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ロードバイク初心者のためのライディング講座 vol,1
2023.07.02
皆さん、サイクリング楽しんでますか?体への負担が少なく、老若男女問わず生活に取り入れられるスポーツとして市民権を得たサイクリング。本企画では、ゲスト講師を招いて明日から試せるテクニックや、ためになる話など「読むトレーニング」をコンセプトにお届けします。第一弾はKINANレーシングの精神的支柱と言っても過言ではないベテランライダー畑中勇介氏に、初心者ライダーに役立つあれこれを伺いました。プロロードレーサー視点ですが、ロードバイクだけでなくクロスバイクなどのスポーツバイク全般に通じるアドバイス満載です!
選手や熟練ライダーのような、乗り込むことで身についた無駄のない動きは見ていてカッコいいものです。でもそこには、見よう見まねだけでは再現することができない細かなテクニックがあります。なかなか上達できない、楽に走れないなど悩みを持つビギナー向けに、項目をいくつかに絞って身につけたいテクニックと知識をご紹介します。
目次
ロードバイク初心者のための「発進・停車」
スムーズな発進のための停車テクニック
——赤信号などで停車してからの発進時に、漕ぎ出しにもたついてフラフラする方を多く見かけます。スムーズに発進できるようなコツがあれば教えてください。
おそらく停車前にギアを軽くせずに停車しているのではないでしょうか。選手ってその時の速度域によって次のアクションに必要なギアチェンジを感覚でおこなっているので、一律こうやっていますという明確な答えはないと言っていいかもしれません。例えば平地を30km/hで走行してきて赤信号で止まる場合、慣れるまでの間は停車までにリアのギアを2枚軽くしてから止まると決めてしまうのも良いかもしれません。慣れてくると、走行スピードや先の地形などを考慮して変速するギアの枚数を感覚で調節できるようになります。
平地(30km/h)で2枚軽くして止まるということなので、坂を下ってきて止まる場合や登りで止まる場合はそこから±1枚ぐらいの調整から始めたら良さそうですね。
ビンディングペダルあれこれ
——発進・停車のエピソードとしてよくあるのがペダルにまつわるものです。停車時に上手く外れなくて転けてしまったり、発進時に上手く嵌まらないという話はよく聞きます。上達するコツがあれば教えてください。
良い例えになるかわかりませんが、僕のようなプロ選手でも使用するペダルのメーカーが変わると、最初の数日間はスムーズにクリートが嵌らず手間取ります。つまり、選手だからクリートキャッチが上手いという訳ではなく日頃の反復で体に覚えさせているだけなので、初めのうちは障害物や危険の少ないところでの練習することが望ましいです。意識し過ぎると目線が下がってフラつく原因にもなるので、発進直後に上手く嵌らなくてもそのままペダルを漕いで、視線を前に向けたまま走りながらゆっくり嵌めてもらえればいいと思います。
停車時に上手くクリートが外れずに転けてしまうという不安のある方は、停車直前ではなくペダリングを止めてブレーキで減速し始めた段階で外しても良いかもしれません。あとペダルのセッティングについて、買ったまままの状態で乗っている人が多いのでないかと思いますが、ビンディングペダルはクリートの着脱の硬さを調節する機能があります。それを緩めてあげれば、大きな力を加えなくても外れやすくなるので、疲れている時でも外しやすくなると思います。選手はかなりのパワーで踏む込むことが多いので、ビンディングを固めに調整して外れにくくしていますし、固定力の強いクリートを選んで使っていますが、初心者の方がそこまで強く踏み込むことはないと思うので、着脱に不安のある方はご自身でも調整できますし、難しそうならショップに相談すると良いと思います。
停車時にクリートが上手く外せずに倒れてしまうなどのトラブルは、長時間の走行や登坂で高負荷がかかった後に起きやすいことから、体力が消耗している時は特に気をつけて一つ一つ確実な動作を心がけたいですね。
ロードバイク応用編①「シフトチェンジ」
登坂時のシフトダウンについて
