泥、砂、芝、そしてアスファルト――刻々と変化するコンディションの中で勝敗を分けるのは、選手の技術だけではありません。機材の選択、とりわけタイヤはシクロクロスにおいて決定的な役割を担います。伝統あるハンドメイド製法と革新的なテクノロジーを融合させ、数多くのトップライダーに支持されてきた「チャレンジ」。今回、実際にチャレンジのタイヤを使用しているサポート選手に、その走行感や信頼性について率直な声を伺いました。レース現場でしか語れないリアルな使用感を通じて、チャレンジタイヤがなぜ選ばれ続けるのか、その理由に迫ります。
沢田時選手(宇都宮ブリッツェン)
プロフィール
沢田時(さわだ とき)選手は、日本を代表するシクロクロスライダーで、宇都宮ブリッツェンに所属。幼少期からMTBで頭角を現し、全日本選手権U23やエリートで複数回優勝を果たしてきました。シクロクロスでは2度の全日本チャンピオン、MTBでは3度のチャンピオンに輝き、昨年と今年は連覇を達成。今まさに最も勢いに乗るオフローダーです。国内トップの実力に加え、海外レースにも挑戦し、経験を積みながら高い技術とスピードを武器に活躍。ロードやMTBもこなすオールラウンダーとして、日本シクロクロス界を牽引する存在として注目を集めています。
他のタイヤと比べて、どの点が優れていると思いますか?
チャレンジのシクロクロスタイヤは、豊富なトレッドパターンが用意されているため、あらゆる路面コンディションに応じて最適な選択が可能です。特にマッドコンディションでは「ベビーライムス」と「ライムス」の2種類がラインナップされており、泥の深さに合わせて的確にチョイスできる点が大きな強みとなります。さらに、悪路での確かなグリップ性能に加え、舗装路における転がりの軽さも兼ね備えており、非常に優れたタイヤだと感じています。
チューブラー/チューブレスの空気圧設定は、どのように決めていますか?
ドライコンディションでは、まず体重65kgで1.7barから走り始め、試走の感触を確かめながら必要に応じて少しずつ空気圧を下げていきます。海外のレースやマッドコンディションでは、さらに低めの空気圧から試すこともありますが、一貫しているのは「やや高めに設定して走り出し、状況に合わせて徐々に下げていく」という方法です。
レース後のメンテナンスで気をつけていることはありますか?
タイヤは中性洗剤で丁寧に汚れを落とした後、しっかりと乾燥させます。十分に乾いたことを確認してからホイールバッグに収納し、室内で保管するようにしています。
最も得意とする路面状況はどんなコンディションですか?また、その路面で走るとき、どんなタイヤ特性を重視していますか?
マッドコンディションになればなるほど力を発揮でき、特にバイクを担いでランニングが求められるような状況を得意としています。そのような状況ではライムスを選ぶこともありますが、泥が深すぎてランニングするとあらかじめ決めている区間がある場合には、乗車できる区間で少しでも抵抗を減らすために、ベビーライムスを選択することも少なくありません。タイムを稼ぎたいセクションで最適なタイヤを選ぶようにしています。
タイヤが自分のパフォーマンスを引き出してくれると感じた瞬間は?
タイヤの選択と空気圧の調整が的確に決まり、テクニカルな区間でライバルに対して優位性を感じられたときです。シクロクロスではタイヤ幅が最大33mmに制限されているため、ライダー自身によるセッティングが勝敗を大きく左右するほど重要になります。
国内レースで一番出番の多いタイヤはどれですか?またその理由は?
