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冒険は終わらない。『坂本家6大陸大冒険』とこれから。そして彼が思う、自転車の魅力とは。

『自転車で世界一周』

そんな壮大な旅を4年3ヶ月もの月日を費やし達成した坂本逹さん。彼の活動はこれで終わるのではなく、これが始まりだったとも言えるだろう。彼はギニアの地でマラリアに罹患し、生死を彷徨う経験をしたが、そこで村の人々、シェリフドクターの懸命な看病によって、なんとか回復し、旅を続けることができた。
そして著書『ほった。』にあるように、シェリフドクターの生まれ故郷にて井戸を掘るプロジェクトをスタート。他にもブータンにて幼稚園設立を支援、東日本大震災支援の被災遺児・孤児に著作物の印税を全額寄付するなど、様々な活動を活動を経て、現在は『坂本家6大陸大冒険』と称し、家族5人で世界を旅している。

「自分の経験を子供たちに伝えたい、共有したい。」
そういう想いから始まった『坂本家6大陸大冒険』

——様々な活動を経て、今は家族で『坂本家6大陸大冒険』を行っていますが、そのきっかけはなんですか。
世界一周を終えてから、講演会で学校に行く機会がすごく多かったんです。講演会では子供たちがとてもいい表情で聞いてくれるんです。自分の経験がそんなにいい経験なんだったら、自分の子供にも伝えたいと思ったんです。でも、伝えるのには限界があるから、それなら一緒に経験したい、経験を共有したいと思うようになったのがきっかけですね。結婚する時にも、妻に「いつか子供ができたら、家族で世界を周りたいんだ」って話をしていたんですよ。
——僕もその講演会で刺激を受けた人の一人ですね。奥さんにそういった話をしていたということは、その計画を伝えたときもすんなりと受け入れたもらえたのでしょうか。
いいえ、当時まだ子供が5歳と2歳、子育てが大変な時期だったので「いや、まさか!?」という感じでした。
——子供たちは受け入れてくれましたか。
そうですね。まだ小さかったので。でも小学生になったぐらいから「どうして僕は夏休みに子供同士で遊んだり、キャンプ行ったりできないの?」って思うこともあったみたいなんです。その時は「お父さん冒険家だから、お父さんの仕事についていかないといけないんだよ。」と言っていました。旅に出ると3ヶ月ぐらい行くので、クラスの子の理解を得るためにも『お父さんは冒険家』ってことがわかりやすかったんです。それを子供たちは純粋に受け入れてくれました。旅は子供たちにとっては大変なことも多いし、辛いこともあるんですけどね。これはちょっとした作戦だったんですけど、家ではアイスとかお菓子をあまり食べさせなかったんですよ。海外を旅していると、みんな子供たちにご馳走してくれるんですよ。だからほぼ毎日食べられて、それが子供たちにとってはすごく嬉しかったみたいです。そういうのもあって旅をすることは受け入れてくれましたね。また、頑張って走っていると出会う人が「すごいね!」「チャンピョン(チャンピオン)だ!」と声をかけて励ましてくれます。体力がついてくるにつれて、たくさん走れるということに面白みが出てきたみたいなんです。サイクルコンピューターを見て「今日は何キロ進んだ!最高速度◯キロ出た!」とか。興味の範囲が年齢とともに広がっていっているのを感じますね。

「正解のない選択を日々、自分たちでしていく。」家族での旅で大切にしていること。

——1人で旅をされていた時と、家族での旅は環境が全く違い、大変なことも多いのではと思います。一番大変だなと思うことはなんですか。
ルート作りとか病気にならないための予防接種とか、安全面に関することは大変ですね。日本のように医療が発達している国ばかりではないですし。また、アメリカでは救急車を呼んだら自己負担なんですよ。例えば、道端で血を流して倒れている人がいるとして、救急車を呼んであげたらその人のところに請求がいくそうなんです。それで訴えられることもあるんですよ。「そんなお金払えないのにどうしてくれるんだ。」って。今は長男と次男が中1と小5になり、すごく力になってくれて楽になったんですけど、下の子がまだ3歳なのでまだ手がかかりますね。今年もイタリアの巡礼路に行くんですけど、車が来ないルートを選んだのはやっぱり安全面を考えてのことなんです。例えば、泊まるところも、1人だとどこでも良かったんですけど、今は家族がしっかり休めるところを選ぶことが大切です。

