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【特別対談】自転車専門誌名物編集長「自転車って実際、◯◯に良い?」

スポーツバイクの代表的メディア「Cycle Sports」とマイペースでゆるーく自転車を楽しむ「自転車日和

——今回はSHIFTA公開を記念して、スポーツバイク専門誌の代表的メディア「Cycle Sports」の編集長 中島丈博さんと、マイペースでゆるーく自転車を楽しむ脱力系メディア「自転車日和」の編集長 横木純子さんにお越しいただきました。

 
八重洲出版の「Cycle Sports」とは

——株式会社八重洲出版の「Cycle Sports」は、日本でいちばん売れている自転車専門誌として知られています。ロードバイク、MTBをメインに最新の製品情報から使いこなし方、楽しみ方までご紹介されていて、専門ジャーナリストによる試乗インプレッションなども人気ですね。

中島さん:現在、日本で唯一の自転車月刊誌サイクルスポーツは、1970年創刊と、現存する一番古い自転車雑誌で、雑誌以外にウェブも10年以上、SNS、YouTube、イベントとサイクリストに対して、多角的チャネルがある、日本一の自転車メディアだと標榜しています。イベントは、毎年恒例の名古屋サイクルスポーツデイズに加え、昨年はヒルクライムイベント(志賀高原ヒルクライム)も主催しました。

 
辰巳出版の「自転車日和」とは

——辰巳出版株式会社の「自転車日和」は、初心者から趣味人まで、自転車をマイペースで楽しみたいすべてのサイクリストへ贈る、脱力系マガジン。MTBと小径車成分多めで、ゆる~く自転車情報をお届けされています。

横木さん:初心者からベテランまで、競技志向でない自転車の楽しみ方を幅広い視点から伝える、マイペース&脱力系がテーマの自転車ライフスタイル誌です。創刊当時は編集長ではありませんでしたが、企画を出した、「自転車日和」の発案者といった立場でした。「自転車日和」の前は2003年にMOOKで小径車のカタログ本からスタートし、「自転車日和」は2005年からとなります。

中島さん:2005年といえば、僕はまだこの業界にいませんでした。八重洲出版に入ったのは2009年で、それまではメッセンジャーをしていたので、その辺を走り回っていましたよ。

取材は、シマノが南青山で運営する「ライフ クリエーション スペース OVE」をお借りした。ここでは、新しい自転車の愉しみ方やカフェや家具、雑貨、アートイベントなど、さまざまなコト・モノに触れられる。

 

誌面作りとネットでの展開

——1970年創刊と長い歴史を誇る「Cycle Sports」(*1989年までは「サイクルスポーツ」)と、2005年創刊と比較的最近(*とはいえ20年近く発刊)のメディアとも言える「自転車日和」。時代に応じた雑誌の役割などもあったと思います。

 
質問「雑誌とウェブのそれぞれの役割は?」

中島さん:雑誌には誌幅(ページ数)に限りがあるので、雑誌のみ作っていた時は落としていたネタがたくさんありました。良くも悪くも編集されていて、キュレーションされたものが掲載されていました。ウェブはある意味無限に、どんな雑多な情報でも載せようと思えば載せられるので、自転車に関することであれば幅広く掲載しています。月刊誌が出るのは月に一度なのでじっくり読んでもらえるのと、美味しいところだけまとめられていているのが特徴です。

中島さん:また、誌面をゆったり開けて読みやすくするために前編集長の時には判形(ページ幅)を広げたり、紙媒体ならではですが字詰めなどにも実はこだわっています。

横木さん:ウェブはリアルタイム、速報性が特徴ですが、たくさん届くリリースの中から緩めの情報を選んで掲載しています。雑誌は興味のある人が購入して読みますが、ウェブでは雑誌を買うまでではないけれどちょっと自転車に興味があるというような一般の方に届いて欲しい情報も発信しています。自転車日和はエントリー層を広げる立ち位置のメディアなので、初心者が検索してヒットしそうなキーワードを盛り込むことで、これから自転車を始める人に響いてほしいと考えています。

