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ほしいと思うものをカタチに。デザイン会社が描く、日常の延長線上にある自転車スタイル

  • #LINZINE

2023年4月、道路交通法の一部改正が行われ、すべての自転車利用者を対象に乗車時のヘルメット着用が努力義務化された。ニュースでも広く報じられたことからご存じの方も多いと思うが、この変化を受けて、自転車用のヘルメットを購入検討して初めて自転車屋へと足を向けた人も少なくないだろう。

さて、そんな皆さんはこの時に訪れた自転車屋で、かぶってみたいなと思うヘルメットに出会えただろうか?
もしまだ出会えていない人には、ぜひ試してみてほしいヘルメットがある。

今のようにヘルメットが取り沙汰される以前である2018年にリリースされ人気を博し、2023年の4月には一部仕様をアップデートし再度リリース。アップデート時に行われたクラウドファンディングでは、驚きの1000%を超える資金調達額で話題となった、そんなヘルメットだ。

「自分たちが普段被りたいと思うヘルメットが欲しかった」という、ピュアでシンプルなきっかけで生まれたこのアイテムを作った、MOCAを主宰するmoat.Industrial Design代表の正田さんと平さんにお話を聞いた。

 

自分たちの「普段使いたい」という気持ちに正直に

-この度のクラウドファンディングでは予想以上の反響があったようで、おめでとうございます!
ありがとうございます。

-1000%以上で達成ってすごいですよね。今回は2018年にリリースされたアイテムをベースにアップデートされたとのことですが、どう言ったところが変わったのでしょう?
コンセプトとなるベースの部分は変わっていなくて、大きく変わったのはサイズをアジャストできるようになった部分ですかね。あとは取り外し可能なバイザーにカラバリを持たせて、より普段着とのコーディネートを意識できるようになったというのもあります。

クラウドファンディングの際のコメントでも、「ちょうどタイムリーな時期で良かった」というようなコメントも多く拝見しました。確かにこの価格でサイズ調整機能付きのシンプルなヘルメットは探している方も多いでしょう。
ちょうどヘルメットを探されている方も多いこの時期に、なんとか無事にリリースできてよかったです。

-こちらは、ヘルメット用のバッグですか。
そうですね。例えば通勤先など、乗っていない時のヘルメットの置き場所って意外と困るというのは周りでもよく聞いていて。さっと自転車にくくりつけておければ便利だなということで、アウトドアアクティビティなどでは定番のドライバッグをイメージしながら、できるだけ軽量でコンパクトに、ヘルメットにぴったりなサイズ感で製作しました。Dリングは金属製にしているので、ここに鍵を通して自転車に括り付けておけば持ち運ぶ必要もなく、盗難の心配も軽減されます。

↑今回のアップデートにおけるメインの変更点となるサイズ調整部分。

 

-ちなみに、そもそもMOCAというブランドや、母体であるmoat.Industrial Designさんはどんな会社なんでしょうか?
僕たちmoat.Industrial Designは、2001年に大阪で設立したデザイン会社です。プロダクト、グラフィックやパッケージ、 Web、空間までカテゴリーにとらわれずにデザインやブランディングを提案しています。MOCAはそんな自分たちが手がけるオリジナルブランドで、「自転車のある生活に自然と向き合うための丁度いいアイテム」をテーマに、革製品〜自転車の周辺アイテムを行き来するようなプロダクトを展開しています。

-競技やレースとしての自転車というよりは、街乗りにちょうど良いようなアイテムが多そうですね。
そうですね。基本的には「自分たちが普段使いたいもの」という起点で生まれるものがほとんどです。今回リニューアルしたヘルメットKUMOAは、古くから卓越した樹脂成形技術を持つクミカ工業さんとの協業で生まれたアイテム。
実は自転車用のヘルメットに関してはかなり以前から興味があって、構想やコンセプトみたいなものはそれこそMOCAの設立前とかからずっと頭の中にあったんですけど、なかなか実現できずにいたんです。
製品特性上、安全面での基準クリアがしっかりできていることが大前提になってくるので、自分たちのブランドのスタンスを理解してくれて、かつそういうハード部分を安心してお任せできるパートナーをずっと探していました。
クミカ工業さんは、2010年から幼児向け自転車用ヘルメットのNICCOというブランドも展開されていて、その辺のノウハウも申し分ない。縁あって、自分たちにとっても念願の大人用のヘルメットを共同開発することになりました。

-そもそも、いわゆるデザイン会社が突然自転車周辺のアイテムを企画するに至ったのは、どういった経緯なのでしょう?
割と単純な話で、そもそもみんなが自転車に乗っているメンバーだったんですよ。最初は3人でデザイン事務所を始めたんですけど、僕はマウンテンバイクもロードも乗ってたし、他の2人もマウンテンバイクを乗ってたんです。

↑事務所にはサーフボードなど、自転車以外の文化への造詣も垣間見える。

 

