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これはサイクリングか食い倒れか!?噂の「ツールド妻有」がヤバすぎた!
2026.09.03
自転車雑誌の編集長をしながら、北海道から沖縄まで、全国のロングライドイベントを実走取材してきた。ツール・ド・東北、サイクリングしまなみ、ツール・ド・のと400、ツール・ド・おきなわといったビッグイベントも制覇した、自称・日本一ロングライドイベントを知る男(誇大表現)。そんなこともあり、今はツール・ド・ちばというイベントの実行委員長まで務めるようになってしまった。
ロングライドイベントに出て参加者と話すとき、どのイベントがよかったですか?と聞くのだが、最近よく聞くようになったのが「ツールド妻有」というイベント。妻有と書いて「つまり」と読む。このイベント、参加者におそろいの公式ジャージが配られるらしく、参加した人が他のイベントに、そのジャージを誇らしげに着て参加しているのだ。だから「あっ、ツールド妻有に参加したんだな」とひと目でわかる。
「どんなイベントですか? 何がそんなにいいんですか?」と聞くと、「とにかくエイドの食べ物がおいしいんです」「食べきれないくらい出てくるんです」「みんなで同じジャージで走るのが楽しい」「地元の人たちが温かい」といった言葉が。
これは参加せねばなるまい!


テーマソングは「我らツールド妻有」
開催前日。会場の「ミオンなかさと」へ事前受付に向かうが、あいにく土砂降りの雨。手続きだけすませ、早々に宿に戻る。そして翌日は天気も持ち直し、青空も見える絶好のサイクリング日和に。
朝6時。指定された駐車場にクルマを停め、そこから走ってスタート&ゴール会場へ。そこに待っていたのは黄色のTシャツを着たたくさんのボランティアの人たち。「当日受付はこちらでーす!」と大きな声で誘導している。
そして会場に流れる軽快な音楽。開催20周年を記念して作られた大会テーマ曲、「我らツールド妻有」だ。大会テーマソングがあるのは、ツール・ド・東北だけだと思ってた。
これがまた覚えやすくノリのいい曲調。♪ツーーールドつまりー! ついつい身体が動いてしまう。来年はこれに振りを付けてみんなで踊れるようにしたらいいと思うなー。
主催者側の挨拶などのあと、恒例の(?)参加者記念撮影。20周年記念の黒いジャージを着た参加者が、これまた参加記念品のオリジナル手ぬぐいを広げて写真に収まる。ジャージが同じなんで、すげー迫力だ。なんか同じイベントをいっしょに楽しもう!っていう一体感がハンパないのだ。これはイベントの開催中ずっと感じたことで、このジャージの力はすごいなーと思う。
そしていよいよスタート。コースは120kmコース、90kmコース、70kmコースの3つ。ロングの120kmコースから順にスタート。10人程度で区切って、間隔を開けてどんどんスタートしていく。行ってらっしゃーい!のアナウンスがうれしい。
俺が参加したのは70kmコース。ボランティアの方々の拍手に送られて笑顔でスタートした。







ロングライドは芸術だ!
このツールド妻有、成り立ちがちょっと変わってる。この新潟県・越後妻有地域では、2000年から世界最大級の国際芸術祭、「大地の芸術祭」が行われている。このエリアには、里山の各所に数多くのアート作品が点在し、3年に1度、「越後妻有アートトリエンナーレ」と呼ばれる「本祭」が行われる。ツールド妻有は2006年のトリエンナーレで、なんと「作品」として誕生したサイクリングイベントなのだ。
そもそもこのツールド妻有、2006年に建築家の伊藤嘉朗さんが、芸術祭のシンボルカラーである黄色のジャージをまとったサイクリストが移動しながら風景と一体化することがアートである、「移動そのものを作品にする」というコンセプトをブチあげて始まった。つまり走っているサイクリストたちはすべて芸術品の一部だということ。おっもしれー!
ちなみにおそろいの公式ジャージが配られるのはトリエンナーレの開催時と周年記念時のみ。残念ながら今回はトリエンナーレの年ではなかったが、20周年を祝う特別な特別な黒いジャージが制作された、というわけ。