横木さん:ウェブだと自分の興味のあることを検索して情報に触れますが、誌面だと自分の知らなかった領域のことにも触れられる点が良い点だと思います。

 
質問「新しい製品の情報収集はどのように?」

中島さん:リリースのほか、Twitter、Facebook、海外サイト、YouTube……フォローするアカウントは考えています。海外ならジャーナリストのアカウントや、FacebookではCampagnolo Tech Talkというグループでカンパオタクたちの情報交換をチェックしています。あとはお世話になっている自転車販売店によく行っています。我々は新車の状態でバイクを借りてすぐに返すので、しばらく乗られたバイクがどんな風になるのかを知りません。販売店さんはその辺りをよくご存知なので、聞くことが多いですね。

横木さん:私もリリースやSNSが多いですが、小径車のムックや『MTB日和』も発行しているので、SNSでは主に小径車やMTB関係のアカウントをチェックしています。あと誌面でショップのカスタム自転車紹介企画があるので、その取材の際に最近のユーザーの動向は集めたりしています。

 
質問「ビギナーからマニアまで幅広い読者層に向けて気をつけていることは?」

横木さん:基本は、マニアックになり過ぎない。自転車ファンが増えることが大切なので、ターゲットが絞られないように、という点を意識しています。あとは、初心者でもベテランでも楽しめる内容、楽しみ方方面に振った情報は意識しています。機材でも、誰にでも役立つ情報を取り上げています。

横木さん:作り手は難しい専門的な用語を使いがちですが、知っていて当然という書き方にならないように気をつけています。以前、販売店さんに取材に行った際に、お店の方が「自分の母親にも分かるように接客している」と仰っていて、確かに自転車に詳しくない人へ向けて説明する際に参考になるな、と。それをやりすぎると回りくどい説明になるので、どの程度かみ砕いて文章を書くかは気をつけています。

モデル、ヘアメイク、カメラマン、編集部、全員で自転車散歩を楽しみながらの撮影も。「折りたたみ自転車&スモールバイクカタログ2023」撮影時のひとコマ。

 
——「Cycle Sports」の読者はコアなファンが多いイメージがあるので、初心者向けにはどうされているのか気になるのですが。

中島さん:本当の初心者に向けた記事は正直無いのですが、学生の部活の連載ページがあって、初心者ではないですが自転車にそういう若くていちばん熱い子たちを取り上げるページを作っておくとかはしていますね。また、機材、機材、機材、って突っ走っていたのがこれまでの「Cycle Sports」だったのですが、新型コロナで新製品のスケジュールは狂い、モノは来ない、値段は上がる……という状態や、ディスクブレーキが出てきた時に「もう分からない」と止まってしまった人たちに(自転車はみんな持っているというのは同じなのですが)ディスクロード用ホイール特集は刺さらない、という状態になりました。なので、以前だと巻頭に掲載していたような新製品や、機材の弄り方といったマニアックな情報も、最近は後ろの方に割り付けを変えました。で、今あるロードバイクで遊べる……どんな高い機材のロードバイクでもアルミフレームのバイクでも楽しめるツーリング情報などを巻頭に持ってきています。初心者というわけではないですが、機材のレベル、自転車歴に関係のない誌面にしようと思っています。

横木さん:確かに、「自転車日和」でも「MTB日和」でも、マニア向けの機材やレース関連の情報は後ろの方にして、入りやすい情報を前に持ってくるというのはしています。

 
質問「編集長として大変な点は?」

中島さん:自分自身はウェブ、雑誌、YouTube……といったコンテンツの全体で採算性が取れていればいいという考えで並列で走らせているのですが、会社はそうはいかなくて、雑誌、ウェブ、みたいな区切りで売り上げを見られるのが、大変ですね。あとは老舗の辛さというか、「Cycle Sports」がハイレベルな本と思われることが多くて。

