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ライフスタイルとしてのロードバイクvol.2 -黎明期から現代へ ー 老舗プロショップが描くロードバイクの系譜-
2026.03.23
ヨーロッパを起源に持つロードレーサー文化を、日本にいち早く紹介してきた老舗プロショップ「横尾双輪館」。戦後間もない時代から続くその歩みは、日本におけるロードバイク文化の変遷そのものと重なります。今回、長年にわたり現場に立ち続けてきた店主に、取り扱いブランドの変化、素材の進化、そしてクロモリへの思いまで、じっくりと話を伺いました。

黎明期から50年以上にわたるロードバイク文化との歩み
——ロードバイク専門店として、かなり長い歴史をお持ちだと思います。これまで多くの有名ブランドを扱われてきたと思いますが、商品の変遷について、当時から現在にかけてどのように変わってきたのか教えていただけますか。
メインで扱っているのは、オリジナルブランド「HOLKS(ホルクス)」と、「DE ROSA(デローザ)」です。デローザは1974年に日本の代理店になりました。その後、代理店は変わりましたが、ずっと扱っていて、もう50年になります。
そのほかにもコルナゴやビアンキなど、ヨーロッパ系ブランドを中心に取り扱ってきました。
——デローザには特別な思い入れがありますか。
そうですね。あそこに写真がありますが、当時のオーナーとウーゴ・デローザ氏が並んで写っているものです。お互い80歳前後だったでしょうか。「また10年後に会いましょう」と話していたそうですが、残念ながらそれは叶いませんでした。


——ロードバイクの変遷を見ると、年代ごとに違いはあったのでしょうか。
70〜80年代にかけては、大きな変化はなかったと思います。大きな転換点があったのは90年代ですね。シマノがSTI※を出して、カンパニョーロもそれに追随しました。そこからモデルチェンジのサイクルが一気に早くなりました。
昔はパーツの互換性もあって、さまざまなカスタムを楽しめましたが、今はコンポーネントごとに設計が完結しています。フレームも変化していて、今はケーブル内装式がスタンダードで、見た目は非常にすっきりしています。ただ、組み付けは格段に難しくなりましたね。
※STIとは
ブレーキレバーと変速レバーを一体化したロードバイク用の操作システム。ハンドルから手を離さずにブレーキとギアチェンジを同時に行えるのが特徴で、1990年にShimanoが実用化し、現在ではロードバイクの標準的な変速方式として広く採用されています。
——ユーザーのトレンドも変わってきていますか?
素材の流れで言えば、クロモリからチタン、アルミ、そしてカーボンへと移っていきました。アルミの時代が一つの転換点で、その後カーボンが主流になりました。
軽量化や剛性の進化は確実に進んでいます。ただ、それを一般ユーザーがどこまで求めているかというと、少し疑問もあります。選手なら「速さ」は重要ですが、一般の方にそこまでの性能が必要かというと、必ずしもそうではない。
だからうちは、最新のカーボンもありますが、クロモリも提案しています。選択肢を残しておきたいんです。
——現在のニーズは多様化しているのかなと思いますが、例えば20年前とか40年前はどうでしたか?
40年前になると、もうクロモリしかなかったですからね。だから逆に、お客さんも選択肢がなかったとも言えるし、迷わなかった。デローザでも、当時はいろいろなモデルがあったわけではなく、「デローザはこれ」という感じでしたね。
20年前、2000年代くらいになると、アルミやカーボン、クロモリもまだあったかな。いろいろなモデルが出ていて、選ぶ楽しさがありました。レースを目指している人ならカーボンだったし、そこまでじゃないならクロモリ。パーツもブラック系やシルバー系、そのほかのカラーもあったりと選択肢は多かったですね。
今はフレームはほとんどカーボンになりましたし、色やパーツのバリエーションも減ったので、組み合わせの自由度は少なくなったなと感じます。コンポーネント単位でパーツを組み合わせるのが主流になっていますね。




