですね。本当に全部…目に入るもの全てが格好よかったんですよね。あとはその時点で捨てるものがなかったのもありますけど。当時は家庭もなかったし、それこそお金もなかったし。
-でも言われてみれば、今日聞いた話の後藤さんの行動はおおよそ「ギャンブル観」みたいなものとと通じるところがあるかも 笑。
基本的には馬鹿なんです。あんまり先のことまでは考えないし。店を開けた時もそうですけど、やっちゃってから問題がいろいろ出てきて…みたいなところはよくよくあります。
-では、そんな後藤さんが、CHARI & COを立ち上げたことで、ある意味「最後のギャンブル」を当てた…というかんじでしょうか?
いやー、それはどうなんですかね…。でも気持ち的にという面では。「アメリカに行って自分の店を出す」っていう、若いときにやりたかったことを、しかも10年以上。自分が設定した目標もなんとか達成できたわけですし、後悔は全くないですよね。5年以上ビザの関係で帰国できなかったし親には心配かけましたけど。


-今後ブランドが目指すところはありますか?
カジュアルな気持ちで、ストリートであり続けたいですね。決して自転車に乗るためのプロ仕様の服を作ることを目指しているわけではないので…。例えば「雨でも自転車に乗るために」みたいなストイックな服も多いですが、なんだったら僕自身やCHARI&COのファンも雨の日は乗らない!みたいなスタンスなんです。世の中には自転車だけじゃなくて、音楽が好きでアートが好きでいろんなカルチャーが好きな人たちがいっぱいいてて、極論、自転車だけにものすごくこだわっているわけではなくて…。それがNYで感じてきた事だし、そんな中で、やっぱり自転車も単純に乗ると楽しい。なのでこれからもそれを発信していくことが色々なかたちでできればいいと思ってます。
一方で、ブランドってある種一人歩きするところも感じているので、その中でも、もっとかっこいいブランドを目指せればと思ってます。



-後藤さん個人としてはどうでしょうか。
もう一回自分自身も見つめ直して、個人としてもまた新しいチャレンジができればなと思ってます。住む国も変わったし、ゆっくりできる時間もありますし。
CHARI&COとしてと言うより、一人の人間として培っていた経験を生かしてできることがあれば、なんでもやっていきたいなと。例えば自転車メーカーさんのブランドのカタログをデザインできたりとか、写真を撮影することとか、ユニホームデザインするとかもすごく興味ありますし。
-言っちゃうとたくさんオファーありそうですけど 笑。ちなみに何か次の大きな動きとかは考えてるんですか?
今はまだないですが…でも基本的には「流れ」は大事にしてます。いろんな人生があっていろんな正解があると思うんですけど、最終、自分が納得さえできればっていうのはずっと思ってて。…なんて言うか、自分は職人さんみたいに着々と一つのことを高めていける性格ではなくて。でもそんな自分も「いち自転車屋」を続けられたということに、自転車産業の一端にでも関わってきた感謝みたいなものはあるので…何かそこに関わる形で、自分の培ってきた経験で業界に恩返しできれば、なお自分で納得できるというか17年間のアメリカ生活の意義を昇華できそうな気がしています。
-なるほど。
例えばさっきも話していた、走るところや自転車レーンがないことだとか、ヘルメットをかぶらないだとか、他にはあって日本にはまだない環境もいっぱいあるんだと思うんです。
駒沢公園では、スケーターの子たちが必死に署名運動をして、やっとスケートボードや自転車を楽しめるパークが認められたっていうことがあったと思うんですけど、まだまだ自転車だって世間から見ていろんな意見があると思います。もっと認知してもらうためにはこれから必要になることもいっぱい出てくると思うんですけど…
やっぱり自転車って悪いものじゃないなって言う思いはずっと変わらずあるので。
-そうですね。
環境や経済への影響とかもあるんですけど、やっぱり単純に乗ると楽しい。それを伝えるために、自分の経験が活かせてちょっとでも手助けできることがあれば、どんどんやっていきたいと思ってます。
Cover Photo : Matt Reyes

後藤雄貴 (Yuki Goto / CHARI & CO)
2002 年渡米、ニューヨークで2008 年より10 年以上に渡り自転車屋「CHARI&CO NYC」 を経営。自身の自転車チームを結成しREDHOOK CRITやREDBULL MINIDROME RACE などに出場させる。自転車屋経営の傍ら、NY の自転車文化を背景とする自身のブランドCHARI&CO(ショップ名と同名)をディレクションし、これまでにカシオ G-shock, New Balance, Porter, Mountain Dew,Le Coc Sportif, Tenga, Gregory ブリヂストンなどと協業を果たしてきた。また現代アーティストとのコレクションも多数手がけ、これまでにMeguru Yamaguchi, Kyne, Stash, Yoon Hyup, Rostarr などとの協業も果たしている。自転車関連ではSRAM Omnium Crank Set のブラックを世界で初めて色別注するなど、自転車の可能性を求めながら、ニューヨークならではのファッションやストリートカルチャーの知見を広げてきた。2020 年初頭より日本に帰国。
#LINZINEの最新記事