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失敗を恐れず実践。新しい自転車イベントのかたちを求めて

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スチールバイクを中心に大阪に店を構える自転車ショップ「Bicycle inn Beans」の店主であり、独自のアプローチで新しい自転車の楽しみ方を教えてくれる埼玉秋ヶ瀬の看板イベント「Bikelore(バイクロア)」の企画運営と、2つの顔を器用に行き来する増田さん。第一回目は彼が自転車業界に入ったきっかけや、フィクスドバイクとの出会い、店とイベント運営との両立に関して話してもらった。第二回目になる今回は、イベント「バイクロア」の今後や、自身に影響を与えた出来事に関して。

バイクロアはキャンプインが可能なイベントなので、ナイトレースが楽しめるという点もまだまだ日本では希少。
大人も、子供も。毎回最高のロケーションで参加者を楽しませてくれる

「新しい時代の自転車イベント」のひとつを提示したバイクロアTV

-今年はコロナ禍の中、様々なイベントが中止になりましたが、バイクロアは形を変えても開催されていたのがさすがだなと思いました。やっぱりそこも新しいことにチャレンジするのはバイクロアかって。
バイクロアTVね。自転車レースって、コースのレギュレーションさえ共有できれば、極論どこでもできるやん?って。2つのコーンを配置する距離を決めて、その間を8の字で回れば、レギュレーションはみんな一緒なわけで。

様々なイベントが新型コロナウイルス の影響を受けて中止する中、日本全国の離れた地点と本会場をオンラインで繋ぎ、レースを行った。視聴はこちらから。BIKELORE TV

-確かに。
もちろん、実際やってみてまだまだなことも多かったていうのはありますけど…。政府からのイベント自粛要請が出て、そんな中でさすがにに人集めてやると世間の目もありますし…苦肉の策でもありますよ。正直なところ、いちYOUTUBE LIVEを活用したイベントとしては再生数ももっと行きたかったし。

-なるほど。ちなみにコロナ禍にイベントやることにおいてやっぱり大変だったと思うことってありますか?
毎年開催している12月の秋ヶ瀬開催が2019年は台風の影響で会場が使えず中止となり、年を跨いでリベンジとして代替開催も準備までしていましたが、妨害、コロナ禍と2開催がままならず感覚的には3連敗でした…。その中でも何とか出来ないかと思いついたのが、全国数カ所を繋いでオンラインで行うミニレース。あとは実行委員会のテーブルに上げて揉んで膨らませて肉付けして…。

-初めてのオンライン開催ということで、配信環境を構築するなど大変なことが多そうですよね。
実際にバイクロアTVをやってみて、ネット回線や機材等の問題がわかって、でもそれもトライ&エラーで。何よりデジタル担当のもんじゃ君が変に前向きで 笑。あとは全国各地に協力者がいてくれた事が大きいかったです。バイクロアメンバー人望無いのに…。
今後は各開催時に協賛者のPRムービーを撮ってそれをYOUTUBEのバイクロアchで流し、協賛者の満足度にも繋げるつもりです。もちろん、バイクロアに来られない人々にもオンラインで現場の雰囲気を伝えられたら次に繋がるでしょうし。それも含めて、やっぱりやって良かった。それこそ今後も世の中はどうなるかはわからないし、イベントのあり方も変わるかもしれない。そう考えるとなにより自分たちの可能性につながったな、と。兎にも角にもバイクロアはトライ&エラーを実行し続けるフィールドだと考えているので、バイクロアTVもリバーサイドショー (2020年9月に「レースなし」という異例のスタイルで開催) も「やったらできるやん」です 笑。結局何やっても大変やねんから、どうせやるなら前向きな事で楽しめるようにしようと。

司会はバイクロアでお馴染みの 伯爵 氏
本会場では協賛企業を紹介するシーンもあり、イベントに関わる人たちの満足度に繋げている。
猛暑の中の機材トラブルなどによって中断があったものの、5時間を超えるイベントは、レースイベントの新しいかたちを示した。

-少し話変わりますが、増田さんがモチベーション下がる時ってあるんですか?
修理に来たお客様に「乗れたらいいんで。」って言われる時かな。無駄な修理を押し付けるつもりは全然なくて、でもその後におそらく愛情が注がれないであろうことが言葉で伝わってくると…。ママチャリなどの一般車が日本市場の中心商品である事は変わりないけど、現時点で自分が一般車を販売しないのも、自分とお客さんの間にそういう価値観の違いが生まれやすい商材だからというのが大きい。もちろん買った値段に関係なく愛情を注いで丁寧に乗られている人もたくさんいてるし、世の中にそういうビジネスモデルも存在するんだけど、自分はそこには合わないというか。もちろん、修理としてするべき事はしっかりしますよ 笑。

-先ほどのパンク修理のお客様にも、起こりうる可能性を説明された上で処置を本人にお選びいただいているのが印象的でした。
もちろん。トラブルの大小関わらず不具合が起きている原因と、どういう処置をした後にどういうことが起こるかは可能性としてしっかり説明します。できるだけフラットな考えで選択肢は用意する。そのうえで費用も含めて最終的にどういう対処を希望されるかはお客さん判断ですよね。

-逆にテンション上がる事は?
「あまり詳しいことわからないけど、自転車が欲しくてきました。」って言われると「よっしゃやったろ!任せんかいな」てなりますね。もちろん高い自転車を売りつけるとかではなくて、そうやってピュアに自転車に興味持って自分のところにきてくれることって本当にありがたいし嬉しいことやなって。