横木さん:大変なところといえば、やはり見渡すことでしょうか。誌面やウェブのバランスをとる作業というか。いい言葉が浮かばないですが。

中島さん:横木さんの言葉をお借りするなら、見渡してポジションを上手くとるのは大切だと思います。グラベルバイクが出てきた時にすごく先取りをし過ぎて、売れなかったとか。誰も持ってないのに、グラベルバイクのタイヤ選びをやったり。持って、遊んで、その後にタイヤを替えようってなるので、2年早かったな、と。

「Cycle Sports」の編集長 中島丈博さん。

 
中島さん:世相も気にしていますね。コロナの影響でどうとか、物価が上がってお父さんの小遣いが減っているとか。編集長になった瞬間にコロナ禍になったのですが、世の中がノーマルに戻ってきてからの今の方が、逆に何やったらいいのか分からないので難しいですね。

横木さん:制限がないことの難しさですね。

 
質問「読者との距離感、SNSの活用や今後のメディアの可能性は?」

中島さん:一時期Twitterで「この特集が良かった」などの読者の投稿のリツイートをしていたのですが、一般人のツイートを回されたくないといってフォロワーが極端に減ったことがあります。

横木さん:こちらはリツイートする数はそれほど多くないので、そこは大丈夫ですかね……。ただ、最近は炎上しているSNSを見ることが増えたのが残念ですね。

中島さん:ごく一部の方たちなのですが、声が大きい少数が目立つ点がSNSは良くないですね。

横木さん:その声の大きい少数に影響される人も出てきていますしね。一般の方の投稿でもいいなと思った内容があれば、企画の参考にすることもあります。

中島さん:うちは結構ユーザーアンケートをしますね。例えばツーリング特集をするとなれば1週間くらいユーザーアンケートを実施して、結構集まるのでコメントを抜粋して載せたりとか、ユーザーアンケートだけで見開きを作ったりとか。一度行きつけの販売店さんのお客さんだったらしくて、「本当に採用されるのですね」って言われたり。いや、架空で作ってませんって。

横木さん:うちもアンケートはやってますね。リアルなコメントや情報を得られるので良いです。

中島さん:主催イベントでも積極的に意見を聞くようにしています。これまでのMOOKやバックナンバーをずらっと並べて、ユーザーの好みを見たり。

横木さん:以前は読者ハガキで情報を集めていましたが、それだと雑誌を買ってくれた方の意見しか取れないので、最近はSNSやイベントでも出来るだけリアルな意見を、読者ではないけど読者層になり得る方の意見を拾うようにしています。また、顔が見えない方の意見だけでなく、リアルに交流をしてどういった方が何を考えているのかを知るのも大切だと思います。

中島さん:メディアの可能性については、最初にお伝えしたようにオムニチャネルであらゆる方向からサイクリストにどこかで引っかかるようにしようという絵を描いています。雑誌って新規で参入できないし、しないと思うので、そのピースを持っているという点はうちの強みだと考えています。自転車専門誌は無くなることはあっても新たに出てくることは無くて、「プリントメディアもあるんですね」っていう信頼もありますね。

横木さん:それはあります。行政などにアピールしやすいとか。

中島さん:カードはあった方が良いです。雑誌があるからそういう、一つでも取りこぼさない。

横木さん:サイスポさんはたくさん出来ているから羨ましいですね。うちも動画をやりたいとずっと思っていますが、なかなか動き出せていない状態で……。

中島さん: MTBだと動画に向いてそうですね。ぜひトライしてみてください。
 

スポーツバイクについて教えてください

質問「最近のトレンドやユーザーの傾向は?」

中島さん:カーボンニュートラルを間違いなく進めざるを得ないので、スポーツバイクということではないですが、車でしていたことを自転車ですることは増えると思います。ユーロバイクでも、カーゴバイクマーケットが四輪やアクティブサス付きなど含め凄いことになっています。日本だったら軽トラでするようなことを自転車に担わせたり、日本の子乗せ自転車は前後のチャイルドシートに乗せますが向こうだと前のカーゴ部分に子どもを乗せたり。ガソリンが高騰していることもあり、自転車にシフトする動きが凄くあります。

