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ボクらは怪しい探検隊!マニアといく自転車散歩vol.2「マンホールマニア 傭兵鉄子さん編」

マニアというのは、大体において怪しい。住宅街の道端にしゃがみこんでいる人がいて、体調でも悪いのかなと思って近づいてみると、マンホールマニアがマンホールの写真を撮っていたりする。ひとん家の石垣をじっと見つめている人がいて、ドロボー集団の下見係の人かも!と思ってするどく睨んだりすると、苔マニアが石垣のすき間に生えているスナゴケを愛でているだけだったりする。マニアは怪しいし、紛らわしい。しかしながら、なにかに夢中になっているその姿は、少々うらやましくもある。この連載では、そんな怪しくてうらやましいマニアの方々の案内で、マニアの世界のほんの入口を少しだけ覗いてみたいと思う。

マンホールマニア 傭兵鉄子さん登場

マニアと行く自転車散歩、第二回目の案内人はマンホールマニアの傭兵鉄子さん。なかなかにイカツイ名前だけど、もちろん本名ではない。彼女は学生時代、ふとしたきっかけでマンホールの魅力にズッポリハマり、それ以来ステキなマンホールを探し求めて日本全国を旅するスーパーマンホーラーだ。現在は、編集系のお仕事の合間に、マンホール蓋愛好家主催のイベント「マンホールナイト」の実行委員を務めたり、東京都下水道局の広報誌に「鉄蓋大好き!」というコラムを書いたりして、日夜マンホールの魅力を精力的に発信されている。

今回は、傭兵鉄子さんに作成してもらった「初心者向けいろんなマンホール見学コース」にしたがって、都内新宿区および渋谷区に点在するマンホール観察ポイントを巡ってみる。はたしてマンホールの魅力とはいったいなんなのか?じっくり探ってみたい。

出発前の傭兵鉄子さんの後ろ姿。べつに顔出しNGというわけではない。彼女が持つマンホール図柄のショルダーバッグを見てほしい。隠し切れないというか、隠す気のないマンホール愛!

ご本人登場と回したくなるフタ

傭兵鉄子さん(以下、鉄子さんと書きます)と待ち合わせをしたのは都営大江戸線の国立競技場駅。彼女の案内で、まずは東京オリンピック2020を記念して作られたデザインマンホールを見に行く。

これがそのマンホール。正式名称は東京2020大会仕様デザインマンホール蓋。国立競技場周辺に色違いで5種類設置されているそうだ。こういった樹脂製のデザインパネルをマンホールの表面にネジ止めするタイプのマンホールのことをデザインストリーマー蓋というそうだ。そして余計なことを書いてしまうと、こういうデザインストリーマー蓋は、マンホールマニアの中ではあまり人気がないらしい。嫌いじゃないんだけど、かといって好きでもないというか、そんなちょっぴり切ない位置付けなんだそうだ。

デザインストリーマー蓋の名誉のためにその長所を書いておくと、微妙な色合いや繊細なデザインを表現するにはこれが最適で、あと実際にやるかどうかは別にしてイベントごとに中身を入れ替えたりもできるらしい。

鉄子さんに「ここから撮るといいですよ」と教えてもらって撮った一枚。東京オリンピック2020のデザインマンホールとオリンピックスタジアムとして利用された国立競技場のツーショット。デザインマンホールとそのデザインに関連するモノをいっしょに撮るこういう写真のことをマンホールマニア界隈では「ご本人登場」というそうだ。

2つ目の見学ポイントに向かって走り出そうとしたら、路上に迷彩模様のマンホールを発見。なにげなく見ていたら、「これはインターロッキング蓋です」と教えてくれた。インターロッキングとは地面にコンクリートブロックを敷き詰める舗装のことで、このマンホールは道路上のインターロッキング模様に合うように、職人さんがブロックをひとつひとつ手でカットしながら現場施工で作っているそうだ。「手間が掛かってるんですね」というと、「そうなんですよ。胸アツですよね!」と鉄子さん。

このインターロッキング蓋だが、手間が掛かる上に、鉄のお椀の中にブロックを入れるという構造上、かなり重くて、開け閉めするのが大変らしい。さらに作業員が閉めるときに無頓着に閉めてしまって、せっかく現場施工でそろえた模様がズレてしまうことも多いという。下の写真は、後日、別の場所で見かけたインターロッキング蓋。マンホールの向きがナナメっている。こういうおかしな角度のインターロッキング蓋のことを鉄子さんは「回したくなるフタ」と呼んでいるそうだ。たしかに許されるものなら回したくなる。

聖徳記念絵画館の量水器のフタはデカくてカッコいい!