食えるもんなら食ってみろ
走行はグループを作るわけではなく、各自思い思いのペースで走る。だからガイドライダーもいない。道案内はルート上の案内看板と、何箇所かにいた誘導員だけ。それでもパーマネントコースであることと、標示がしっかりしているので、俺は道に迷うことはなかった。
コースはいきなりの上り。そう、このツールド妻有は大人気なんだけど、じつはかなりのチャレンジングなコース設定。70kmコースで獲得標高約1400m、120kmコースにいたっては獲得標高約2500mという、なかなかの山岳サイクリングだ。プロフィールマップを見ても、平坦なところがほとんどない。これはやられたぜ!
しかーし! こんなこともあろうかと(知っていた)、今回は電動アシストロードバイクを用意。しかもスペアバッテリーまで持ってきた。これで楽勝だあ! わはははははは!
アシストをウィンウィンさせながら、余裕でアップダウンをこなす。あっという間に最初のエイドステーション。そこで俺が見たものは!!!!
長テーブルの上にところ狭しと並べられた漬物! 野菜! 果物! バナナもスイカもトマトもキュウリもサトイモも梅干しも唐揚げも煮物も、食えるもんなら食ってみろとばかりに並んでいる。それをガツガツと紙皿の上に載せていく参加者たち。ボランティアのおばちゃんの「漬物食べてってー! スイカもたくさんあるよー! 冷えてるよー!」という悪魔の声が響く。
そう、誰かがスポーツエントリーのコメントに書き込んでいた。「エイドでの補給食が充実しているので、最後まで完食するにはペース配分が重要です。前半のエイドは控えめにしておきましょう」。このイベントでは走りのペース配分だけではなく、食のペース配分まで考えないと、完走できないのだ! 大切なのは悪魔の誘惑に負けない自制心だ。恐るべしツールド妻有!





越後美人の誘惑
コース上には大地の芸術祭の展示物があちこちにある。今回は寄ることができなかったが、次回はじっくり見て回りたいぞ。
坂を上ったり下りたりを繰り返しながら走る。途中に湧き水スポットがあったり、私設エイドステーションがあったりで、何度も休憩を強いられ(笑)なかなか進まない。そこでおばちゃんたちと話すのが楽しいのだ。
しかも沿道では家から椅子を出してきてウチワを振って応援、というスタイルの地元ジジババ応援団があちこちに。俺と並走しながらウチワであおいでくれるという心遣いがメチャうれしいじゃないか、ちっとも涼しくはないが、ありがとよー!
次のエイド、旧山田小学校で待ち構えていたのは、巨大な鍋でワシワシ作られたチャーハン! さらにおにぎり! どうやらここは炭水化物の魔窟のようだ。米どころの越後妻有の米、うまくないわけがない。冷汁やら芋煮やら、もちろん漬物やスイカやトマトも全力で攻めてくる。すでにそのボリュームに朦朧となった参加者が、ゾンビのように箸を動かしている。若い越後美人のボランティアに「おにぎり食べてくださーい!」と言われ、ベテラン越後美人に「チャーハンも食べなー!」と言われて逆らえる者はいない。














妻有名物ガリガリ君坂
「この先にガリガリ君坂ってのがあって、そこを上り切るとガリガリ君がもらえるんだよ」と聞いた。進んでみると、たしかにすごい激坂が登場! そしてここでバッテリー残量がゼロに! すかさずシャキーンと2本目のバッテリーに交換したが、まだ全行程の半分しか来ていない! ヤバいよヤバいよー!(©出川哲朗)
NEWバッテリーでガリガリ君坂を上り切ると、「お疲れさまですー! ガリガリ君どうぞー!」「ガリガリ君ありまーす! ガリガリ君どうぞー!」と叫ぶ女性が。「今日何回くらいガリガリ言うんですか!?」と聞いたら、「900回くらい(笑)!」だって。つらい激坂のあとのガリガリ君はツールド妻有名物だ。これがあるから走れるんだよなー、と話す参加者も。そんなものコンビニで買えるのにとも思うが、苦労をともにした、ここで初めて会った仲間とみんなでガリガリするのが楽しいのだよ。これは走ってみないとわかんないだろうなー。