中島さん:グラベルバイクは広まりましたが、ヨーロッパで聞く限りではグラベルに頻繁に行っている訳では無いようです。ロードバイク的なポジションでスピードが出せるのと、タイヤが太いので段差やパンクの心配があまりないので、街なかで乗る人が多く、日常にアウトドアグッズがあることによって休日のアウトドアとの繋がりを常に平日でもキープできて、休みが取れたらアウトドアに遊びに行くっていう気持ちを楽しめるからグラベルバイクがいい、という話を聞きました。車でいうとSUVが来ているように、競技志向のロードバイクも一定数は残りますがSUVのようなグラベルバイクは広がりつつあります。一生懸命走るだけでなければ、機材を交換するわけでもなく、楽しみの幅が広がって来ているようです。初めはエンデュランスロードかなと思っていましたが、キャリパーブレーキから解放されたのは大きいですね。ディスクブレーキが出てきて自由度が増しました。車の種類にSUVという言葉が無かったように、自転車の楽しみも増えてきています。

横木さん:最近は、今までほど明確なトレンドはあまり無いように思います。グラベルもメーカーやメディアが力を入れていて、一部のコアな自転車ファンは目立っていますが、どこでもグラベルバイクを見かけるというほどではない、自転車のジャンルが細分化しているからでしょうか。小径車だけを見ても、以前はその時その時で限られたブランドに人気が集中していましたが、最近は色々見るようになりました。SNSで発信する人が多くなった影響もあるのかもしれません。

 
質問「購入を検討している人へのアドバイスは?」

横木さん:欲しい時が買い時ですよ、としか最近は言えないですね。なんとなく自転車が欲しいと思っている人には、次の新型ではこんな風に良くなりますよと言ってもあまり響かない。特に女性は性能面よりも色やデザインを重視する人が多いですね。なので、気に入った自転車に出会ったらまずは乗りはじめてほしいです。

中島さん:初めてスポーツバイクを買う人に相談された時は、色は妥協するなと言います。見た目が気に入らないと愛せなくなります。高い買い物なので飽きたら凄い無駄な投資になってしまうので、どこかで妥協したと思って買うよりは、こだわって買ったという購買経験をする方が良いです。あとは、良い自転車屋さんに行きましょう。継続的にお世話になるので、お世話になりたい自転車屋さんで購入するのが良いです。ここにはこのパーツを付けて…とぐいぐい引っ張っていくタイプのお店か、お客さん自身がしっかり悩んで最後にポンと背中を押してくれるタイプのお店か、そこの納得感って結構大切かもしれません。そして店長と合えばその後長くお付き合いができて、良いサイクリングライフを送ることができます。スポーツバイクは趣味のものなので、店長を先輩と思ってアドバイスしてもらえるよう、対面で購入するのは良いと思います。

 
質問「次に面白そうな、自転車×◯◯◯は?」

——自転車×クルマ(シックスホイール)、自転車×キャンプ(グラベル、バイクパッキング)など色々ありましたが。

中島さん:昔はスポーツカーやバイクのようにその自転車そのものを作り上げていき愛でるところが主流でしたが、どんどん道具になってきています。自転車でどこにいく、カフェでも良いのですが、車でしていることを自転車でもするようになってきています。コロナ禍で釣りを始めたのですが、自転車で行くために携行性のいい釣具のことを考えたりするのが楽しいですね。

横木さん:「自転車日和」でも自転車とアウトドアなこととの掛け合わせを、コーヒー、チェアリング、昼寝……と色々やってきていて、個人的なお勧めは街散策ですが、結局は自分の興味のあることと組み合わせれば何でも良いのではないかと思います。