-MTB世代ですね。
そうですね、世代が3人とも同じなので、影響を受ける文化も近くて 笑。

あとは、大阪ってやっぱり自転車関連の企業も多いじゃないですか。
もともとは自分たちが、同じような規模感のデザイン事務所が複数集まって出展するようなイベントに出展していたところ、とある自転車周辺機器メーカーさんの担当の方がいらしていて「自社製品のデザインもお願いできますか」みたいなところでやらせてもらったのが一つのきっかけでしたね。そこからは彼らが主催するイベントにも参加したりで交流するようになって。

-イベントに参加されたのはMOCAのプロダクトで出店されたり?
いえいえ、レースイベントだったんで、普通に走りにいっていただけです (笑)。
その頃はまだMOCAのようなオリジナルブランドは展開してなくて、外部ブレーンとしてデザインの一部を任せていただいたりという感じだったので。
でも、そこは業界内でもかなり著名な企業だったと言うのもあって、そこから割と自然に横に広がっていって、気がつけば自転車関連のお仕事をいただくことが増えた。

-なるほど (笑)。じゃあそこからブランドを立ち上げるのは割と自然なことだったんですか?
どうですかね……。でもデザイン事務所の仕事って基本的には裏方仕事なので、ちょうど当時「外部から受ける本業だけじゃ今後は淘汰されていくのでは」という風には考えていて。
本業のデザインとは別で、自分たちで発信していくものが欲しいなっていうので、みんなで話し合ったんですよ。

そしたら、自分たちがデザインするものを、オリジナルブランドとして展開していこうって言う話が出た。

元々moat.では介護関連とか家庭雑貨とか幅広いカテゴリに携わっているのもあって、最初は特に自転車に縛らずにそういう話が出たんですが、一人のスタッフが「どうせやるんやったら輪界、知り合いもいっぱいできたし、自転車系でやったほうが自然ちゃいますか」って。確かに、スタッフが普段から触れている自転車の分野だったら、もっとこんなんあったらいいなっていうのがたくさんあるし、やってみてもいいかなっていう。みんな自転車好きやしそのほうがええなっていう話でスタートした感じです。

-最初から販売する先があった?
いえいえ。販売先ももちろんゼロからなんですけど、まず自分たちは発信という目的ありきでブランドを始めたのもあって、まずは発信できる場所をイメージしました。
「デザイナーズウィーク」っていう、かつて東京で年に一回行われていた、デザイン業界では大きな影響力を持ったイベントがあったんですけど、当時デザイナーが発信する場所っていったら……みたいな、いわば登竜門的なイメージがあったんです。今、思えば新商品発表するならいくらでも他の展示会とかあったとも思うんですけど、なんせ無知だったので。
とりあえずデザイナーズウィーク出した方がええんちゃうかってなって、まずそこで (笑)。

-なるほど (笑)。ちなみに最初のプロダクトは何ですか?
そこに置いてあるパンツガードですね。革製の裾留めです。当時パンツガードってリフレクター付きでかつ派手なやつが多かったから、もっと普段、使える革のやつが欲しいなあって言って、最初作ったのがこれだったんですよ。2008年とかですかね。

-反応はいかがでしたか?
イベントのレギュレーションがインテリア用品でないとダメということもあって、そのほかにもいくつかプロダクトを作って、出展したんですが……。まあ、いっぱい経験させてもらいました (笑)。

-(笑)。
いざ出してみるとそこじゃなかった感は強かったと言うか、出すところ大きく間違えてたなと言うのはあって。

-やはり自転車系の展示会ではないですもんね。
その後は、全国の自転車屋さんにほぼ飛び込みみたいな状態で営業に行きました。とりあえず興味を持ってもらえそうだなと思ったところや、ちょっとアンテナを張ってるような雰囲気の自転車屋さんはほぼ行きましたし、そのあとは、自転車屋さんだけでなく雑貨屋さんにも行きました。意外だったのは、ここでは自転車と特に関係のない雑貨屋さんとかに反応がよかったりっていうのもあって、わからないものだなあと。

-確かに意外ですね。でも2008年とかだと今ほどスポーツバイクが一般的じゃなかったのかもって気もします。自転車屋さん側も、現在ほどオープンマインドではなかったかも
そうかもしれませんね。

 

日本製であることのこだわり

-ちなみに、今回のヘルメットKUMOAももちろんそうですが、MOCAの製品は日本製にこだわっていると聞きました。
前提として、デザイナーである自分たちが作り手側、売り手側ともに密に関係を築くことで、世の中にとって本当に『生まれてくる価値のあるプロダクト』を目指しているんです。海外生産だと安く、たくさん作ることができるんだと思いますが、それは自分たちの役割でもないだろうなと。決して大量消費されるものを作りたいわけではなくて。

-どこか「三方よし」の精神のようなものも感じますね。
そもそも自分たちが普段から触れている「自転車のある暮らし」に溶け込むように、自然と付き合っていけるようなアイテムを提案するのがブランドのコンセプト。日本人の自分たちが、普段の生活をイメージしてデザインするものなんだから、自ずと日本製であることの責任感みたいな部分も出てくると言うか。
なので、ブランドを始める時から、どうせなら日本製にしようっていうこだわりはありましたね。もちろん、最初から製造のツテがあったわけではないので、こういうのがあればいいなって言うものを構想して絵に描いて、そこから探す感じの流れが多いですし、時間がかかることも少なくないですけど。

