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長く使うモノだからこそこだわる -カーデザイナーが手がける鎌倉発のミニベロ”populomobile”の魅力に迫る-

自転車の中でも、小径車と聞けば特別な何かをイメージしてしまうのは筆者だけでないはず。個性的なデザイン、ユニークなギミック、携行性の高さ、身近に保管できる安心感など、自転車好きなら1台は所有したいという存在。

60年以上とも言われる高性能小径車の歴史の中で、最近日本で産声を上げたミニベロがある。本当に良いものが欲しいという趣味人の琴線に触れる細部へのこだわりとクラフトマンシップ、そしてブランドに込められた想い。鎌倉発のミニベロブランド「populomobile(ポプロモビル)」の魅力を、代表の山田氏に語っていただきました。

山田代表のこだわりが凝縮されたpopulomobileの代表作”populo ONE”

■とにかく動くものが好き

――山田さんは長年カーデザイナーとしてご活躍されてきましたが、どのようなお仕事をされてきたのかお聞かせください。

小さいことから乗り物が好きで、いつしかカーデザイナーを目指すようになって最初は京都の小さなレーシングカーを造る会社に入りました。そこで様々な経験を積んで友達と会社を興してみたものの、若くて経営なんか分からないから上手くいかなくて。その後上京していすゞ自動車さんで19年、マツダさんで5年間カーデザイナーのお仕事をしました。

最初はドアミラーだけとか小さい部品からデザインをさせてもらうのですが、ジュニア→アシスタント→チーフとステージが上がっていく中でだんだん外装や内装も経験させてもらって、最終的に全部デザインできるようになっていきます。さらに商品コンセプトや販売戦略まで関わるようになってディレクターになることができます。

当時のいすゞさんはジェミニとかまだ乗用車を作っていて、イギリスのデザインスタジオの立ち上げも経験させてもらいました。その後、いすゞさんが商業車製造に特化するという話になった時にマツダさんに声をかけていただいて、先行開発のディレクターとして仕事をさせていただきました。私たちの世代はラッキーで、今のカーデザイナーは仕事が細分化されていますが、当時はA to Zといって最初の企画段階から最後までデザインで関われたんです。その経験を活かして、独立しようと思って15年ほど前にフリーランスになったんです。カーメーカーさんのデザイナーを育てたり、中国のカーメーカーさんでディレクターを務めたりしました。一方で、自動車だけでなく歯医者さんの内装やパン屋のロゴデザインを手がける中で、あるきっかけがあってパーソナルな乗り物ということで行き着いたのが自転車だったんです。

山田代表はかつてマツダのアドバンスデザインのチーフデザイナーとして、コンセプトカー”TAIKI(大気)”を手掛けたデザインチームを率いていた

――自動車のデザインに夢中になっていた中で、自転車と接するターニングポイントはあったんでしょうか。

私は動くものが何でも好きなんです。命を感じるんですね、動くプロダクトって。車とかオートバイもそうですけど、動くもの=生きているものの感じがして気持ちの入れ込みが他と違ってくるんです。
実は、昔飼っていた愛犬が8歳で亡くなって、ペットロスでかなり落ち込んだ時期がありました。その時に、愛でる対象として変わらず傍にいる身近なものを作りたいと考えたのが自転車を選んだきっかけです。最初は自転車をベースに、ステップを踏む力を動力に変える仕組みを考えていましたが、最終的に今の形に落ち着いて着想から完成まで4年の時を経てブランドをスタートさせました。

アイデアが書き留められたスケッチブックは10冊以上。機構の細部に至るまでデザインが施される過程に、山田代表のバックグラウンドを垣間見ることができる。

■生活を共にする”相棒”だからこその”こだわり”

――populomobileを代表する自転車”populo ONE”についてお伺いします。試乗させていただいてまず驚いたのが、見た目からは想像できないほどのフレーム剛性の高さです。軽やかに走る走行性能と安定感の高さはこのフレームの特性によるものだと感じました。このpopulo ONEがどのようにして生まれたのか教えてください。

自転車のことは右も左もわからないところからデザインを始めたので、自動車のデザインプロセスを用いて設計を進めていきました。自動車は一番外側から内部に向かって設計を進めていきますので、まずは全長を決めるところから着手しました。いつも身近に感じられる、家の中に置けるコンパクトなサイズを目指し、一般的な集合住宅のエレベーターの奥行きが152cmということで車体の全長を148cmと決めました。

そこから、シンプルかつ美しいデザインと乗り降りしやすい機能性、そして安全性を両立させるためのフレームデザインへと進んでいくのですが、このこだわりの詰まったフレームを作ってくれるところを探すのが一番苦労しました。協力してくれる会社に出会えず諦めかけていた時、藁をもすがる想いで出会ったのが長年オートバイ部品の製造を手がける、静岡にある榛葉(シンバ)鉄工所でした。