——1人旅の時に大切にしていた『直感』が家族といると通用しない時もありますか。
そうですね、でも直感で対応することも多いですけどね(笑)やはり直感は大切ですね。家族での旅はマネジメントをすることも多いですが、それも好きなので楽しいと感じます。ただ、目的地も距離も泊まる場所も食べるものも、家族で話し合って決めていくようにしています。様々な選択を日々、自分たちでしていく。そこには正解も不正解もなくて、上手くいかないことがあっても、それを正解にしていくということを大切にしています。子供たちにとっても、親に付いて行く冒険ではなく、主体的にチームの一員として一緒に考えて行動することで、自分たちで選択していくことを楽しめるようになったらいいな、と思います。そして「来年もまた行きたい。」って印象で旅を終えて欲しいです。

——家族での旅で一番思い出に残っていることはなんですか。
いっぱいあるんですけど、大変だったなと思うのはネパールですね。子供の夏休みを利用して旅に行くんですけど、その時期ってネパールはちょうど雨季に入るんですよ。覚悟はしてたんですけど、結局、道路が川の増水で流されちゃったり、そもそも道路がなかったりとか。ムスタンって地区があるんですけど、道路が沼になってしまって、トラックもスタックしているようなところがあったんですけど、そこを走らないといけない時があったんです。さらにものすごい上り坂が続いて、永遠に着かないような気持ちになってしまったんです。日中は気温もすごく高くて、みんな精神的に参ってしまいましたね。なんとかゴールしたんですけど、あの時はみんな「日本に帰りたい。」って言っていましたね。上手くいかないことも多かったです。
——アフリカ縦断の時に感じた『絶対にいつか物事は終わる。』がここでも実証されたような感じですね。大変だった分、子供たちはとても自信が付いたでしょうね。

——ネパールでの思い出はとても大変だったということですが、では一番楽しかったことはなんですか。
楽しかったことは無数にあるんですけど、スペインのサンティアゴ・デ・コンポステーラを目指して、カミーノという巡礼路を走ったんです。そこは世界中から巡礼者が集まって600キロとか1000キロとか歩くんですけど、その人たちと仲良くなったんです。子供たちのこともすごく励ましてくれて。もちろん初対面なんですけど、助けたり助けられたりしながら毎日のように会っていると、到着する時には家族のようになってお互い称え合うんです。この出会いは本当に独特でした。距離が長くて山場もあるので、途中でリタイアする人も多いんですよ。そんな中、ゴールしたらみんな感激と安堵で涙するんです。子供と一緒だと「そんなに小さい子が自力で走ってきたの?」ってビックリして、目を丸くしている人もいるんです。子供たちにとって、家族でいると自転車に乗ることが当たり前で、何キロ走ってもあまり褒められたりしないんですけど、自分たちの凄さを認識する時です。子供たちは自分たちの凄さがあまりよくわかっていなくて。
——小さい時から当たり前のように旅をしているから「そういうもの。」という感覚なんですかね。
多分そうですね。今ぐらいの歳になると、友達に言われて「自分たちってすごいんだ。」って。当時はそういった出会いが子供たちを助けてくれましたね。子供たちがいることで僕たちも助けてもらうことって多かったです。

終わりが近づく『坂本家6大陸大冒険』、そして坂本家のその後。

——家族で旅をするようになったのが2015年で、確か8年計画でしたよね。コロナ禍もあったので、計画が変わっているかもしれませんが、『坂本家6大陸大冒険』もそろそろ終わりが近いのでしょうか。
去年、スペインに行ったのが8回目だったので、終わりの予定だったんですけど、今年を含めて3年間延長になったんです。最初は長男が中学生になる頃には一緒に行ってくれないだろうなと思って、小6で終わるつもりだったんですけど、三男が生まれてきたことで、お兄ちゃんたちが弟と一緒に冒険したいって言ってくれたんです。
——子供たちがそう思ってくれるのは嬉しいですね。『坂本家6大陸大冒険』が終わった後の計画や目標は決まっているんですか。
私たちは家族で世界中でお世話になっているので、世界から日本に来る人たち、それも家族を僕たちの家でもてなしをして、恩返しをしたいなって。そうすれば日本にいながら国際交流もできるし、日本国内のいろんな人を僕が繋げてあげることもできるので。実はすでにそういうことを少しずつはじめているんですけど、そういうことをしたら、世界から来る人たちに日本の良さを感じてもらえると思うんです。家族限定というわけではないんですけど、家族での旅の大変さはよく分かっているんで、家族をもてなしてあげたいです。
——きっと喜んでもらえますね。様々な経験している達さんだからこそわかる苦労もあると思うので、痒い所に手が届くようなおもてなしができそうだなと思いました。

——子供たちも旅を通じて、非常に多くの経験をしていると思いますが、もし子供たちが大人になった時に「僕も一人で世界一周したい。」と言ったらどうされますか。
それはもちろん応援しますね。日本って海に囲まれていて国境がないし、やっぱり狭いなと感じるんです。狭いことが悪いわけではないんですが、広い世界を見てもらいたいなと思っているので、是非行ってほしいと思いますね。
——なるほど。やはり世界中を見てきた達さんが言うと説得力が違いますね。いつかさんの子供の旅の話も聞いてみたいです。