国立競技場を後にして、2つ目のマンホール観察ポイントである聖徳記念絵画館に向かう。そこにはマンホールマニア内でも有名で、鉄子さんも「デカくてカッコよくて大好き!」というマンホールがあるそうなのだ。

自転車で走ること約5分、聖徳記念絵画館に到着。早速目的のマンホールまで案内してもらう。下の写真がそのマンホールなのだが、一見、別にどうってことのないフタのように見える。このフタのどういったところがマンホールマニアを惹きつけるのだろう?鉄子さんに聞いてみよう。

「まずデカいですよね!」…な、なるほど。「このフタは量水器のフタで、開けると中に水道メーターが入っているんですけど、これぐらいの大きさの量水器のフタはなかなかないんです」…デカいからカッコいい。シンプルだけど、わかりやすい。

「あとこの縁石があるのがまたカッコいい。昔、アスファルトがなかった時代は、大きな通りとかもだいたい土だったんです。その時にフタだけだと、つまずいたりズレたりする。それを防ぐために縁石があって。石もいい石を使ってるんですよ」…フムフム。

「あと、これ、二枚のフタになっているんですけど、真ん中の水の文字が半分に分かれてますよね。ちゃんと真ん中で切って。こういう職人さんのこだわりみたいなところもいいんです」…た、たしかに。

「それと、量水器って文字もかわいい。昔って人が書いたものを鋳型におこしてるんです。今と違ってフォントがあるわけじゃないので。だからモノによって字が違う。それがまた面白いんです」…なるほどなるほど。

「あと摩耗具合。最初この雨粒みたいなのって、もっと尖ってたと思うんですよ。それがいろんな人がこの上を歩いた結果、角が取れてつるんとなってきた。そういう経年劣化というか経年変化もすごくいいんです」…なるほどぉ~。

という具合に、目をキラキラさせながらなるほど的な話を連発する鉄子さん。にわかマンホーラー的にはすでにお腹いっぱいになりつつある。しかし、鉄子さんのマンホール講義は容赦なく続くのだ。

下の写真は、巨大量水器フタの近くにある、大正後期から戦前にかけて作られたという年代モノマンホール。右書きの漢字で阻水弇(そすいえん)と書かれてある。阻水弇は今でいう制水弁のことで、中には水道を開け閉めするバルブが入っている。

これも同じ制水弁のフタだが、もう少し後の時代のもの。戦時中から戦後にかけて作られたもので、金属供出の時代ゆえコンクリート製になっている。これまた聖徳記念絵画館の敷地内にある。

聖徳記念絵画館の敷地内には現行の制水弁のフタもある、というかこっちの方が多数派だ。古いマンホールは割れや摩耗により、新しいものに置き換えられていく。マンホールの耐用年数は車道で15年、歩道で30年ぐらいらしい。戦前、戦中のマンホールはなかなか出会うことのできない貴重な文化的工業遺産なのだ。

燈孔、そして千ホール。博物館級骨董蓋を見に行く

「次は骨董蓋を見に行きましょう!近くに有名なのがいくつかあるんです」。

骨董蓋というのは、明確な定義はないが、戦前に設置されたマンホールのことを指すらしい。さきほど紹介した阻水弇と書かれたマンホールも骨董蓋のひとつなんだそうだが、これから見に行くのは骨董蓋中の骨董蓋。博物館の中で展示されていてもおかしくないレベルの骨董蓋なんだそうだ。

自転車で走ること10分。渋谷区神宮前の住宅街に到着。鉄子さんのマンホール講座が始まる。

「この道は昔、昭和の初めのころまで渋谷川の支流だったんです。下水管路って、下水管を埋設して作る場合と、もともと川だったところを下水道として利用しているものがあって、この道路の下には後者の、もともと川だった下水管路が走ってるんです」…フムフム。

「自然の川って、蛇行して曲がってたりするんですけど、それをそのまま下水管路として利用しているので、中に入って点検するときに、まっすぐじゃないので見通しが悪いんです。だから、ところどころ道路に穴を開けて、そこからランプを吊り下げていたんです。まだ懐中電灯がなかった時代に。それで、そのランプを吊るすための穴のことを燈孔、ランプホールっていうんですけど、それがこの先にひとつ残ってるんです」

向こう側が上流で、こっちが下流。写真の奥の方で右左と蛇行していて、そのあたりに燈孔がある

これがその燈孔。さきほどの巨大量水器フタと同じように、しっかり縁石に守られている。技術革新が進むことで不要になった技術のことをロストテクノロジーというが、戦後、懐中電灯が普及するにつれて使われることがなくなった燈孔もまたロストテクノロジーのひとつなのだ。