「自転車日和」のSNSでは街散策を楽しむスタッフが脱力系の日常をアップしている。

 
質問「欧米で人気のeBikeは将来的に日本ではどうなる?」

——電動アシスト自体は子ども乗せを含めて日本が発祥とされていますが、シティサイクル(ママチャリ)文化の日本ではどこまで定着すると思いますか。

中島さん:短距離の移動によるサイクルツーリズムにはeBikeが良いですね。自転車自体を好きな人ではなく何かアクティビティをしたい人、車よりも自由に動きたい層、若い頃の行動範囲をもう一度手に入れたい年配の方のニーズは結構あると思います。高松空港で声をかけられたおじいちゃんは、自分のクロスバイクでしまなみ海道を1日で往復してきたそうなのですが、次はeBikeを買っていつまでも100kmは走りたいと仰っていました。それっていい夢ですよね。いつまでも自分の達成感を満足させてくれるのがeBikeですし、普段全然自転車に乗らない人にとっては20kmすら車で行く距離な訳ですが、eBikeなら良いかもという発想になります。自転車人口のパイを広げるのがeBikeだと思うので、もっと普及させたいと思います。

横木さん:まだシティサイクル的な使われ方が多いですが、保管場所の問題が大きいと思います。スポーツバイクとしては重いので室内に持ち運びにくい、では駐輪場に停めるのかというと難しい。集合住宅だとエレベーターに持ち込めないところも多く、まだハードルが高いですね。観光地のレンタサイクルから、どう一般に普及させるかがポイントですね。

中島さん:ちなみにeBikeの定義について悩むことがあります。以前は電動アシストとeBikeは違うということにしていましたが、何が違うのかという話になって。横木さんはどこかで線を引いていますか。

横木さん:eBikeのカタログページでは、同じシリーズの製品でもスポーツバイクっぽいデザインのものを載せるようにしていますが、判断は難しいですね。

中島さん:うちでは変速機のグレードでジャッジしようということにしていて、シマノでもグレード名のあるもの、スポーツシフターが付いているものがeBike、ということでやってみようとなっています。
 

自転車業界の取り組みについて

——このサイト(SHIFTA)は自転車販売店の方も多くご覧になられます。弊社のような輸入代理店のことも含めて、色々お聞かせください。

質問「ユーザー目線で見た自転車業界の◯と×なところは?」

中島さん:欲しい時に欲しいものが手に入るようにしてほしいとか。発表から発売までのリードタイムが長すぎるとか。(笑)

横木さん:本に載った時には既に買えないとか。

中島さん:試乗車をきちんと用意してくださいとか。同じジャンルでそんなにたくさんブランドを入れなくても良いだろうとか。日本のマーケットって、世界中を見渡してもかなりブランド数が多いということを聞きました。代理店がたくさんあって、タイヤやチューブ、バッグ類を世界中から引っ張ってくるので、競合が多くなって食い合いになるのはあると思います。ユーザーとしては選択肢が多いので良いのかもしれませんが。

横木さん:自分で欲しいものを調べてお店に行っても、どこにもそれが無いっていうのはありますね。例えば今ならヘルメット。色んなものを被って試して決めたいけど、なかなかできないですしね。

中島さん:機材やメンテナンスに長けているお店は多くても、身に付けるものには弱いところが多いですね。

 
質問「サイクルツーリズムや自転車を活用した地域振興に対して自転車業界ができることは?」

中島さん:eBike特区を作りたいと考えています。道が狭くて坂だらけの地域など。古い町並みは残した方が良いですが、道は狭いのに車はどんどん大きくなってきている、地域の人は高齢化で車の運転ができなくなるので激坂を歩いて上る必要がある、なんていう地域がこの先増えてきます。そういう所で、車の通行は許可車両だけにして基本的にはeBikeを使ってもらう、なんていう完全に勝手な夢なのですけど、何かできないかなと思っています。

中島さん:eBikeメーカーの協力が不可欠ですが、県みたいな広域エリアではなく市や町みたいな小さな単位で解決できれば良いと思います。必ずしも坂のある所でなくても良いですが、免許返納は待ったなしなので、移動の自由の解決の問題にeBikeが活躍できればと思います。特区を作るまでの課題はありますが、地域の自転車販売店さんにもeBikeに強くなってもらう必要があります。eBikeで人が動いて、町が元気になってほしいですね。

