読む
25周年を目前に、尾道で初開催となったBicycle Film Festival
2025.01.06

2024年も年の瀬に差し掛かった頃、自転車映画の祭典「Bicycle Film Festival(BFF)」が2年ぶりに日本でリアル開催、しかも自転車と映画の街「尾道」でされるという情報が舞い込んできた。
同イベントは、2001年に始まって以来、これまで100都市以上をツアーし、世界中のサイクリストや映画愛好家を魅了してきた循環型の映画祭。日本でもこれまで数回東京を中心に開催されてきたが、今回は久しぶりの西日本開催ということで、関西在住の筆者にとっても待望の機会であり、ここぞとばかりに尾道に向かうことにした。
短編から長編まで、自転車をテーマにした多種多様な映像作品が上映されるBFF。その魅力は、公募制により数百を超える応募の中から厳選される、高品質な作品が持つメッセージ力にある。また、毎回異なる作品がチョイスされるため、その時ごとの選定テーマの多様性を感じながら観るのも楽しい。






尾道駅すぐに位置するしまなみ海道の玄関口「しまなみ交流館」を舞台に、上映された13本の作品は以下の通り。いずれも自転車を題材にしていながら、それぞれが異なる視点や物語を描き出していたのが印象的だ。
< 上映作品 全13作品 >
_ _ _
DAN DEACON – THE BREAKAWAY
UK | 2019 | 3min. | 監督:Finlay Pretsell
_ _ _

EBRO
USA | 10min. | 監督:Ian Bartlett
日本語字幕 藤大輔/宮田浩介
_ _ _
ALL BODIES ON BIKES
USA | 2021 | 13min. | 監督:Zeppelin Zeerip
日本語字幕 藤大輔/Maisie McPherson
_ _ _
CYCLES
Canada | 2016 | 4min. | 監督:Joe Codben
_ _ _

CYCLING WITH MOLLY
UK | 2020 | 2min. | 監督:Sara Chia-Jewell
日本語字幕 藤大輔/clitter
_ _ _

SNOW WARRIOR
Canada | 2020 | 8min. | 監督:Frederick Kroetsch and Kurt Spenrath
日本語字幕 藤大輔/宮田浩介
_ _ _
STYROFOAM
China, USA | 2017 | 5min. | 監督:Noah Sheldon
日本語字幕 藤大輔/Maisie McPherson
_ _ _

THE NINE WHEELS
Spain, UK | 2022 | 22min. | 監督:Santiago Burin des Roziers
日本語字幕 藤大輔/宮田浩介
_ _ _
KEVIN BOLGER
USA | 2022 | 5min. | 監督:Jennifer Boyd
日本語字幕 clitter/宮田浩介
_ _ _
THE CEDER – RACE TO THE SMILEY
South Africa | 2023 | 6min. | 監督:Adriaan Louw
日本語字幕 clitter/宮田浩介
_ _ _

REZA – BLIND BIKE MECHANIC
Iran, USA | 2022 | 5min. | 監督:Josh Wolff
日本語字幕 clitter/藤大輔
_ _ _
I RIDE MY BIKE WHEN THE AIR IS CRISPY
USA | 2020 | 1min. | 監督:Julian Glander
日本語字幕 clitter/藤大輔/宮田浩介
_ _ _

THE TRAILS BEFORE US
USA, Navajo Nation | 2022 | 13min. | 監督:Fritz Bitsoie
日本語字幕 eishin/藤大輔/宮田浩介
_ _ _
作品ごとの感想をここで詳しく書くのは難しいが、どれも見応えがあり、それぞれに新たな発見があった。全13作品のプログラムを通して観たことによって、改めて自転車という文化から広がっている世界の広さを感じ、まるで世界へ小旅行にでも行ったかのような気分にもなった。
今回は比較的ドキュメンタリーの作品が多かったことや、自転車関係者による和訳字幕もしっかりと添えられていたこともあって、喜びや葛藤、集団が持つエネルギーや、誇りの高さなど、スクリーンの向こうに垣間見える繊細な感情も、しっかりと自分に置き換えて深く観入ることができたことも大きい。


また、今回初めてBFFに参加して感じたのは、とてもアットホームで心地の良い一体感だったこと。最大70名というコンパクトな会場の空間も相まって、観客同士の距離感も近く、まるで映画好きの仲間と集う鑑賞会のような温かさを生み出していた。上映前の「Bikes Rock!」の掛け声で始まる一体感も印象的に残った体験だ。最初にそうやってみんなで揃って声を出した安心感のようなものからだろうか、上映中には隣の人の笑い声が聞こえ、感動の涙が静かに流れる気配を感じる―そんな生きた空間の反応を感じることができた。


この時代、自分が気になる映画はオンラインで見ることが当たり前になりつつある。AIが好みを予測して映画を提案してくれることも珍しくなくなった。また、1分前後のショートムービーは、SNSを中心に日常から多くの人が触れるものになった。
自分が「好きそう」な作品に効率よく出会うことは、正直、SNSや動画配信サイトを渡り歩けば簡単にできるのだ。それでも、そんな時代だからこそ、今回のように主催者が想いを込めてキュレーションしたプログラムを、そのままの流れで楽しむことには、きっとまた別の価値があるように思う。
予測不能な作品の連続に驚き、考えさせられ、感動する ― まるで音楽ライブなどにも似た、こういう重層的な感情の連続こそが、この映画祭ならではの醍醐味なのだと感じる。受け身でありながらも、新しい発見に満ちた豊かな時間は、個人の選択だけでは味わえない新鮮さをもたらしてくれる。



2025年、BFFは25周年という節目を迎えるそうだ。
四半世紀もの歴史にわたり世界で愛され続ける映画祭。アニバーサリーイヤーとなる今年はいったいどんな街で開催され、またどんな作品が集まり、選ばれるのか。次回への期待でいっぱいになった尾道の1日だった。
#レポートの最新記事