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自転車×遊び=自由。気鋭のフレームビルダーが仕掛ける「自転車×アート×音楽」なイベント
2024.05.10
依頼者の体格や要望に合わせて、オーダーメイドでその人だけの一台を作り上げる__。
自転車のフレームビルダーと言う職業は、一聴すると「限られた自転車愛好家のみが関わる人物」という印象がどことなく思い浮かぶ。
確かに、自転車に関する幅広い知識に加えて緻密な設計と繊細な技術を必要とする職業ゆえに「自転車文化に幅広く精通している熟練あるいは職人気質な人物像」といったような、一般の方からすると一定の距離感や敷居の高さのようなものを感じるのも無理はない。
一方で「自転車のまち」と言われる大阪府堺市で育ち、気がつけばごく自然に自身の地元で工房を構えるまでになったフレームビルダーの寒川さんは、(失礼を承知で言うと)万人が描く「職人のステレオタイプ」をいい意味で裏切るような、柔和な空気を纏う気鋭のフレームビルダーだ。
本格始動から9年が立ち、輪界関係者にも愛用者が多く、昨今は堺市が誇る世界の自転車企業SHIMANO社とのタイアップでフレーム製作を手掛けるなど、ビルダーとして脂の乗り切った彼が、この春に満を持して自身が企画した新たなイベント「BICYCLE INN PARK」を仕掛ける。
「自由な市場 – 自転車&遊びの提案 アートと音楽」という、自転車イベントとしては目新しいコンセプトを掲げ開催されるこのイベント。主催者である寒川さんは、いったいどういったバックグラウンドをもつ人物なのだろうか。
堺で育ち、自転車をはじめ多様な文化にのめり込んだ青年
-まずは簡単に自己紹介からお願いできますでしょうか?
大阪府堺市でソウカワガレージというショップ兼工房を拠点に、オーダーメイド自転車の製作をメインに活動しています、寒川です。よろしくお願いいたします。
-堺で育った寒川さんにとって、やはり自転車は身近なものなのでしょうか?そもそもなぜフレームビルダーに?
そうですね。近所の先輩や友達の影響もあって、比較的若い頃からから自転車にはのめり込んでいたと思います。
自転車ショップでの販売スタッフを経験した後、縁があって自分自身が自転車をオーダーで作ってもらえる機会に出会ったんです。
その時に「最新や最高峰の製品だけが最良では無い」という印象が自分の中にとても強く残ったんですよね。
実は当時、勤務していたショップから独立して自分のショップを立ち上げようと環境を整えて間もない頃だったんですが、お店の方は信頼できるパートナーがタイミングよく見つかったこともあって彼らに託し、自分自身は感じた原体験に突き動かされるようにフレームビルダーを志すようになりました。
-寒川さんがこれまで手掛けられた自転車を見ると、ストイックなスポーツバイクという枠組みにとらわれない、どこか自由で、遊びのような要素が入っているように感じます。
買う側の意見が反映されて仕上がる自転車は、用途に限らず特別な想いが詰まっています。自分が自転車製作の世界に足を踏み入れてからは、フレーム制作だけでなく組立まで含めた「用途に合わせた自転車作り」を徐々に意識するようになり、今現在も常にそういったことを頭に置きながら1台づつ製作に取り組んでいます。
スポーツバイクである以上、「ストイックなレース自転車」へのリスペクトは自分にとって外せない重要な要素。一方で、自分はこれまで一般軽快車〜街乗りスポーツバイクというように、色々な遊び方に合わせたスポーツバイクに触れ、経験し、販売してきた自負もある。もちろん、他の多くの少年たちと同じように、年頃には自転車だけでなくスケートボードや音楽や釣りなど様々な文化にも同じように熱中しました。なので、現在はそう言う自分の経験も投影しながら、柔軟に活動しています。
年をとっても自転車に関わる仕事を楽しめることを夢見て
-改めて聞くと、寒川さんが今回のようなイベントを企画することは、ごく自然なように思えますね。しかし、イベントを実現しようと踏み切った具体的なきっかけはどういったことだったんでしょうか?