-やっぱりあるものをそのまま売るだけじゃなくて、カスタムなりでその人らしさを提案できるのは自転車屋の醍醐味の1つですよね。そういえば増田さんはNAHBSも早くから見に行ってましたよね。あれってやっぱり自分にとって大きかったですか?※アメリカで開催される、世界最大のハンドメイドバイシクルショー
そうですね。かなり大きかったです。

-ちなみにきっかけって?
周りでちらほら噂も聞くようになってきてた頃だったかな、仲間に誘われて行きました。でも実はその時って、アメリカのハンドメイドと聞いてもちろん興味がないわけじゃないけど、それまではものづくりにおいて「日本製」に誇りはあっても「アメリカ製」というところに特別リスペクトはなかったんですよね。アメリカって何ならちょっと大雑把やん、ぐらいの 笑。

-確かにそういうイメージはなきにしもですね。
会場自体もこっちでいう公民館みたいな小さい会場で、人もまばらで。でも…中身は本当にカッコ良かった。店に影響を与えたかどうかは別として、自分個人としては非常に印象の強い出来事でした。日本でビルダーさんって、それこそ著名な方はほぼ例外なく競輪との結びつきが強いじゃないですか。いわば、同じものを高品質で作り続ける「至高」の部分に極意があるというか。でもアメリカの人たちはそういう考えとは別の所から来てるというか、「自分たちが作りたいものを作っている」という感じがすごく出てて。やっぱり表現がすごく柔軟で自由で、それぞれがアイデアに溢れていてカッコ良かった。その面においては正直日本人は圧倒されてると思いましたね。あと、魅せるという意味で重要なペイントワークもすごかった。やっぱりフレームにとって塗装って、例えるなら女性にとってのお化粧と一緒じゃないですか、最後の仕上げというか。ぞくぞくしましたよ。

-なるほど。確かにそういう「やりたいことをやる」マインドって今の増田さんとも重なります。
今はまた日本も変わってきてるでしょうけど、当時はそういう塗装一つとっても「意識の差」みたいなものを感じましたね。もちろんそれと比べて日本の塗装のクオリティがどうこういうつもりはないけど、塗装の最後まで自己主張の一つっていうのが、一般車や競輪自転車が主な需要である日本にはちょっと生まれ難い概念じゃないのかなと…。ともあれ、その辺でやっぱり自分の中での固定概念が覆されましたね。アメリカって日本と違って個人で塗装の設備を持ってる人たちも全然いてるし、それこそ工房にも連れてってもらったりとかもできたし、ほかにも自転車でいろんなところに観光行ったりね。楽しかったな。

-そりゃあアメリカ観光も楽しみますよね 笑。話は変わりますが、増田さんの周りって若い方達も多くて、勝手にアニキ感強いイメージがあるんですけど、師匠みたいな人とか、憧れの人はいますか?
人間的に憧れはやっぱり杉野さんかな。何ていうかな…すごい人やのにぞんざいな感じは一切出さず、誰に対してもフラットな感じが尊敬できます。
例えば自分が中国滞在していた時、自転車業界の人たちは、一般車(いわゆるママチャリ)をメインにされている企業の方がほとんどで、自転車は乗るものではなく、売るもの」みたいな空気が少なからずあったんですけど。そんな中、杉野さんは自身もちゃんと自転車に乗られていたし、それこそ当時なんかは俗にいう「いい時代」だから、日本人はみんなで集まってわいわい騒ぎがちなんですが、彼にはそんなイメージがなくて。行動ももちろんですが考え方もすごくスマートで、影響を受けています。

-残念ながらお会いしたことないので、ぜひお会いしてみたいです。
それこそブームのずっと前から、メッセンジャーに対するサポートも飛び抜けて早かった。単純な機材のサポートもそうなんやけど、なんて言うかマインドの部分でのサポートも含めてと言うか。3〜4年前の年末に、東京のベテランのメッセンジャーが仕事を引退する時も、こっちに連絡あって、なんでわざわざ大阪来たんやていう話をしてたら「杉野さんに挨拶しに行く」っていうぐらい。自転車の仕事に対して一途な一人の男にとっての「ケジメ」になるぐらいの、大きなひとなんよね。やっぱり自分もそれぐらいになれたらなあ、なんて思います。

-では最後に、今後の展望などありますか?
軸足は自転車。そこはブレずになんでもやります。目標とする開催地はあるけど内緒 笑。イベント以外の展開も準備進行中です。自転車遊びを週末のイベントではなく日常にしたいですね。

増田拓己(Bicycle inn Beans)

大阪府生まれ。家業の金属加工業を95年頃に継ぎ、2000年からは中国と日本とを工場指導のため頻繁に行き来する。2003年、大阪堺で自転車店を展開する友人に誘われ自転車業界に。
その後、店舗展開に伴い東京店であるBean’sの店主を任されることになる。店を切り盛りするかたわら、シクロクロスレースのイベント『BIKELORE』の企画運営を友人ら5人で開始。埼玉の秋ヶ瀬公園から始まった同イベントは今や全国で開催されるようになり、派生したイベントも合わせると現在は通算で20回を超える名物イベントに育っている。2020年夏からは在籍していた店舗の跡地、大阪堺で『Bicycle inn BEANS』をオープンしたばかり。

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