すぐ近くには、フタが割れてしまったのか、コンクリートで埋められた燈孔跡があった。上の写真の燈孔もいつこうなるかわからない。

これも近くにあった燈孔跡。コンクリートではなく鉄板で塞がれている。これはこれでなんとも言えない味わいがある。

燈孔と燈孔跡の小道をあとにして、ふたたび自転車で走ること数分。渋谷区千駄ヶ谷にある第二の博物館級骨董蓋に到着。

「千の文字が真ん中にあるでしょう。これもものすごく古いフタで、千駄ヶ谷町っていって昭和7年まであった町のマンホールなんです。統合されて今は渋谷区千駄ヶ谷何丁目という住所になってるんですけど。千駄ヶ谷町のマンホールだから、千ホールって呼ばれていて、現存してるのはこの1枚だけなんです」

「少し先に千駄ヶ谷町時代の別のフタがあるので、それも見に行きましょう」と言われて見に来たのがこちらのフタ。右書きで水止栓と書いてある。もちろんこれも昭和7年より前に製造された骨董蓋だ。

現在、東京の上水道は東京都水道局が管轄しているが、昔は町や村ごとに水道町村組合というのがあって、それぞれの町で水道を管理していたそうだ。そして千駄ヶ谷町には千駄ヶ谷水道という組合があり、上の写真のフタはその千駄ヶ谷水道が設置したフタなんだそうだ。

「フタについてる紋章がカッコいいんですよ」と言いながら鉄子さんがカバンからタブレットを出して、千駄ヶ谷水道の紋章を見せてくれた。たしかにカッコいい。この紋章の付いたフタもドンドン数を減らしていて、もう数えるほどしかないそうだ。

千駄ヶ谷水道の紋章付きのフタがこの先にもうひとつあるというので見に行ったらこんな状態だった。道路工事に完全に巻き込まれている。となりの鉄子さんが「うわーうわー飛んだらどうしよううわーうわー」という悲痛な声をあげる。マンホールが撤去されたり交換されたりすることをどうやらマニアは飛ぶと表現するらしい。

この骨董蓋が、撤去されるのか、あるいはそのまま無事に残るのかはわからない。でもこういう具合にその歴史的マニア的価値を顧みられることなく、あっさり撤去されていくことも多いんだろうなという気がする。

撤去されるかもしれない骨董蓋の写真を撮る鉄子さん。彼女の撮った写真が東京大空襲や高度成長期の街並み大変動を生き延びた歴史あるフタの遺影にならないことを祈りたい。

明治通り沿いの歩道に、もうひとつすごい骨董蓋があるというので、そちらに向かう。下の写真がその骨董蓋。ぱっと見たかんじ、それほど古くなさそうだが、マンホールの真ん中に刻まれた「東」の文字に注目してほしい。実はこのマンホール、東京都がまだ東京府と呼ばれていた時代のマンホールなんだそうだ。

「東京都って、昭和18年に東京府と東京市が合体してできたんですよ」という、大阪維新の会の大阪都構想の元ネタのような話を聞きながら、骨董蓋と鉄子さんのツーショットをパシャリ! いい笑顔だ。

3月のライオンの鋳物製デザインマンホールはすばらしい

骨董蓋の話はここまでにして、ここからは自転車散歩中に見かけた現行のマンホールについて少し書いてみたい。

下の写真は、どこにでもあるもっともオーソドックスな模様のマンホール。マニア界隈ではJIS蓋、もしくは地味蓋と呼ばれている。JIS蓋と呼ばれている理由は、日本産業規格(JIS)に記載されている下水道マンホール蓋の製造図面に参考例としてこの模様(地紋というそうです)が載っているからだそうだ。

こういった地味蓋にもいくつか種類があり、この模様は東京市型。ほかに名古屋市型というのもあるそうだ

昔はこういった地味なマンホールしかなかったそうだが、1980年代に入ったあたりから、下水道のイメージアップを目的としたデザインマンホールがバブル経済の後押しもあって全国の自治体に広がっていったそうだ。

下の写真は、そんなマンホールデザイン改革運動の中で作られたデザインマンホールのひとつ、東京都下水道局のデザインマンホールだ。真ん中にソメイヨシノ(都の花)の花、花びらの間にイチョウ(都の木)の葉、その周囲に12羽のユリカモメ(都民の鳥)がデザインされている。

これは上のマンホールの小型版。同じようにソメイヨシノとイチョウとユリカモメがデザインされている。ちなみにこのフタは、ソメイヨシノの花びらが犬の顔のように見えるという理由で、マニア界隈では「犬の集会」と呼ばれているそうだ。