——一般的に登坂セクションに入る時にギアを軽くしますが、フロントギアを操作した時に急にペダルが軽くなってギクシャクする初心者が多いですが、効率よくスムーズにシフトダウンできるコツがあれば教えてください。
例えばシマノ製のDi2だとシンクロシフトという機能が付いていて、ワンタッチで前後の変速機を動かしてなだらかなシフトダウンが可能です。シンクロシフトはフロントギアの変速と同時にリアのギアを何枚か重くしたり軽くすることで急なギア比の変化を防いでくれるので、初心者の方で電動シフトをお持ちの方は使わない手はないと思いますね。選手は電動シフトをマニュアルで操作していると思いますが、そのシンクロシフトの動きを手動で再現しています。機械式も同様の操作となりますが、登坂時の場合は左手でフロントギアを軽くするのとほぼ同時に右手でリアのギアを数枚重くしています。これも慣れてきたら勾配の加減によって右手のリアのシフトアップの枚数を調節できるようになると思いますが、初めのうちは2枚と決めてしまって良いと思います。
シフトチェンジで気をつけていただきたいのが、ペダルへの力の入れ具合です。ギアからギアへチェーンが移る瞬間はチェーンが外れている不安定な状態なので、ペダルを強く踏んだ状態だとチェーン落ちや変速機の故障の原因となります。といっても足を止めてしまうと変速しないので、シフトチェンジ中はクランクを軽く回すことを常に意識してもらいたいですね。
シフトチェンジの重要性
電動シフトはシフトチェンジの回数を記録できるようになっていて、ホビーユーザーとプロ選手を同じ機材とコースで走らせて、シフトチェンジの回数データを比較したことがあるようで、プロ選手の方が2倍ぐらい回数多かったらしいです。ホビーユーザーはよく「プロは力があるから重いギアが踏める」と思っているようですが、高性能なパーツをいかに効率よく使うかが大事なんです。
登坂前や停車前のシフト操作以外にも、さまざまな加減速に対して小まめにシフトチェンジして適切なギア比で負担を軽減することが、特にロングライドやレースにおいて重要ってことですね。
ロードバイク応用編②「ハンドルポジション」
ブラケットの握り・レバーの操作について
——ブラケット(シフター)の握り方やレバーの操作について、指の使い方でアドバイスがあれば教えてください。
通常は指2本だと思います。初心者の方は空気抵抗は気にせず、いつでも速度コントロールできるようにブレーキレバーに指2本かけておくのが良いですね。急回避が必要な場合も指2本あれば減速できると思います。親指はちゃんとブラケットに巻いて握って、悪路の弾みで手が外れないように。肝心なのはブレーキレバーの初期位置ですね。手の大きさは国籍や男女で大きな差があり、共に同じシフターで操作するのでレバーの位置が調整できるようになっています。また、ブレーキレバーを握り始めてからブレーキが効き始めるまでの間隔(遊び)も調整できます。女性で見かける、握り位置をずらさないとブレーキレバーを引けないという場合はレバーの位置が適切ではないので、ショップに相談いただき調整してもらいたいところです。自然なライディングポジションでレバーに指がかかる状態でないと、咄嗟のアクション時に危険性が高くなります。
シマノ製であれば手の小さい人向けに小型のシフターも販売されているので、どうしても調整が難しい場合はシフター交換、もしくはリーチを短縮させるハンドル周りのパーツ交換も検討してみてはいかがでしょうか。
ブラケットの角度について
プロの選手に多いですけど、結構ブラケット(シフター)の角度が前下がりになっているんですよ。空気抵抗を減らすために前傾を深める必要があるのでこうなるんですが、初心者の方は上体が起きている人が多いと思うのでブラケットの角度も上向きになっているのではないでしょうか。そうなるとレバーもより前に突き出るような形になるので、握りやすくする調整がより重要になってきます。基準としてはレバーに指が2本かけている状態で2時間連続走れるぐらいが良いポジションと言えるでしょう。
先ほどプロのブラケットが前下がりだと言いましたが、ご自身で真似てセッティングするホビーユーザーの方がいらっしゃいますが、プロの機材はメカニックが精密に調整して機能性や安全性を考慮して導いているポジションとなっているので、真似だけでは危険が伴うという点だけご理解いただきたいですね。