国内ではシケインを選ぶことが多いです。日本のシクロクロスは砂利の路面やクイックなコーナーが多いため、サイドノブがしっかりしたタイヤの方が安定して曲がることができます。さらに、転がりの軽さも大きな魅力です。一方、登りで後輪の確実なグリップが求められる場面では、グリフォやベビーライムスを選択しています。
チャレンジについて印象に残っているポイント
今年の全日本シクロクロスは砂地セクションがあるため、デューンなど砂専用タイヤを準備しておく必要があるかもしれません。どのようなコンディションでも最適なタイヤを選択できることは、大きな安心感につながっています。
鈴木来人選手(OnebyESU-ICV)
Photo:Miki Omori
プロフィール
鈴木来人(すずき らいと)選手は、若手注目株のシクロクロスライダー。ジュニア時代から全国大会で活躍し、全日本選手権でも上位に食い込むなど、将来を嘱望される存在です。安定した走りと積極的な攻めのレース展開が持ち味で、国内トップ選手との対戦を通じて着実に成長。ロードレースやMTBにも挑戦しながら経験を重ね、多方面で実力を発揮しています。次世代を担うシクロクロス界のホープとして期待が寄せられています。
他のタイヤと比べて、どの点が優れていると思いますか?
サイドケーシングの柔らかさ、タイヤパターンの豊富さに優位性を感じます。
またシクロクロスにおいて極低圧で運用をするためTUタイヤの使用は必須と言ってよく、TUタイヤのラインナップが非常に多く流通量も比較的多いチャレンジタイヤはマーケットにおいても優位な位置にあると思います。
タイヤパターンの豊富さに関してはコンディションの変化につぶさに対応できコンディションに完璧に合わせたタイヤ選択を行うことができ、レースを走る上で優位に立つことができると感じています。
チューブラー/チューブレスの空気圧設定は、どのように決めていますか?
TUについてはリム打ちをしないギリギリのラインを見定めています。
TLについてレースで使用することは非常に稀だが、走行中にビートからエアリークが起きることを織り込み気持ち高めに設定を行なっています。
何れの場合でもコース試走時にある程度高圧から徐々にエア圧を降下させながら走りエア圧の設定を行っています。
レース後のメンテナンスで気をつけていることはありますか?
レース後は可能な限り早く真水で汚れを落としある程度乾燥をさせてからホイールバックに収納し運搬を行っています。また帰宅後は可能な限り早くホイールバックから取り出し風通しの良い場所で陰干しを行います。
その後はホイールバック等には収納せずホイールラックに吊り下げ室内保管を行い、可能な限り水分が残らないように保管しています。タイヤに余計な水分が残ることでサイドケーシング、ふんどしが腐りやすくなるため可能な限り紫外線を避けつつ余計な水分を残さないことを意識しています。
最も得意とする路面状況はどんなコンディションですか?また、その路面で走るとき、どんなタイヤ特性を重視していますか?
ある程度のランがを要するヘビーマッドかつテクニカルコンディション。
どこまでエア圧を下げることができるかという点、また路面に対してノブがどのように引っ掛かるか(トラクション、グリップ等をかけられるか)という点を特に意識しています。またコースによってどの方向のトラクションが必要になるかが異なるため、試走時にそこを見極めることでタイヤを選択しています。
タイヤが自分のパフォーマンスを引き出してくれると感じた瞬間は?
ライダーのパフォーマンスをタイヤが引き出すのではなく、ライダーがタイヤのパフォーマンスを引き出すことで速く強い走りができると考えています。例えば難しいコンディション、セクション等で他の選手がクリアに難儀している部分を自分が確実にクリアできるなど明確な優位性を感じた際には、自分がタイヤのパフォーマンスを引き出せたと感じます。同時に速いライダーはタイヤのパフォーマンスを引き出す手筋が非常に多いとも感じています。
国内レースで一番出番の多いタイヤはどれですか?またその理由は?