こちらは令和になってから普及が進む耐スリップ型マンホール。雨の日にマンホールが原因で起こるバイクや自転車のスリップ事故を防ぐために開発されたもので、表面にたくさんの突起がある。東京都下水道局の管轄エリアでは、今後マンホールを新しくする場合はすべてこのタイプになっていくそうだ。

下の写真は千駄ヶ谷大通り商店街に設置されている、将棋をテーマにした漫画「3月のライオン」のデザインマンホール。この漫画の舞台になっている将棋会館が千駄ヶ谷にある関係で、2020年に設置されたそうだ。

今日、鉄子さんに会って話を聞くまで、デザインマンホールとはこういうマンガやイラストが描かれたマンホールのことなんだろうと思っていたが、それは大きな間違いで、このてのマンホールは、分類学的にいうと、デザインマンホール目カラーマンホール科マンガ属ということになるらしい。近縁にはデザインマンホール目カラーマンホール科アニメ属というのもある。なんだかややこしい書き方になったが、要はデザインマンホールの中の1つのタイプということである。

この「3月のライオン」のデザインマンホールは、最初に紹介した東京オリンピックの記念マンホールのようなストリーマー蓋ではなく、鋳物製マンホールに手作業で色を塗ったものである。鉄子さんはそこがスバラシイという。

鉄子さんの説明によると、マンホールの表面はスリップ防止の観点からガッチリした太い線しか描けず、マンガやアニメをもとにしたデザインマンホールを作る場合、原作者の理解と協力がないとなかなか難しいそうなのだ。「3月のライオン」の作者の羽海野チカさんはデザインマンホール化についてものすごく前向きで、わざわざマンホールのフタ用に太い線で登場人物の絵を描いてくれたそうだ。

上のマンホールの男性が「3月のライオン」の主人公である桐山零さん。なかなか渋い色のサングラスをかけているように見えるが、これは瞳とメガネ部分が汚れてしまっているからだ。こういう経年変化が面白いと思える人もいるが、原作ファンの中には残念と感じる人もいて、ストリーマー蓋が増えている背景にはそんな理由もあったりするみたいだ。

ついでに将棋会館に寄って、マンホールカードをもらってきた。

マンホールマニア流記念写真の撮り方

最後に東京体育館の前に珍しいマンホールがあるというのでやってきた。下の写真がそのマンホールで、これは1990年に今の東京体育館を建てたときに、たったひとつ東京体育館のために作られたマンホールなんだそうだ。珍しい八角形のマンホールで、表面に1990 Tokyo Metrpolitan Gymnasiumと書いてある。

本日のラストマンホールの写真を撮っていたら、鉄子さんから「記念写真を撮りませんか?」という提案があり、そして撮ったのが下の写真。こういう具合に足を少し乗せて撮るのがマンホールマニア流なのだ。

足を入れて撮るとマンホールのサイズ感がよくわかる

少し長めのあとがき

最後にいくつか補足しておきたいことがあるので、少し長めのあとがきとして書いておきます。

まず、マンホールマニアとひとくちに言っても、そこにはいろんな趣味嗜好のひとがいて、地味蓋だけを追いかけているひとや、展示蓋といって公共施設などに展示されているマンホールだけを追いかけているひともいるそうだ。けっして鉄子さんの好き嫌いがマンホールマニアの総意ではないことに留意いただきたい。

次に、今回は上下水道関係のマンホールを中心に紹介したが、他にも電気関係、通信関係、警察関係、消防関係など、路上にはさまざまな種類のマンホールが設置されている。そういったマンホールについてのマメ知識的なことも鉄子さんにはたくさん教えてもらったが、書くのが大変なので省いてしまった。鉄子さん、ゴメンナサイ。

もうひとつ、これは鉄子さんからのお願いで、マンホールは踏まれることで錆から身を守っているそうで、人に踏まれないマンホールはあっという間に錆びてしまうらしい。マンホールは踏まれてナンボ、骨董蓋だろうがなんだろうが、バンバン踏んずけてほしいそうだ。

後日、公園の植栽の中に見つけたマンホール。人に踏まれることがないせいか、錆び錆びだ

以上、マニアといく自転車散歩マンホールマニア編、これにて終了となります。鉄子さん、ありがとうございました!

傭兵鉄子さんのブログ 「路上散歩備忘録(改)」

おまけの一枚。千駄ヶ谷の街をTernのVERGE P10に乗って颯爽と走る鉄子さん。めっちゃ健脚でした。

参考:今回の自転車散歩のルートマップ(一部のマンホールの場所については個人宅のすぐ前にあったりするため省いています)

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