走りにも自制心が必要
雨の次の日なので、路面が濡れている場所や、コケが生えている箇所もあり、下りはかなり慎重にいかなければならない。雪国ゆえなのか、今回走った道路には荒れているところも多かった。国道を走る部分はスピードも出がちだが、路面にはデカめのクラックや穴があちこちにあって、けっこう怖い。あとは排水のためだろうが道路に対して縦方向の溝が切ってある区間があって、それもハンドルをとられそうで怖かった。
雪国の人はそんなの慣れているということかもしれないが、都会の温室育ちサイクリストは下りでスピードを出したい欲望と戦わなければサバイバルできない。これまた自制心の勝負である。速くカッコよく下ることより、遅くても転ばずに走り切ることのほうが大事だということを、サイクリストはここで学ぶのだな。次回は極太タイヤで参加しよう。
松代のエイドステーションでは通過のチェックがある。これを地元の子どもがやっていて、これまたほっこりさせられる。しかしここでも悪魔の誘いに逆らえない参加者たちが、越後名物へぎそばに長蛇の列を作る。そんなにしてまでそばが食べたいか。だが、もはや参加者は全員食欲ゾンビ。脳内BGMはマイケル・ジャクソンの「スリラー」である。このイベントを走った者にしか味わえない至高のそばをむさぼり食い、さらにおにぎりにもわらわらと手を伸ばす。もう誰も俺たちを止められない……。





伝説のぬか釜カレー
そして最大の激坂は、最終エイドの手前で待ち構えていた。長く曲がりくねったその急勾配は、ガリガリ君が裸で逃げ出すほど。ここまでも自転車を押す人はたくさんいたが、この坂ではさらに続出。そんなつらい思いをしてまで、彼らを駆り立てるものは何なんだ。
それはカレーライスだった。
最終の五十子平ASでは、ぬか釜で炊いた米で作った野菜カレーが待っていた。ぬか釜とは、米のもみ殻(これをこの地方では「ぬか」と言う)を燃料にして炊く釜のことで、十日町、魚沼地方の伝統的な炊飯道具。大量に出るもみ殻を燃料にするという、米どころならではの知恵だ。1000°Cにもなる高火力で一気に炊き上げることができ、恐ろしいほどのおいしさだという。
「去年はこの坂でやられちゃって気持ち悪くてカレーを食べられなかったんで、今年はトレーニングして来ました!」という参加者。そこまでして食べたいカレーがここにはある。






感動を共有するということ
最後の上り。すでに2本目のバッテリーも残量ほぼゼロ。最後はバッテリー残量が減ってローモードしか使えなくなり、脚を削られる。もうダメかなー、やっぱり歩くかなー。ヤバいよヤバいよー、出川哲朗の充電させてもらえませんかー? と思ったところでトンネルが見えた。よし、正義は勝つ。
ここから長いトンネルを下り、いよいよゴール。刈り入れを待つ田んぼの向こうに、今朝スタートしたミオンなかさとが見える。左右に大会の旗が並び、頭を垂れた稲穂が広がるなかをゆっくり下っていく。「お疲れさまー! おかえりなさーい!」アナウンスの声が響く。フィニッシュゲートをくぐると、ズラッと並んだ地元の中学生がハイタッチで迎えてくれる。参加者がみんな笑顔でゴールしてくる。苦しく楽しかった一日が終わる。夏が終わる。
ツールド妻有の魅力は? それはおもてなしだと言う人が多かった。地元をあげての素晴らしいホスピタリティ。それはもちろんそうだと思う。
だけど俺は言いたい。それは「一体感」なのだと。参加者も、ボランティアも、応援してくれた地元の人たちも、それぞれの立場でイベントを楽しんでいた。全力で参加していた。みんなでいっしょにこのイベントを作っている。一人じゃない、みんなで走っている。地元の人たちといっしょに走っている。感動を共有している。そう思わせる何かがこのツールド妻有にはある。みんなの笑顔がその証拠だ。
思い出した。ツールド妻有は芸術作品だ。芸術は感動だ。アートには疎い俺だけど、なんかその意味がわかったような気がする。





DATA
開催日●2026年8月30日(日)
開催地●新潟県・越後妻有地域
主催者●ツールド妻有実行委員会
※今回、俺は電動アシストで参加したけど、ツールド妻有では、32C程度の太いタイヤをはいたロードバイクが最適な気がします。ギヤはメチャ軽いのを入れて(笑)! このSHIFTAではツールド妻有でも活躍できる、さまざまなタイプのロードバイクを扱っているので、ぜひチェックしてみてください!
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