横木さん:行政のサイクルツーリズムに対する力の入れ方が、ロードバイク中心になってしまっていますよね。それはそれで良いと思いますが、もっと一般のユーザーにとっても魅力的なサービスが無いと趣味に偏った話になってしまいます。サイクルトレインも同じで、その駅まで自走できるロードバイクは良いですが、その駅まで輪行するのではあまり意味が無いですしね。長距離を走らない一般ユーザー向けにも何か良いサービスはないかなと思います。

「自転車日和」「MTB日和」の編集長 横木純子さん。

 
横木さん:最近、インバウンド向けにクロスバイクなどで観光ツアーをされているのをよく見かけますが、良いなと思います。ロードバイクだと走ることが目的となって細かく観光をすることがあまりないので、各地域の魅力を知ってもらいづらいのではないかと思います。ロードバイクも含めてもう少し色んな自転車の人が楽しめる、シティサイクルの人でも行ける長距離ではないお勧めルートなどが各地にあればと思います。

中島さん:「Cycle Sports」でも反省しています。アワイチ、ビワイチとかやって来ましたが、その日に一周してしまって道を使うだけになっていて、ツーリズム的にはダメなんですよね。もっとゆっくり走る余裕のある人に自転車をツールとして使ってもらうことが、大切だと思います。我々がこれまで押し進めてきたことは、方向を変える時期にきていることは痛感しています。そうしていかないと、乗る人も増えません。淡路島も琵琶湖も行政は一生懸命ですが地元の方の意見は……。そこを走るサイクリストが増えてメジャーなルートになった、ここまでは成功したからこそ出てきた問題だと思いますので、より良い方向にしていきたいと思います。

 
質問「スポーツバイク業界の活性化には何が必要?」

横木さん:健康増進も含めて国は自転車を推していますが、一般の方にはあまり知られていないので、広い意味で教育ではないでしょうか。

中島さん:宇都宮ブリッツェンなどは地域密着で学校の自転車教育にも力を入れていて、その功績は凄いと思います。ジャパンカップで宇都宮に行った時に、ホテルの別のホールの催しで来ていた地元の高齢者、おばあちゃんがブリッツェンの話をしているのを見ました。これまで地道にやってきた積み重ねなんでしょうね。行政では道路に一生懸命矢羽を敷いていっていますが、いくら矢羽のある道を作ってもそこを通る人がルールを守らないと成立しません。自転車レーンの話ですぐにヨーロッパの道路を参考にしがちですが、あれも道路の仕組みが安全なのではなく、教育された国民が運用するから走りやすくなるんですよね。線を描いて標識を立てればみんな守る、というわけではありません。

中島さん:子どもを乗せて車で走っている時に前を走る自転車のことを何気なく「遅いなぁ」と言ってしまうと、子ども心には自転車は遅くて邪魔な存在だと刷り込まれ、そのまま大人になります。その負の連鎖を、子ども向け自転車教室をすることで自転車は車の仲間と教育し、家に帰ってお父さんに言う、若い世代から変えていく機会になれば良いと思います。青い線を引きまくることよりも、教育で変えていく、国交省ではなく文科省にも取り組んでほしいと思っています。

 
質問「型式認定を受けていないeBikeや明らかに違法な電動のみの自転車についてどう思われますか?」

中島さん:怪しい車体はとりあえず全部警察に止めてほしいですが、どうしても事故になるまで動きにくいっていうところがありますよね。電動キックボードの法案がスピーディーに決まったのは、国の然るべきポジションの方にきちんと説明できる人がいたからですが、自転車業界にはうまくそういうプッシュのできる人がほとんどいないのでしょうね。

横木さん:日本の道交法に従っていない製品は違法であるということが、一般の人にまではきちんと伝わっていないですよね。しれーっと売られているものを買ってしまって、違法であることも知らずに乗っている人も多い。取り締まりがされないことには減らないと思います。

