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辻啓氏に聞く。ここから始めるロードレース観戦

ジロ・デ・イタリア/ツール・ド・フランス/ブエルタ・ア・エスパーニャ、この3つを総称して『グランツール』
開催時期はジロデイタリアが6月に始まり、ツールドフランスが7月、ブエルタアエスパーニャが9月に行われる。この4か月間は世界のロードレースファンが熱狂する。この中で最も歴史が長いツールドフランスに至っては、世界190ヵ国で放送され、総視聴者は35億人にもなるとも。しかし、日本においては世界と比べるとロードレース熱は穏やかに見えます。というのも、普段からロードバイクに慣れ親しんでいる方でも「いまいちロードレースの楽しみ方がわからない。」そういった方が多いのではないのでしょうか。そこで、自らも自転車を楽しみ、サイクルフォトグラファーとしてグランツールの撮影、J SPORTSでは現地レポートを行うなど、ロードレースに精通している辻啓さんに、ロードレースについて、まず知っておくといいことを説明してもらいました。辻啓さんが実際に撮影した迫力ある写真や美しい風景写真と一緒に紹介していきます。

俊敏に遠くまで走るため設計されたロードバイクに乗り、主に公道でスピードを競い合うロードレース。数ある自転車競技の中で最も競技人口が多く、最も人気が高い競技であり、その最高峰とされるツール・ド・フランスは夏季オリンピックとサッカーW杯と並んで「世界三大スポーツイベント」に数えられるほど。100年以上の歴史を有し、ヨーロッパを中心に根強い人気を誇るロードレースの魅力を簡単に紹介していきます。

ワンデーレース、ステージレースとは?

ワンデーレース

「一番最初にフィニッシュラインを切った選手が優勝」。当たり前ですが、これがロードレースの大前提です。おおむね150kmから200km、長ければ300km近くを走り、1日で完結するレースを「ワンデーレース」と呼び、そこで生まれる優勝者はもちろん一人。とにかくシンプルなレースであり、最も古いワンデーレースとされるベルギーのリエージュ〜バストーニュ〜リエージュは1892年(明治25年)初開催で、近代オリンピックよりも古い歴史があります。

ステージレース

一方、複数日にわたって開催されるのが「ステージレース」です。1日のレースを「ステージ」と呼び、毎日ステージ優勝を争いながら数日間もしくは1週間、長ければ3週間にわたって開催されます。その特徴は、ステージ成績を積算した個人総合成績やポイント賞、山岳賞などの特別賞が設定されていることで、各賞首位の選手にはリーダージャージが与えられること。200人近い選手がそれぞれ様々な目標を持って争うことから「路上のチェス」とも呼ばれます。

中でも人気が高いのが、3週間にわたって開催されるステージレースの最高峰「グランツール」。5月のジロ・デ・イタリア(イタリア一周レース)、7月のツール・ド・フランス(フランス一周レース)、9月のブエルタ・ア・エスパーニャ(スペイン一周レース)がそれにあたり、毎日150-200kmのステージをこなしながら3週間3500km近くを走ります。ツール・ド・フランスのリーダージャージである黄色いマイヨジョーヌ(イエロージャージ)はロードレースで最も栄誉ある一着です。

ロードレースならではの魅力とは?

世界トップレーサーがしのぎを削るロードレースでは、平均スピードが40km/hを超えるのが常。レース時間が平均4時間、長ければ7時間にもおよぶ長丁場であり、その消費カロリーは7000kcal、摂取水分が10リットルにおよぶ日も。そんな過酷なレースが3週間にわたって開催されるグランツールでは、エネルギー吸収から消費までスムーズにこなすことができる強靭な内臓も必要不可欠です。どれだけ朝ごはんをたっぷり食べてもエネルギーが枯渇してしまうので、選手たちが走りながらせっせと補給するのはロードレースならではの光景です。

そんなロードレースは前述の通り公道で開催されます。古くからロードレースが市民権を得ているヨーロッパでは主要幹線道路を(時には高速道路も)規制してレースを開催。つまりレースと並行して現地の生活や各地の風景を伺うことができ、レースの内容を理解していなくても映像を見ているだけで旅行をしている気分になれることもロードレースの魅力の一つです。毎日150-200kmのレースをこなし、さらに翌日には200km離れた場所をスタートするなんてことも。

