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道交法一部改正 もう自動車は自転車を追い越せない!? 驚愕の新事実発覚!
2025.12.15
2026年4月に自転車に関する道交法(道路交通法)が一部改正されまーす。
これに関しては自転車に対する青切符導入がメディアでも大きなトピックとして取り上げられ、自転車が歩道を走ると6,000円だの、ながらスマホだと12,000円だのと、その反則金の額に関しても話題になっている。
でも同時に自動車が自転車などの右側を通過する際のルールも新設されるってことは知ってる?
新ルールではこれまでなかったこんな条文が加えられる。
第18条
3 車両(特定小型原動機付自転車等を除く。)は、当該車両と同一の方向に進行している特定小型原動機付自転車等(歩道又は自転車道を通行しているものを除く。)の右側を通過する場合(当該特定小型原動機付自転車等を追い越す場合を除く。)において、当該車両と当該特定小型原動機付自転車等との間に十分な間隔がないときは、当該特定小型原動機付自転車等との間隔に応じた安全な速度で進行しなければならない。
4 前項に規定する場合においては、当該特定小型原動機付自転車等は、できる限り道路の左側端に寄つて通行しなければならない。
これは「追い越しではない右側通過」に関する規定。カンタンに言うと「自動車は自転車を追い抜く場合は十分な横の間隔をとりなさい。自転車もなるべく左に寄ってスムーズな追い抜きに協力してね」ってことだ。条文では「特定小型原動機付自転車等を除く」と書かれているが、ここに自転車も除外対象として含まれる。これに従わないと自転車側は被側方通過車義務違反ってことになり、反則金5,000円。自動車側は側方安全間隔不保持義務違反となり、反則金7,000円が課せられる検討がされている。
じゃあ十分な横の間隔ってどの程度なんだろう?

道路を実測調査してみた
よく「思いやり1.5m運動」って言って、自動車は自転車を追い越すとき1.5m以上の間隔を開けて追い越しましょう、って注意喚起してるのを聞く。だいたいそのくらいなのかなって思うよね?
でもさあ。道路の幅ってそんなに広くないじゃん。1.5mってけっこうな距離よ。自転車との間隔を1.5mも開けたら、狭い道だとセンターラインオーバーしちゃう。で、もしそれがはみ出し禁止のイエローラインだったら、自動車はイエローライン区間が終わるまで、延々と自転車を追い越せなくなる。どーすんの? そんな法律ってアリ?
さっそく調査開始!
まずは近所の道路を確認してみよう。

黄色実線(中央線)は、単独で「車両の右側部分へのはみ出し通行禁止」を意味する。追越し禁止は、これとは別に標識で規制される
近所の道路の写真。ここは幹線道路なんだけど道幅が狭め。そこに黄色の実線でセンターラインが引いてある。両側に歩道のない道路の場合、道路ってのは車道外側線(路肩にある白い実線)の間を指す。この片側の幅が2.7m。自転車は車両であり、道路の左側端、つまり白い車両外側線の進行方向右側を走ることになっている。ドロップハンドルの自転車の幅(ヒジ幅?)がだいたい0.6mとしよう。車道外側線ギリギリを走れば車道側に0.3mはみ出す計算。そこに思いやり1.5mをプラスする。さらにクルマの車幅って3ナンバー車だと1.8mくらいはある。ミラーを入れたらもっとある。つまり合計3.6m以上。

ってことはですよ。この道路の場合、その合計は車道の幅を1m近くオーバーしているわけで、つまり自動車が道交法を守ってイエローラインをまたがずに走るためには、自転車と同じ速度で延々ノロノロ運転しなければならないわけでしょう? そりゃ日本全国で自転車渋滞が大発生しちゃいません?
でもさ。道交法には「十分な間隔」とあるだけで、目安になる距離も表示されていない。誰も1.5mとは言ってない。そこんとこ、真っ先に確認しておかないと。
というわけで警察庁に聞いてみた。この十分な間隔って、どんなもんでしょうか? ついでに「当該車両と当該特定小型原動機付自転車等との間に十分な間隔がないときは、当該特定小型原動機付自転車等との間隔に応じた安全な速度で進行しなければならない。」ってとこの「安全な速度」って時速何kmなんでしょうか?
なんで1.5mなのか
警察庁からの回答はこうだ。
「自動車と自転車との間隔や安全な速度につきましては、自動車と自転車の具体的な走行状況に加えまして、道路状況や交通状況などにより異なることから、具体的な数値は規定していません。他方、目安となる距離等については現在検討中となります。」
んー、つれない。
ケースバイケースだから一概には言えないよ、ってことです。でも目安となる距離(側方距離?)については検討中ってことだから、やっぱり目安くらいは出しとかないとまずいんじゃね?という意識は警察庁にもあるようだ。
で、やっぱりそれって1.5mくらいになるのかなー。そもそも「思いやり1.5m運動」ってなんだ? それを平成28年から先頭に立って推進している愛媛県の県民環境部に聞いてみた。