“咄嗟のブレーキング”の部分でも触れていますが、ブラケットを下げるとブレーキング時に重心が前に動き過ぎて踏ん張りが効かなくなる可能性もあるので、咄嗟に重心移動ができる上級ライダーじゃないと危ないセッティングということですね。
“下ハン”“上ハン”を持つ条件
——ロードバイクや競輪の固有のスタイルとして下ハンドル(通称:下ハン)を握って走ることに憧れている人も多いと思いますが、ハンドルバーの各部を使用することについてアドバイスをお願いします。
まずは基本ポジションであるブラケット位置に慣れること、そして先ほども出てきたシフトチェンジやビンディングペダルなどの基本動作が出来て余裕が出てきたら下ハンの練習をおこなっても良いと思います。昔は「スピードを出す時は下ハン」と言ったものですけど、今は空気抵抗的にはブラケットを握って前傾を深める方が前方投影面積がよりコンパクトになり抵抗を減らせることが証明されています。スプリントのように出力を思いっきり上げる場合は下ハンの方が効果的ですが、視界が狭まり公道では危険が伴うので、他人に迷惑がかからない程度の余裕を持った状態で走行してもらいたいです。
——ヒルクライムなどで心肺的にも脚的にもキツくなってくると前傾を維持するのが大変になってくるので、一番手前のフラットな部分(通称:上ハン)を持つことが多いですが、持ち方についてアドバイスがあれば教えてください。
ブレーキレバーまで距離があって即座に減速できない状態なので、見通しが良くて速度が出ていない登りに限定されるのではと思います。上体が起きて腰回りの筋肉や呼吸が楽になるので、リフレッシュとして有効ですよね。バーに手を乗せる程度の握り方で荷重を後ろ気味に、上半身の力を抜いて回復を意識してもらえれば良いと思います。バイクの性能が良くなって昔より上ハンを持つことが少なくなったというか、今ではプロでも軽いギアをつけて走るので、昔みたいに重たいギアで激坂を登ることがなくなったのもありますね。当時はかなり高負荷な状態で上ハンを握っているので、常に腕も力んでる状態でしたけど…
ロードバイク応用編③「ダンシング」
“攻め”のダンシング
ダンシングは基本的にパワーが上がる踏み方なので、走行速度と出力を合わせるためにギアを重くする必要があります。加速を目的とした動作なので、直前でギアを数枚重くすることがほとんどです。平地の場合は単純にスピードアップのためなので、レースだとゴールスプリントのように勝負どころで出力を最大限まで上げる時におこないます。初心者の方は登坂前にギアを軽くしてスムーズな走行を心がけたいとお伝えしましたが、選手の場合は登坂セクションが勝負ポイントになるので、登坂前にギアを落とすどころか重たくしてダンシングでスピードを維持したりします。
中級者以上のテクニックになってくるので、初心者の方は次に紹介する方法を試してみると良いと思います。先ほど初心者は停車前にギアを軽くしてスムーズな発進に備えるとありましたが、敢えて重たいギアで停車して、発進時からダンシングというのも織り交ぜていくと走りの幅も広がってきそうです。
“守り”のダンシング
例えば登っている途中、ずっと同じ姿勢で走っていると足腰に負担が蓄積されてくるので、身体をリフレッシュさせる意味でもダンシングは有効ですね。その場合も、登坂スピードを維持するためにギアを重たくしてダンシングすると、出力とスピードのバランスが取れてスムーズに走れると思います。重くしないとダンシング時にペダリングが軽くて速くなるので却って身体への負担が増えてしまいます。リフレッシュのダンシングは数分に1回程度取り入れても良いかもしれませんね。初心者は状況に応じて重くするギアの枚数の判断ができないと思うので、シッティングからダンシングに切り替える時は停車前とは逆でギアを2枚重くしてダンシングするということでやってみてもらえればと思います。あとは経験で加減がわかってくると思うので、そうなると中級者レベルになってくると思います。
登坂時はペダリングに負荷がかかっている状態なので、ギアを重くする際は力を抜いてスムーズに変速させることを心がけたいですね。
ダンシングで気をつけたい”重心”と”ペダリング”
——初心者もそうですが中級者でもダンシング時の重心位置がよくわからないという人がいるようで、何かコツがあれば教えてください。