例えるならば、東京から静岡市まで走り、翌日には名古屋市から大阪市まで走る。そんな距離感で毎日レースが進んでいくので、日々コース沿道の景色が移ろい、建物の色や木々の種類が変わり、食べるものや話されている言葉も変わっていく。「〜一周レース」を見ることで、旅行ガイドブックでは決して紹介されない各国の魅力を知ることができます。

チームスポーツ?個人スポーツ?

レース戦術について詳述すると一冊の本ができてしまうほど複雑なので簡潔に説明すると、ロードレースはチームスポーツです。7人前後(グランツールでは1チーム8人)のメンバーで構成されたチームが20チーム前後(グランツールでは22チーム)揃うので、出場選手は140-180人ほど。各チームにはそれぞれエースが所属し、そのエースを勝たせるためにアシストと呼ばれる他のメンバーが力を尽くすのが典型的な形。例えばツール・ド・フランスでは、最も栄誉あるマイヨジョーヌを狙うエースのために、アシストたちは身を粉にして働きます。

ロードレースは空気抵抗との戦いでもあるため、アシストたちは風除けとしてエースの前を走ります。スピードが上がれば上がるほど空気抵抗が増すため、このアシストの存在がエースの力温存に大いに役立つのです。もちろんパンクや機材トラブルに見舞われれば、アシストがエースに機材を提供するなんてことも。そしてエースが成績を出せば、アシストの働きが報われ、チームにとっての成功になります。チーム内で行われる賞金の分配などもロードレースならではと言えるでしょう。もちろんアシストがエースを出し抜いて活躍するなんて下剋上も有り。グランツールではそんな人間ドラマも見どころの一つです。

ロードレース選手と言っても得意分野(脚質と言います)は様々。平坦ステージの最後に70km/hを超えるようなスプリントでスピードを競い合うのが得意な「スプリンター」もいれば、淡々と50km/hで巡航するのが得意な「ルーラー」や、短い登りが続く丘のステージが得意な「パンチャー」、標高2000mを超えるような峠道の登りが得意な「クライマー」まで、多種多様な脚質の選手がそれぞれ得意なコースで活躍します。

2023年のツール・ド・フランスは7月1日にスペインのバスク地方で開幕。そこから3週間をかけてフランスをぐるっと一周し、花の都パリに凱旋します。その道中にはピレネー山脈やアルプス山脈などの険しい峠道がいくつも登場。日本では時差の関係で概ね21時から24時まで生中継があるため、ロードレースファンが寝不足になる季節の到来です。生中継を観戦できなくても、現在はYouTube等でハイライト映像も豊富に揃っているので、マイヨジョーヌをかけた熱き真夏の戦いを是非ご覧になっていただきたいと思います。

いかがでしたでしょうか。もちろんロードレースの魅力、奥深さはまだまだこんなものではないのだろうと思います。しかし、最低限これだけでも知っておくと、これまでと違う見え方がするのではないでしょうか。選手同士の激しい争いに熱狂するも良し、推しの選手を見つけてその走りに心酔するのも良し。日々移り変わる美しい景色に見惚れるのも、ロードレースの魅力でしょう。このコラムが公開された時は、まさにツール・ド・フランス2023の真っ只中。今年のマイヨジョーヌは一体誰の手に。世界最高峰の熱い戦いを筆者も見届けたいと思います。

PROFILE


辻啓(サイクルフォトグラファー)
サイクルフォトグラファーとしてグランツールなどのビッグレースの撮影やスポーツ専門チャンネル『J SPORTS』にて現地リポートを行う。Twitterやinstagramでも活動やレースレポートを更新中。
仕事についての想いやこれまでの仕事遍歴、そして趣味の釣りのことなどを伺ったLINZINEコラムも是非ご覧ください。

LINZINEサイクルフォトグラファー 辻啓の仕事

Twitter:@keitsuji

instagram:@keitsuji

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