そもそもなんで1.5mなんでしょうか?
「1.5mという数値は、自転車利用者が車道通行に不安を抱く要因の一つである「側方間隔の不足」への対策として、条例の“安全な間隔”を具体化し、ドライバーが実践しやすい目安を示すことを目的として設定したものです。
当県では、自転車の車道通行を促進するにあたり、当時の事故分析から
・自動車による自転車への追突事故は件数自体は多くないものの致死率が高い
・自転車利用者も自動車の至近通過による圧迫感・不安を強く抱いていると考えられる
ことを課題として認識していました。
しかしながら、愛媛県自転車安全利用促進条例第6条第2項に規定する「安全な間隔」は抽象的であり、
・ドライバーの実践につながりにくい
・個人の主観差が大きい
・啓発側も具体的な推奨行動を示しにくい
といった課題がありました。
そこで、条例の趣旨を具体的な行動につなげるため、一定の数値目安を設定することとし、海外の事例や安全教育の指導例を参考に1.5mが検討されました」
行動として理解しやすい1.5m
おお。愛媛県の条例でも「第6条2 自動車等の運転者は、自転車の側方を通過するときは、これとの間に安全な間隔を保ち、又は徐行するよう努めなければならない。」とあり、これじゃわからんだろー!ということで「条例の啓発目標」として1.5mを打ち出したと。
で、その1.5mは海外の事例などを参考にしたということですが、海外ってどこですか?
「現在以下の国で1.0~1.5m程度の側方通過距離を法令またはガイドラインとして定めていることが確認できます。
フランス:市街地1.0m、郊外1.5m以上
ポルトガル:1.5m以上
ルクセンブルク:1.5m以上」

なるほどー。海外でも1.5mを基準にしてるんだなー。
で、これってなんらかの実験や検証などを経て1.5mに決めたんでしょうか?
「1.5mという数値は、絶対的に安全な側方間隔を保証する科学的基準ではなく、条例の趣旨を具体化するための“目安”として設定したものです。そのため、当県として数値の妥当性を実証するための検証・実験は実施しておりません。
設定にあたっては以下の議論がありました:
・“安全な間隔”は道路幅員、対向車、相対速度等に左右され、絶対値の設定は困難
・しかし、条例を推進するには具体的な指標を示すことが望ましい
・1mでは大型車などの通過時に相当な圧迫感が残るのではないか
・1.5m以上であっても、自転車の急な回避行動や転倒には対応しきれない可能性はある
・現実の道路環境では、対向車線にはみ出さないと確保できない場面もある
以上の点を踏まえ、条例を具体化しドライバーが行動として理解しやすい距離として、1.5mを目安とすることが妥当と判断しています」
ちゃんとしてるなー。「ドライバーが行動として理解しやすい距離」として1.5mを目安とした。わかりやすい理由付けだ。さすが自転車先進県の愛媛。決められないから言わない、じゃなくてちゃんと目安を提示してる。
黄色センターラインを減らせばいい
でもまだ「十分な間隔」が1.5mだとは警察庁も言っていないわけです。延々黄色センターラインを越えて自転車を追い越せない問題はどうなる。この原稿もノロノロ運転でどこへ向かって走って行くのかわからなくなってきたころ、ある関係者からこんな話を聞いた。
「関東のS市でその問題に関して議論が進んでいて、今後自転車の追い抜きがしやすいよう、黄色のセンターラインの区間を減らしていくらしい」
おおおおお!? 黄色センターラインを減らす!? やっぱり俺と同じ問題意識を持って、しかもそれをなんとかしようと逆転の発想で対応しようとしている自治体があるってこと!? すげーな、それ!
さっそくS市にメールで問い合わせた。黄色のセンターラインを減らしていく、そんな計画があるんですか!?
「現在本市においては黄色中央線を積極的に撤去していくという計画はございません」
つれない……。