-なるほど。でも考えてみると、ヘルメットは他のアイテムより一層、「日本人が設計していること」のメリットが大きい気がします。
根本的に頭の形が欧米の方とは違うんですよね。形に合わないヘルメットは、かぶっていて痛くなることもあるし、あとは単純に見た目的の面での似合う、似合わないも意外と大きい。
KUMOAは、単純な球状というよりはややエッジのたったフォルムが特徴的なんですけど、この形状は「ワークキャップ」を着想にしてるんです。ワークキャップって、結構誰でも似合うよねっていうのは結構昔から思っていて。

-仕方なくヘルメットをかぶるのではなく、少しでもポジティブな気持ちでヘルメットをかぶるには、デザイン面も大きな部分を占めている要素だと思います。
そもそもヘルメットが努力義務化になったことは、自分たちにとってはすごく自然なことだと捉えてますが、まだまだ市場の中心は、競技要素が強いものや、本格的なデザインのヘルメットが多い。
もちろん、みんながみんなそう言った本格的なデザインのヘルメットが被りたいわけじゃないはずですし。

-スポーツバイクがある程度一般化してきたとはいえ、日本の自転車人口のほとんどは、普段着で自転車を乗る人たちでしょうしね。
法改正もあって、今後は男女共に「ちょうど良いヘルメット」を探される方は増えると思います。海外メーカーには、デザインがシンプルで普段着にも合うようなものもありますが、そういうヘルメットを検討されていた方には、ぜひKUMOAを試してみてほしいですね。

 

スポーツだけでも、ファッションだけでもない。自転車と日常生活にある自然な関係を目指して。

「自転車と日常生活の自然な関係」
そんなブランドコンセプトが込められたMOCAのアイテム。いい意味でどこか「普段着」のようなスタンスから産まれたプロダクトだからこそ、活躍の場はライドの時だけじゃなくて、普段使いにも調子が良い。お二人にヘルメット以外のおすすめアイテムを聞きました。

Cup Holder 01 / 02
ブランドの顔とも言えるカップホルダー。外出先でも頻繁にコーヒーを愛飲するコーヒー好きサイクリストなら、コーヒー片手に自転車と行動を共にすることの難しさを感じたことがあるのでは?
気軽につけ外しができるカジュアルな仕様で、街のコンビニで挽きたてのドリップコーヒーが気軽に飲めるようになった現代においては非常に重宝できる存在。だって、コーヒーが飲みたくなるタイミングなんて、得てして気まぐれにやってくるものなのだから。
日本製であることのこだわりもさることながら、コンセプトや素材の選定も含めたトータルのデザイン力によって手に取りやすい価格に抑えていることも魅力的。
カップやタンブラーの大きさに合わせた2サイズ展開で、自転車とコーヒーの両方が好きと言うあなたなら、02ホルダーにシンデレラフィットのオリジナルタンブラーとセットでの使用がオススメ。
「気軽に持って行けることが重要なので、あえてイージーな作りにしました。ドリッパーとシングルバーナーという、いつものコーヒーライドツールにこのホルダーも加えれば、コーヒーライドの充実感も増します。」

 

Key Case 01 / 02 / 03
これを使用すれば複数カギのジャラジャラともおさらば。見た目のスマートさは言わずもがな、コインネジによって縦方向に複数枚を収納すると言うユニークさが売りで、使用する鍵はそのまま単語カードのようにスライド。残りの鍵は自然と持ち手になることで不思議な安定感が生まれる。鍵を包み込む一枚革構造のカウレザーは、使い込むほどに驚くほど馴染んでいき、経年変化によってまた違った表情を楽しむことができる。
「単体使用ももちろんおすすめですけど、別売りのカラビナとの併用で腰からぶら下げるとさらに調子が良いです。」

 

Bangle & Pantsguard (Single)
普段着でスポーツバイクを楽しみたい人たちにとって、パンツガードは外せないマストなアイテム。レザーバングルのようなルックスを併せ持つこちらをアクセサリ感覚で常時身につけておけば、いざ必要な時に忘れてしまっていることもない。真鍮やレザーなど経年変化を楽しむことができる素材のチョイスも、アクセサリとして普段からつけておきたくなる大事な要素。
「素材選びの要素の一つとして、経年変化を楽しめるという点も、長く使ってもらうために自分たちが大事にしている一つです。」

 

自転車の楽しみ方は人それぞれ。
自転車に乗ることで非日常を求める人がいる一方で、そこに日常の延長線上を求める人だっている。スピードを求める人がいる一方で、快適性を重視する人や、ファッションとしてデザインの優れたものを求める人だっている。

そして、これはきっと小物選びにだって言えること。
愛車選びにたっぷりとこだわったあなたなら、見た目だけじゃなくて、機能性だけでもなくて、焦らずゆっくりと、自分らしいものを選んでほしい。

そうすれば、自分が選んだ大好きな自転車と対話する時間が、もっと楽しくなるはずだ。

 

moat.Industrial Design

MOCA website 

KUMOA website

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