現代のサイクリストにもおすすめしたいクロモリロードの魅力
——お店のラインナップをみると、トラディショナルなクロモリロードに対する思い入れが強いように思われますが、クロモリは、やはりお店として外せない存在ですか。
やっぱり外せないですね。扱いやすさという点では、特に初心者の方には適した選択肢だと思います。輪行のしやすさもそうですし、ディスクブレーキ仕様と比べると構造がシンプルな分、取り扱いも比較的容易です。また、カーボンフレームほど神経質にならなくてよい点も大きな魅力だと思いますよ。
たとえば多少ぶつけてしまった場合でも、パイプがへこむことはあっても走行自体は問題なく続けられるケースがほとんどです。一方でカーボンはダメージの程度によっては走行不能になる可能性もあります。その意味でも、安心感という点で優れている素材だといえます。
確かに重量面ではカーボンに比べれば重いのは事実です。でも実際に走ってみると数字ほどの重さを感じることは少ないと思います。手に持てば重さを実感しますが、走行中はその差が気にならないという方も多いはずです。総合的なバランスを考えると、現代においてもクロモリロードは十分におすすめできる存在だと思います。
——クロモリロードを組み上げる際に、こだわっているポイントを教えてください。
クロモリは丸パイプで細いので、ハンドルやステムも、こてっとしたものではなく、シンプルなものを組み合わせています。フレームの形も、ほぼ不変なので、あまり流行りものをつけすぎない。もちろんお客さんの好みもありますが、10年後でも20年後でも、置いてあって絵になる形を意識して提案しています。
あと以前はシルバーパーツ一択だったんですが、黒パーツが主流になってきたので、ハンドル、ステム、シートポストも黒を使うようになってきました。現在のパーツをつけてもすごく締まってかっこいいですよ。

——長くロードバイクに関わってこられて、特に印象に残っている、思い入れのあるブランドを教えてください。
一番最初に乗ったのはホルクスですね。今でも乗ってますし、最初の1台というのはやっぱり思い入れがあります。あとはコルナゴのマスターが出てきた時には、「なんだこれは」という衝撃を受けました。丸パイプに慣れていたので、ジルコ加工のフレームはインパクトがありました。
——マスターのライドフィールについての印象はありますか?
同じクロモリでもちょっと固めで、レーシング寄りなんだなという感じがしました。ストレートフォークを採用したのも印象的でした。コルナゴファンもたくさんいますし、好きな方は必ず選ばれるようなロードバイクだなと思いました。
——どういった方がマスターを選んでいますか?
いきなりマスターを選ぶ方は少なくて、今までカーボンフレームに乗っていて、クロモリに興味を持ってたどり着くケースが多いですね。パーツの組み方も多様で、昔のパーツを持っていて、それで組みたいという方もいますけど、クラシック一辺倒ではなく、現代のパーツで組む方が多いのも特徴です。本格的なクラシック志向なら、チネリのスーパーコルサとか、そっちに行くかな。

——クロモリのロードバイクは、どのような乗り方を想定されたモデルだと思われますか。
カーボンフレームのようにレースでの使用を前提とするというよりは、ツーリング志向で楽しまれる方が多い印象ですね。とはいえ走行性能は非常に高く、のんびり走っても気持ちいいですし、こちらが踏み込めばしっかり応えてくれる懐の深さがあります。
——純粋に自転車そのものを楽しみたい方には、まさに最適な存在かもしれませんね。
ええ、さらにクロモリの魅力は「長く乗れる」という点にもあります。実際に20年、30年前のフレームに最新のコンポーネントを組み合わせて、今も現役で乗り続けている方もいらっしゃいます。
たとえば、かつての9速コンポーネントから、現在のアルテグラへ載せ替えるといった楽しみ方も可能です。フレームさえ丁寧に手入れしていれば、錆も最小限に抑えられますし、20年、30年と付き合い続けることができます。
——最後に、お店からのメッセージをお願いします。長い歴史を持つショップとして、今後もロードバイクの魅力を伝えていくために大切にしていることは何でしょうか。
まず大前提として、自分のサイズに合った自転車に乗ってもらうことですね。それから、長く乗るためには、多少は自分で手入れをしてもらったほうがいいと思います。そうすると、ちょっとした異変にも気づきやすいですし。中には「こんな状態で乗っていたのか」と驚くようなケースもあります。
完璧に整備できなくてもいいんです。ただ、自分の自転車に愛着を持ってほしい。それがお客さんへのメッセージですね。そうすれば自転車は長く乗れますし、より愛着も深くなります。将来的には、世代を超えて受け継いでいくような存在にもなっていくんじゃないかと思います。
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