しかし調べていくうちこんな文書を見つけた。
「良好な自転車交通秩序の実現に向けた自転車通行空間の整備に係る留意事項等について(通達)」令和4年1月28日警察庁丁規発第4号
https://www.npa.go.jp/laws/notification/koutuu/kisei/kisei20220128.pdf
これは警察内部の通達(内部指示)で、警察庁交通局交通規制課長から各道府県警察本部長、警視庁交通部長にあてて送られたもの。内容は全国の警察が、自転車レーンや自歩可規制などをどう整備・見直すべきかを示したガイドラインとなっている。
これにはこうある。
「その他留意すべき自転車に係る交通規制追越しのための右側部分はみ出し通行禁止規制(略)の実施区間においては、車両は自転車を追い越す場合であっても道路の右側部分へはみ出すことが禁止されることから、自転車の車道通行が多い区間において当該規制を実施した場合には、右側部分へのはみ出しを避けるため自転車との接触事故が発生するおそれがあるほか、自転車を追い越すための右側部分へのはみ出し通行による交通事故の発生も懸念される。このため、自転車の車道通行が多い区間において当該規制が実施されている場合には、道路交通状況に見合った必要な規制区間となっているか改めて点検を行い、自転車の追越しのための距離を確保できる場合には当該区間において規制の解除を検討すること。また、追越しに必要な距離を確保できない道路の区間が連続している場合には、歩道の幅員に応じて自歩可規制を行うことや、道路管理者に対し、追越しのための車道の拡幅を働き掛けるなど、実態に即した見直しを検討すること。」
ほらほらー。やっぱり規制解除、つまり黄色のセンターラインをなくしていくことを検討しなさいってことになってるじゃないの。ここでは「追い抜き」じゃなくて追い越し禁止区域での自転車「追い越し」に言及している。
やっぱり警察庁も「これはまずい」って気がついてるんじゃないですかー。
現状じゃこの原稿のタイトルどおり「もう自動車は自転車を追い越せない」わけです。
このままじゃヤバいんじゃないの? 自動車も自転車も道交法を守ると道路の秩序は乱れまくりですよ! そう思って警察庁にストレートに聞いてみた。
「走行中の自転車を追い越すために車両(自動車)が黄色実線の中央線をはみ出すのは道交法違反になってしまうのでしょうか? 低速走行により渋滞を招くなど通行に支障が出る場合や、安全確保を優先するためには 「やむをえない場合」として黄色中央線を越えてもいいのではないでしょうか」
驚愕の新事実!?
そして返ってきた警察庁からの回答は予想の斜め上を行くものだった!
「お尋ねについては、道路交通法(昭和35年法律第105号)第30条に規定された「道路標識等により追越しが禁止されている道路の部分」における、前方を走行する自転車の追越し可否に関する質問と思われますが、同条の規定は車両が追い越してはならない他の車両から特定小型原動機付自転車及び自転車を除外しているため、走行中の自転車を追い越すために車両(自動車)が黄色実線の中央線をはみ出すことは禁止されていません。」
ええーーーーーーーっ!!!!
ままままマジっすか!?
あらためて道交法第30条を見てみた。
「第三十条 車両は、道路標識等により追越しが禁止されている道路の部分及び次に掲げるその他の道路の部分においては、他の車両(特定小型原動機付自転車等を除く。)を追い越すため、進路を変更し、又は前車の側方を通過してはならない。」
最初に書いたとおり、条文では「特定小型原動機付自転車等を除く」とあるが、ここには 軽車両(自転車)も除外対象として含まれるので、自転車は追越し禁止の対象外になる。つまり自転車を追い越すためなら自動車は黄色センターラインを越えてもいいってことか!
早く言ってよ~!

いやあ、びっくりでした。知ってる人は最初から知ってたのかもしれないけど、こんな法律があったなんて。なんで誰も教えてくれなかったんだ。ひょっとしてみんな知らなかったのか?
じゃあさっきの通達の文書は何だったのかということにもなるが、それはさておき。
単に距離を守るだけじゃなく
で、結論です。自動車は自転車を追い越せます。たとえ黄色のセンターライン区間であっても。
だから自動車は黄色のセンターラインの場所でも「十分な間隔」をとって安全に自転車を追い越してください。もちろん対向車に対する安全にも留意して。そして自転車も危険でない範囲でなるべく左側に寄りましょう。
でね。今回の取材でいちばん心に残ったのは、思いやり1.5m運動について聞いた愛媛県県民環境部からのメール返信の最後にあったこの言葉だ。
「「思いやり」という言葉には、単に距離を守るだけでなく、「互いに尊重し、安全に道を分かち合うというシェア・ザ・ロードの姿勢を広く伝えたい」という思いが込められています」
自転車を追い越すときには何m間隔をとらなければ交通違反になるのか? 危険回避のために黄色センターラインを越えたら罰金なのかっ? 「間隔に応じた安全な速度」っていったい時速何kmなんだっ! どうなんだどうなんだ!!!???
大事なのはそんなことじゃない。
ドライバーとサイクリストが互いを尊重し気遣い合うという交通モラルの基本を大切にしましょう。ただそれだけだ。
センターラインが何色かにかかわらず、後ろから大型車が来たら自転車はなるべく左に寄って道を譲る。場合によっては歩道や空きスペースに逃げる、停止するなどして身の安全を守る。自動車も十分徐行して、可能な限り側方距離をとって自転車を追い抜く。対向車が切れない場合など、しばらく自転車を追い越せないこともあるだろう。でもそれでいいじゃないか。
その両方の気持ちを理解して、「互いに尊重し安全に道を分かち合う」。それぞれの見本となる行動をとる。それができるのはサイクリストでありドライバーでもある俺たちだ。
いやあ、また教えられましたなー!
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