「自転車は簡単に自信を手に入れられる手段のひとつ」
坂本逹氏が思う自転車の魅力

——日本国内も色々なところに行かれていると思いますが、おすすめの場所とかありますか。
四国はお遍路宿があるのがいいですね。おもてなし文化があるんですよね。海もあるし、真ん中には山があるので走り甲斐もあるし、出会いがあって、景色も単調じゃなくて面白いですね。やっぱり北海道もいいですね。温泉と、美味い飯と、美しい景色。あと、まだ行けてないんですけど、東北の被災地に子供たちを連れて行きたいって思っています。すでに道路も整備されているし、震災遺構も実際に訪れたいです。自転車で行くと色々感じられるんじゃないかと思います。
——復興しつつあると言っても、まだ震災の影響が残る街を子供たちに見せておきたいということでしょうか。
そうですね。自分の国で実際に起きたことを、しっかり見て感じて自分事として考えて欲しいですね。それには自転車はとても良い手段だと思います。
——子供たちなりに何か感じることもありそうですね。僕は関西出身なんですが、阪神大震災からしばらく経って、復興した神戸の街を見た時に、とても綺麗な街なんですけど、そこに人の歴史をあまり感じないというような印象を持ったのをすごく覚えています。自転車で被災地に行くことは感じ取ることが特に多くて良さそうですね。
自転車っていろんなところをよく見ることができるし、街の人と接することも多いので。車だとどうしても駐車場に停めて、その周辺を見るだけになってしまいがちなんで。車だと通り過ぎてしまうようなところも自転車だとよく見えるんですよね。

——SHIFTAはこれから自転車に乗りたいなって思っている方やライトユーザーの方が自転車のある生活を楽しんでもらえるような情報の提供をしていきたいなと思っています。そういった方に向けて、さんが思う自転車の魅力はなんでしょうか。
行きたいところを自分で決めて、そこへのルートも自分で決められて、思っていた通りに行けることもあれば、予想もしなかった道があったり、人や景色との思いがけない出会いがあったり、その出会いによって自分自身で何か気づきがあったり、物の見方が変わったり、そういうプロセスが面白いですね。あと、魅力だな思うことの一つが、遠くから見ると「あんなところ自転車で行けないだろ」って思うようなすごく高い山も行けちゃうじゃないですか。上まで行って下を見下ろすと、「こんなに登ってきたんだ。」って自信がつくんですよね。自信ってやらなければ手に入らないですよね。その自信を簡単に手に入れられると思うんです。無理だろって思うようなことが意外とできるんですよね。あと、僕たちって日々すごい忙しくしている中で、自転車って物の見方を変えたり、うまく行かないことの理由がわかったり、そういう手助けをしてくれるように思うんです。買うにはお金がかかりますが、後は基本的に交通費もガソリン代もかからずにすごい経験がたくさんできるので、お得ですよね(笑)
——著書『やった。』の中にも「今日も進もう。進まなくては。それが自分の励みになり自信となる。」ってありましたね。
チベットでのことですね。やはりそういう経験が僕自身が思う自転車の魅力に結びついているのかなと思いますね。

『自転車世界一周』を達成した冒険家、坂本達氏。
彼の根底には『感謝』があるのだろうと思う。そして、その人柄や行動力が人を呼び、その出会いが人々を笑顔にし、そして自らも笑顔になっている。そのように感じた。
冒険のこと、そして彼の魅力はこの限られたインタビューで語り尽くせないということは言うまでもない。是非、著書を読んでみてほしい。


今年も『坂本家6大陸大冒険 第9ステージ/イタリア・ローマ巡礼路』を無事終えた坂本ファミリー。今年の冒険でも様々な出会いがあり、そして彼の周りは笑顔でいっぱいになったことだろう。

PROFILE

坂本達(株式会社ミキハウス社長室/冒険家)
子供服ブランド『ミキハウス』社員でありながら、無期限の有給休暇を取得し、4年3ヶ月をかけて自転車での世界一周を達成。帰国後はギニアで『井戸掘りプロジェクト』や『診療所建設プロジェクト』、ブータンで『幼稚園&小学校支援プロジェクト』など、お世話になった国々での支援活動を実施。著書に『やった。』『ほった。』などがあり、ギニアでの『井戸掘りプロジェクト』について書いた『ほった。』は中学校3年生の国語の教科書に採用されている。2015年からは『坂本家6大陸大冒険』と称し、家族5人で様々な国で自転車旅をしている。

坂本逹オフィシャルサイト:
https://tatsuoffice.com/

坂本逹instagram:
sakamoto_family_adventure

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