出力を上げることがダンシングの目的なので、効率よくパワーを伝えるためにも知っておきたいのが力の入れ方とそのタイミング。体重がまっすぐ下にかかることで一番パワーが出ます。クランクアームが3時の位置に最大出力が出るのが効率が良いですが、そのクランク位置で踏み込んでも遅いので、1〜2時の位置で踏み始めているぐらいがベストタイミング。ただ、これって頭では理解できていても初心者の方は再現が難しいと思います。ダンシングの姿勢でこのクランク位置で力を込めるには体を支える力、つまり体幹が発達している必要があります。体幹が弱いと上体が起き上がっていわゆる「一般車の立ち漕ぎスタイル」になりがちです。脚だけでなく腹筋や背筋などの筋肉を鍛えることも走りの上達には影響しますね。
長時間走って手が痛くなるとか、肩が凝る人は上体を体幹で支えられてないのが原因かもしれません。やっぱり基礎体力はどんなスポーツをするにも大事なんですね。
覚えておきたいロードバイク”咄嗟の動作”
ロードバイクはスピードが出る乗り物なので、いざという時に危険を回避できる方法を身につけておくのは大事です。しかし、咄嗟にできるかどうかは基本動作が身についているかによるので、日々のライドで身につけながら頭でも理解を深めていきましょう。
咄嗟の”ブレーキング”
ブレーキは前後それぞれ役割があると言われていますが、ブレーキを効かせる時は絶対に同時にレバーを握ります。ブレーキをかけるとリアホイールの荷重が抜けて、ロックして滑りやすくなるのでフロントブレーキをしっかり握って効かせます。ただ、フロントブレーキを効かせすぎると前転してしまうので、身体の重心を後ろにずらしてあげる必要がありますが、経験豊富なライダーならまだしも初心者にはこれがなかなか難しい。自身の重心位置がよくわからない間は、意図的に重心を後ろにずらすポジション設定というのもアリだと思います。ハンドルポジションが低すぎなければ上体が起きて重心が後ろに移ります。体幹が備わっていない初心者の段階だと腰への負担も抑えられるので、ショップと相談しながらポジションを調整するのは有効だと思います。
走行中の安全なトラブル対処法
——走行中に物を落としたり、バイクトラブルに見舞われた際に取るべき行動でアドバイスがあれば教えてください。
集団で走っていても、一人で走っていても、まず急ブレーキをしないことですね。集団で走っている場合は後続に起きたことを言葉で伝えることが大事です。一人の場合でも近くに車やオートバイが走っていることを考慮して、路側帯などに寄せて停車すること。パンクしてもある程度は走れるので、急なアクションを取らない。逆に急ブレーキなどでタイヤがリムから外れて事故に繋がることもあるので注意したいところです。
走行中に起きたことを急に止まったからといってできることはほぼないので、落ち着いて安全を確保できる状態で落とした物を拾いにいく、またはトラブルに対処することを心がけましょう。
知るほどに楽しくなるロードバイク
操作自体は簡単なので、ある程度覚えればあとは体力次第でけっこう走れてしまうのがロードバイク。しかし、もっと遠くまで走りたい、もっと速く走りたいという欲求が高まってくると、がむしゃらというわけにも行かなくなってきます。そんな時に今回ご紹介した知識が手助けになると思います。上手く乗れるようになることはもちろんですが、安全面も考慮することで長くロードバイクを続けることができるというのもメリットだと思いますので、是非みなさんのライドで試してもらえればと思います。
かなり”深く狭く”という内容でお届けしてきましたロードバイク初心者のためのライディング講座 vol,1。次回もゲスト講師を招いてビギナーが知って得する様々なテクニックや情報をご紹介していきますのでお楽しみに!
Guest Adviser
畑中 勇介
1985年生まれ KINANレーシングチーム所属 脚質:オールラウンダー
フランスやオランダのプロチームでの実戦経験もあるトップレーサーの一人
2017年 全日本ロードレース選手権優勝
2010年 ジャパンカップロードレース3位
国内プロツアー年間総合優勝3回
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