中島さん:そういう記事は過去にも作っていますが、我々メディアの責任もあると思いますので、繰り返し発信していきたいと思います。 
  

個人的なことについて教えてください

——トライアスロンにも出場されている中島さんと、自転車通勤のイメージのある横木さん、お二人とも自身の手がけるメディアのイメージそのものですが……。

質問「自転車って健康にいいですか?」

横木さん:無理をして身体に負担がかかるような乗り方さえしなければ、気持ちの面でもリフレッシュできる自転車は健康に良いことしか無いと思います。自転車通勤をしていると本当に気持ちが良くて、自転車っていいなと思います。

中島さん:自分の場合は、マナーの悪い自転車を何とかしてくれという意見が「Cycle Sports」に届いて、町で逆走自転車や信号無視などを見ると全部自分に降りかかってきているような気持ちになってしまう時期がありました。トライアスロンでは泳いでる時と走ってる時は自転車から解放されるっていう……(笑)。これは自分の仕事柄の話で、多くの方には自転車は素晴らしい存在だと思います。

館山トライアスロンに初参戦された際の中島さん(右)。

中島さん:あと、一人の時間を持てる点でも、自転車は良いと思います。家族のいる方だと、自分の時間を作るために車で公園の駐車場に行って車の中で漫画を読む、なんていう方もおられますが、筋肉は正義で、心を病まないためにはある程度の筋肉量、運動量が必要だそうなので、自転車はとても良いと思います。

 
質問「個人的に最近気に入っている自転車での楽しみ方は?」

中島さん:これはもう、グラベルですね。房総半島のグラベルルートを開拓中です。これから夏の暑い時期は、福島県のいわき市あたりに行きます。(オートバイの)ツーリングマップに林道ルートが載っています。Googleマップだとグレーの波線になっていますが、ツーリングマップだときちんと、通れる通れない、行き止まりなどと書かれています。実地に行ってないと絶対に分からない情報をどうやって調べているのか、とにかく凄いです。

横木さん:自転車通勤の中でいかに楽しむか、を考えています。メインは観察で、町でどんな自転車が走っているかとか、行きと帰りで異なる道を通ってお店や家を見たりしています。ぼーっと走っていることも多いので、知ってる道でもこんな店あったかな、という発見があります。

中島さん:自転車って匂いが分かるじゃないですか。あれって良いな、と思っていて。カレー屋ができてるな、とか。自宅方面では最近焙煎所が増えてきていて、こんな所にまでできてるな、という発見をしています。あと、甘い匂いがすると思ったらお菓子工場ができていて、朝の一定の時間帯だけ人が並んでいて、見たら工場直売をしていたり。車に乗っていたら分からない匂いって、自転車ならではだと思います。

横木さん:わたしも、ラーメン屋さんの匂いとか、気になりますね。(笑)

 
質問「自転車に乗るときに気に入って使っているアイテムは?」

横木さん:便利だから使っているというものですが、コーヒーを買った時に便利なドリンクホルダー的なものや、今も付けっぱなしでしたがパンツの裾を留めるこのクリップ「スソ・パッチン」はお気に入りです。群馬の自転車販売店「CYCLETECH-IKD」さんのオリジナル商品で、裾全体を絞るタイプではないので、色々な服でも使いやすくて愛用しています。

「スソ・パッチン」は「自転車日和」2023 春夏 volume63 P.26 でもご紹介。

中島さん:自分のお気に入りアイテムは、ガレージビルダーの方が3Dプリンターで作ったこのスペーサー的なものです。CATEYEのヘッドライトを下に付けながらWahooと合わせて使いたくて、CATEYEのサイコンマウントをWahooのマウントに変換するための、位置を微妙に調整したパーツです。こういうニッチな変換アダプターばかり作られている方がおられて、安価にこの組み合わせができるようになっています。