まず一番はやっぱり先輩がその道を作ってくれた事でしょうか。背中を見て、時には自分自身も手伝いながら関わっていく中で、自分なりの繋がりやアイデアが膨らんでいきました。その後タイミングよくTOJ堺ステージと業界の方々から協力と理解を頂けたこともあって、動くなら今だと決心しました。
フレームビルダーは一般的な自転車ショップに比べて納期の調整等が比較的しやすい営業形態であることも、踏み切れた理由かもしれません。もちろん自分のお客様には迷惑をかけることにはなるのですが…。あと、ここ最近になってより思うのが、今の自分の立場はショップや代理店とまた違って、フラットで中立的な立場で動けそうだと感じていて。「自社製品を優先的にプロモーションしなければいけない使命」のようなものとは少し切り離されているというか。業界の中だけでなく他の方面からの協力も、もしかしてフレームビルダーだからこそあまり波風を立てずに得られるのでは、と思ったんです。
-確かに、今回のイベントの出展ブースの顔ぶれは企業/個人や業界/業界外の壁を越え、非常にバラエティに富んでいるように感じます。
自分一人ではなかなか実現が難しい領域でもあるのですが、日々自転車作りをする中で、やっぱりモノだけを作って終わりではなく、コミュニティ作りの大切さや、ちゃんと遊べる場所の必要性を感じていて。
今回イベントに賛同してくれた出展者は、自転車を自転車としてだけで終わらせず、自由な提案や楽しみ方を実践している人たち。
固定概念は一度置いておいて「自転車」という共通のキーワードで、ジャンルを越えて幅広く連携し根付かせる事ができれば、いろんなコミュニティが生まれてそれがやがて遊ぶ場所作りへと広げていくことも出来るのかな、と。
そんなことが実現できれば、自分自身がおじいちゃんになっても楽しく自転車に関わる仕事ができそうだなと、夢みたいな事を考えています。
イベントへの期待と今後の展望
-改めて今回の「BICYCLE INN PARK」、堺で初開催することの期待はありますか?
この街には子供の頃からいろいろ勉強させてもらってきていますが、特に「産業」としての側面では「自転車のまち」が正しく実践ができていると感じる一方で、自転車を乗る人に向けた「環境や場所づくり」としてはまだまだできることがあるのではと。この街だからこそ、時代に合わせた内容で実施していきたいコトがたくさんあります。
自転車は、多くの人にとって非常に身近な乗り物で、運動にもなる非常に魅力的なツール。小さな子供からお年寄りまで一緒に楽しむことだってできるし、しっかりと環境整備をして自転車利用が増えれば、地域商店や人の繋がりも生まれて暮らしやすい街づくりを実現することだって夢じゃない。堺市には大きな公園や魅力的なお店が沢山ありますし、今回のイベントをきっかけに生まれる新たな賑わいやコミュニティを期待しています。
-では最後に、今後の展望を。
自転車づくりとコトづくりを、良いバランスで取り組んでいきたいですね。自転車だけ作っていても、今できることをやっているだけで将来の可能性に制限をしている様な気がし始めていて、一方でコトだけ作っている自分を想像するとそれはそれで違和感もある。だから、当面は両方において現場の目線を大事にしながら成長していきたいと思っています。
Tシャツ一枚で過ごせる心地よい気温になったこの時期。木漏れ日が気持ち良いこの公園で開催される、新たな自転車イベントをぜひのぞいてみてほしい。
BICYCLE INN PARK
新緑の季節である2024年5月19日(日) に「自転車のまち」堺市の大仙公園にて初開催される「自由な市場-自転車&遊びの提案 アートと音楽」をテーマにした自転車イベント。2024年5月19日(日) 大阪府堺市大仙公園にて、日本最大級のUCI公認ステージレースTOJの堺ステージと併催。
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寒川勝一(ソウカワガレージ/CORNER)
店舗経営、レースメカニック、スクール講師などを自転車業界で経験し、2015年に生まれ育った堺市でショップ兼工房のソウカワガレージを開業。オリジナルブランドCORNERを主宰し、フレーム設計や製作、販売、修理を行う。
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