「デューン」か「グリフォ」です。
国内レースは芝路面が非常に多くセンタースリック系タイヤの使用頻度が高くなります。
シケインもしくはデューンの選択となりますが、シケインは自分の走らせ方では芝路面にサイドノブが引っかかり走りの重さを感じるため、極低圧のデューンを使用し面圧でグリップを稼ぐことが多いです。
加えて国内レースではマッドコンディション(ベイビーライムス/ライムスが必要なコンディション)になることが稀であるため、セミマッド、もしくは縦方向のトラクションを必要とするコースではグリフォを使用することが多いです。
小坂光選手(宇都宮LUX)
Photo:kasukabevisionfilmz
プロフィール
小坂光(こさか ひかる)選手は長野県出身のシクロクロスレーサーで、日本を代表するトップ選手の一人です。全日本シクロクロス選手権で複数回の優勝を誇り、2度の全日本チャンピオン獲得経験を持つ実力派レーサー。安定したテクニックと粘り強い走りで知られ、ロードレースやマウンテンバイクでも活動するなど多様な競技経験も特徴です。国内外のレースに挑戦し続け、日本シクロクロス界を牽引する存在です。
他のタイヤと比べて、どの点が優れていると思いますか?
タイヤのしなやかさ、耐パンク性能、タイヤのバリエーションの多さ。これらの点で他メーカーのタイヤより優れていると感じます。チューブラータイヤをレース環境で使用すると、パンクのリスクが大きいですが、リム打ちやサイドカット等については比較的強いイメージがあります。また、レースでの使用や洗車でダメージを受けやすいサイドの部分も痛みづらく強いと感じます。
チューブラー/チューブレスの空気圧設定は、どのように決めていますか?
チューブラータイヤについて
1.8barを入れてコースの試走を開始し、コースコンディション等を確認しながら少しずつ空気圧を下げています。パンクのリスク、タイヤのグリップと走行の軽さのバランス、乗り心地、タイヤがよじれないかどうか、など色々な要素があるのでトータルで最も速く走ることができる空気圧を探ります。ドライなら1.6〜1.7bar,マッドでは1.5以下で走ることが多いです。
レース後のメンテナンスで気をつけていることはありますか?
事前にアクアシールを塗布して防水性能を高めていますが、レース後の洗車等で濡れたまま放置するとタイヤサイドが傷んでくる場合があるので、必ず拭き上げるなどして水分を取り除きます。
最も得意とする路面状況はどんなコンディションですか?また、その路面で走るとき、どんなタイヤ特性を重視していますか?
最も得意としているのはマッドコンディションです。
コース全体が深い泥の場合は迷わずグリップ力の高いベイビーライムスやライムスを選択しますが、泥とドライの両方を路面も含むコースの場合はシケインやグリフォも選択肢に入ります。
シケインとグリフォのどちらを選択するかの判断は、センターとサイドのどちらのグリップを重視するかで行います。キャンバーが多い場合はシケイン、直線区間や急勾配の直登でグリップが必要であればグリフォ、どちらも必要という場合には前輪にシケイン、後輪にグリフォをセットすることもあります。
タイヤが自分のパフォーマンスを引き出してくれると感じた瞬間は?
2021年に全日本選手権を制した時です。
2位の織田選手(当時)が選択したのはグリフォ、私はシケインを選択しました。泥の区間も多かったものの、サイドグリップは十分、かつ直線区間の走行の軽さを重視した選択で勝利を手にすることができました。ルールでタイヤ幅の上限が33mmまでと限られているシクロクロスにおいては、タイヤ性能とそのセッティングがパフォーマンスに大きく影響すると考えています。
国内レースで一番出番の多いタイヤはどれですか?またその理由は?
国内レースにおいてはシケインの出番が圧倒的に多いです。
理由としては、日本のレースは基本的に天気が良いため(路面がドライ)と、コーナーやキャンバー区間が多いためです。基本的にドライコンディションでのレースが多いので、直線での走りが軽く、かつサイドのグリップ力が高いシケインは日本のレースにおいてはマストアイテムと言っても過言ではないです。
補足すると、ヨーロッパのレースではシケインを使う選手は見かけませんでした。気候やコースの作り方の違いなど、大きく異なるので、グリフォ、ベイビーライムス、ライムスのいずれかを使用している選手が多かったです。