見た目の美しさを妥協することなく、自転車として機能させるための試行錯誤は困難を極めましたが、パイプを2重にすることで強度を上げるという画期的なアイデアで一気に前進しました。榛葉さんは古くはカワサキのMACH3やZ2といった伝説のバイクのマフラーを作ってきた会社で、これまで培った技術があってできたんだと思います。

直管の状態でパイプを重ねた後、水を充填して凍らせた状態で曲げるという。見た目の美しさだけでなく、公的な強度試験をクリアする安全性との両立を実現。

――日本のモノづくりの技術があってこそのフレームだったんですね。このpopulo ONEから派生して様々なタイプがラインナップされていますが、どのようなコンセプトで商品展開されているんでしょうか。

お客様のライフスタイルってそれぞれ違うので、自転車に求めることも違ってきます。ウェブサイトでは4種類のスタイルを打ち出していますが、これはあくまで私たちからの提案であって、同じフレームをベースに若者がスポーティに乗ったり、ワンちゃんと一緒に走ることができる。更にここからパーツを変更したり、加えたりしてお客様の要望に応えて仕上げることもあります。そのプロセスが私たちにとっても、お客様にとっても大事で楽しい時間だと思っています。

たとえば、populo SMILEのラウンドハンドル全体にバーテープを巻いてほしいとか、カゴの代わりにフォルクスワーゲンの生産ラインで使われていた鉄の箱を付けたいとか、この間大阪の車のコレクターの方がラリーのグループB仕様にしたいということでライトをデュアル仕様にしたりとか、お客様の対話の中でその夢みたいなものを共有させていただくのが嬉しいですね。

――こだわりの強いお客様ほど気に入ったものへの愛着も一入なので、できるだけ要望に応えたいという気持ちになりますね。

スポーツモデル”diti”の特徴を説明する山田代表

■populomobileに託す想い

――ここまでブランドのコンセプトやプロダクトへのこだわり、丹精込めて仕上げた自転車を送り出す喜びや楽しみについて伺いましたが、自転車という乗り物を通じて“こうなってほしい”というような未来への願望はありますか?

車と違って自転車のすごいところはマンパワーということです。自分の体を使って、その能力を拡張して効率的に移動できる。今更珍しいものではないけど、デザインして初めてわかったのはその”深さ”です。人間の感覚はものすごく繊細なもので、競馬の武豊さんが鎧(あぶみ)の位置が1ミリ違うだけでわかると仰っていましたが、私みたいな素人でも自転車のペダルとかサドルの位置がおかしかったら気持ち悪く感じるもので、人間にかなり重なった乗り物だと思うんです。車はアクセル踏んだら走りますけど、自転車で移動するってメンタル、フィジカル、そしてその人のライフスタイルに影響するとても興味深いモビリティだと思うんですね。人間に近い乗り物だからこそ、人間の変化に順応していくことができるというか、どんどん高齢化していく日本社会でメンタル的にも身体的にもサポートするような、自転車が担う役割って多いと思うんです。

あと、自転車って今でも1万円台から売っていて、安いから買うのはわかるんですけど、パーツが痛んだり壊れたりするとすぐに捨てちゃう。安いとはいえ、資源を加工して作っているもの簡単に捨ててまた買う、そういうサイクルを崩すというか、本当にいいモノを作って大事に使ってもらいたいという想いはあります。

鎌倉のショールームにある、廃材となる木っ端をつなぎ合わせた手作りのパーテーション。思い入れのあるものと長く過ごすというブランドコンセプトを象徴している

このパーテーション、私が作ったんですけど、もとは自宅を改築する時に大工さんが切った木っ端なんです。ちょうどパーテーションを買おうと思っていて、せっかく良い木なんで捨てるのは勿体無いと思って、木っ端をそのまま貼りつけただけなんですけど、何とか使えないか、何とかまた命を与えられないかという、割と会社のコンセプトを象徴していると思います。

populomobileの願いは、その時々のライフスタイルでパーツを変えて長く乗ってもらえることです。若い時はスポーツスタイルで、子供が出来たら子乗せを付けたり、買い物カゴを付けたりペットを載せたり。ブランドとしてお客様に提供できる価値を私たちが考えて、モノを無駄にせずアイデア次第で新しい価値を作れることを、この自転車を通じて伝えていきたいです。

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見た目や性能の良い自転車は世の中にたくさんあるものの、理想とする”豊かな生活”をもたらしてくれる自転車となると、どれぐらいの選択肢があるだろうか。日本の伝統工芸にも通じる”長く大事に使う”という視点は、我々人類が目指す持続可能な社会の重要なエレメントであり、新たな価値となりつつある。それは環境にやさしいというだけでなく、長年共に過ごすことで育まれる愛着や健やかに暮らせる日常に至るまで、populo ONEが与えてくれるギフトと言えるのではないでしょうか。populomobileが気になった方は、オフィシャルウェブサイトをチェック!

左から山田代表、榛葉鉄工所の後藤氏、山田代表の奥方。鎌倉にあるpopulomobileのショールームにて

populomobile official website

populomobile official youtube Channel

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shibagaki

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