 
質問「中島さんから見た小径車、横木さんから見たロードバイクの存在は?」

中島さん:自分は小径車の魅力が全然分からなくて、逆に教えてほしいです。

横木さん:小径車で速く走りたい、小径車でロードバイクに勝ちたい、なんていうマニアックな方もいるので人それぞれだとは思いますが、私自身はスピードが出すぎることがあまり好きではなくて、ゆっくり走るのに小径車がちょうど良い、という部分はあります。車輪径が大きい自転車はスピードを出しやすくて楽だと思いますし、ロードバイクは格好いいと思いますが、私が格好いいと思うロードバイクは私の身長で乗れるロードバイクではないんですよね……。

中島さん:小柄な方には700Cだとその問題はありますね。

——自分の場合は、ロードバイクはバシッと決めて格好良く乗りたいけど、自分には無理があるなと思ってしまう時があります。

中島さん:その視点は大切ですね。

横木さん:それぞれの自転車で気持ちいいスピードもありますね。色んな自転車に、それぞれの魅力がある、ということですね。

 
質問「中島さんから見た自転車日和、横木さんから見たCycle Sportsの面白いところは?」

中島さん:うちではできない特集をできるところが「日和」は凄いなと思います。ご近所でMTBとか。うちでは絶対に、100km先まで行くぞ、と。先日80kmでいいという記事を作ったのも、ちょっとした冒険でした。ストイックだと思われてるしストイックに突っ走ってきた「Cycle Sports」ですからね。「日和」と違って女性読者は1割以下なので、「女性Cyclistが増えない」という相談に対して女性に対してジェントルになろうなんていう記事も作りたいとは思っていますが、難しいです。男子校みたいな雑誌になってるのを脱却したいのですが。

横木さん:「Cycle Sports」は特に最近、特集の振り幅が凄いなと思います。ガチっぽい身体作りや機材の話から、こういう旅っぽい企画までされているので。あとは機動力ですね。こういう表紙も含めて、新しいものにチャレンジするところなども。

中島さん:誌面変わったね、と最近よく言われます。最初に話に出たように、今持っている自転車でできる遊びをしよう、というところですね。

横木さん:MTBの取材でフルサス買わないの?とよく言われるのですが、置き場所の問題もありますし、今の自転車も気に入っているし。みんながみんな、次から次へと自転車を買い換えるわけでは無いので、今ある自転車でどう楽しむかも推したい、そのバランスが難しいですね。

 

最後に、アキボウのオウンドメディアへの叱咤激励、アドバイスをお願いします!

中島さん:0→1よりも1→10が大変です。今年10回目の開催となるツール・ド・東北のインタビューで、昨日Yahoo!の担当者さんから言われたセリフがこれなんですけど、0→1は大変だけど勢いがあるから出来る、でもそれを10回続けることの大変さはそれ以上で、でも地味だから理解されにくい。自分も「最速店長選手権」企画を今年12回目として実施しましたが、0→1は大変でしたが続けるのは本当に大変で、その言葉に共感します。メディアを続けるのも同じで、アキボウさんも、このメディア(SHIFTA)を立ち上げたからには続けてほしい、立ち上げる以上に続けることは大変ですよ、とお伝えしたいです。

横木さん:アキボウさんは自転車のジャンル的には色々持ってらっしゃるので、業界全体が盛り上がるメディアにしていただきたいです。ユーザーにとっては選択肢が増えるのは良いですね。楽しみにしています。

 


「OVE」とは

さまざまなコト・モノにふれる体験を通して、たくさんの方々と価値を共有し、つながる場所。「ライフ クリエーション スペース OVE」の活動を開始したのは2006年。OVEという名前は、Opportunity(機会)、Value(価値)、Ease(気楽さ、容易さ)の頭文字をとって名づけられた。

取材をした6月はsakai kitchen〈堺キッチン〉認定商品フェアが開催されていて、日によっては「堺刃物による刃研ぎ実演×【津本式】魚のさばき方講座」や「堺・注染手ぬぐい巾着づくりワークショップ」などが行われていた。

 
協力

八重洲出版「Cycle Sports」
辰巳出版「自転車日和」
LIFE CREATION SPACE 「OVE」 南青山

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