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0.3からはじめるウルトラライト輪行ソロキャンプ Vol.03 初ソロは最小限の野営から
2023.10.03
前回の記事では、輪行の仕方とポンチョタープの張り方についてお届けした。今回はいよいよ、実際にキャンプに行く様子をご紹介したいと思う。とはいえ完全なソロのキャンプは未経験で、正直ドキドキ……初めてということで内容もミニマムになるが、今回も生暖かく見守っていただきたい。
初めてのソロキャンプの場所は
UL(ウルトラライト)キャンプがテーマの当連載では、ミニマムな装備でのソロキャンプについてお届けしていく都合上、高規格なキャンプ場は利用しない。ゆくゆくは人里離れた山奥や岬の先端で、満天の星の撮影や、こだわりのキャンプ飯にトライしたいと考えてはいるが、今回の目的は初のソロキャンプを無難にこなすこと。記事をご覧の皆さん、特にこれからソロキャンプを始める方に向けて残念な結果を披露してしまうことのないよう、抜かりなく(?)かなりレベルを落としてのトライを心掛けた。
というわけで今回の場所は……とその前に、道中の様子からお届けしよう。
輪行はJR京都駅からスタート。記事のネタにと思い、知る人ぞ知る、ビックカメラ店内直結の改札口から入った。といきたいところだったが、ビックカメラJR京都駅店が2023年5月7日をもって閉店し、店から直結の改札口であった西洞院口(にしのとういんぐち)も残念ながら同時に閉鎖されていた。写真は(今や幻となった)改札口から駅に入ってきたテイでのカット。 *撮影にご協力いただいた方々、ありがとうございました。
…とくれば、博識な乗り鉄、駅鉄の方は行き先はもうお分かりかも。降り立ったのは、コンビニ店内直結の改札口(セブンイレブン ハートイン改札口)のあるJR西日本の守山駅。よく見ていただくと、写真奥に改札機。守山駅は「琵琶湖線」の愛称区間にあり、田園風景の中を自転車で少し走れば美しい琵琶湖が広がっている。そう、今回は琵琶湖のほとりでキャンプをするのだ。*キャンプ道具を入れたバックパックよりも輪行袋の方が存在感大だ。
9月も中旬というのにまだ残暑が厳しいが、自転車で走ってみると気持ちいい。ただ、途中から雲が急に多くなり、キャンプに支障が出ないか少し不安になった。普段は忘れているが、人間にはどうすることもできない自然の大きな存在を改めて思い出す。
しかしこうして振り返ってみると、自転車のありがたみをつくづく感じる。鉄道で輪行して、駅から目的地までは自転車で移動して。14インチのDAHON K3は軽量コンパクトさと走行性能のバランスがとても良いので、輪行を前提にする場合は最良の選択だと思う。
しばしライドを楽しみ、程なくして目的地に到着。やってきたのは滋賀県営都市公園 湖岸緑地 木浜1だ。
あまり知られていないようだが、湖東にはこういった湖岸緑地が数多く整備されており、バーベキューやキャンプが許可されている緑地も多い。キャンプ場のような設備は無いが予約も利用料も不要なので、ちょっとキャンプの雰囲気を楽しんでみるのにはいい。滋賀県営都市公園 湖岸緑地の公式Webサイトでは地図付きで分かりやすく情報を提供している。画像は南湖東岸地域のマップで、湖岸緑地はこのほかに湖東や湖北にも整備されている。
湖畔に公園があるだけなので、キャンプは合法だが自ずと野営的なスタイルになる。野営とは本来キャンプの和訳だが、アウトドア界隈では管理人がいたり設備が整っているキャンプ場で行う一般的な「キャンプ」に対して、設備が整っていない場所でキャンプを行うアクティビティを「野営」ということが多いようだ。
今日のキャンプ地はここに決定。
今回の装備と設営
装備に関する前回からの大きな変更としては、Vol.01では究極のULな装備を念頭に火器はアルコールストーブを使用したが、今回は湯を沸かすだけではない食事を目的に、シングルバーナーとクッカーを用意した点となる。
主な装備は左上からテント代わりのポンチョ、ガイロープ、ペグ、シュラフなどの住関係、真ん中あたりはクッカー、シングルバーナーなどの食関係。個人的には、重たい財布を一時的に軽量化させる100円ショップのメッシュケースが気に入っていて、普段からポタリングする時にも使っている。
写真以外にもほかに食料、水、箸、ウェットティッシュ、着替え、カメラ、撮影用ライト、自転車関係では車体以外に輪行袋、ワイヤ錠、ヘルメットといったものも必要となる。日数により量が変化する食料・水といった消耗品や衣類を除いた重さをベースウェイトと呼ぶが、その定義では今回の装備は3.5kgだった(ロケ撮影に使用するカメラも除外)。一般的にベースウェイトが4〜5kg程度をUL(ウルトラライト)と呼ぶそうなのでかなりの優等生だが、実はこれに含まれない水、食料がかなりの重さになった。
Vol.02ではポンチョタープを張る際に樹木を利用したが、今回はどうしようかと思っていたところ、奇跡的に都合のいい枝を拾うことができたので支柱にしてみた。ここまで細いと開放感が出るし、屋根の下に座りながら外を向いて作業もできそうだ。但し必ず枝を拾える保証はどこにもないので、今後については要検討事項だ。
ガイロープ(テントやタープを地面に固定するロープ)は前回までファミキャンで使っていた直径5mmのものを使っていたが、ポンチョ1枚に対しては無駄に太すぎるように思い、UL化を目的に2.38mm径のものに変更した。アウトドアショップではもっと細いものもあったが、使い勝手で難ありなものがあるなどXでアドバイスをいただいたりもした。
思いのほか、いい感じに設営できて満足。目の前に広がる琵琶湖の景色もナイス。ポンチョをテント代わりにする案は、なかなか良いのではないだろうか。(←立てただけでまだ実際には寝てないが)
感謝の気持ちでいっぱいになり、意味無くSEA TO SUMMITのロゴを撮影。
今回紹介する新しい装備は、シングルバーナーとクッカー。前述のとおりここはバーベキューやキャンプが許可されているので、普段料理を全くしない自分だが夕食作りにトライする、というストーリーだ。
シングルバーナーには、ガスカートリッジ(ガス缶)と直接接続する一体型と、ホースで繋ぐ分離型の2種類があるが、手のひらサイズにコンパクトになる携行性の良さから一体型を選んだ。購入したのは、谷ノ木舎の店主のすすめもありMSRのPocket Rocket2だ。最高出力は2,143kcal/hと特筆すべきほどの高さではないが、何より本体重量が73gと群を抜いて軽量で収納時サイズも小さく、ULキャンプを語る上ではかなりのスペックを誇る。
MSRは登山家のラリー・ペンバシーにより、危険と隣り合わせの自然環境やアウトドアフィールドの中で「すべての登山家の安全を守る」という目的のために1969年にアメリカで設立されたブランドで、MSRとはMountain Safety Researchの略。アウトドアブランドの中でも、過酷な環境で使用するギアをいくつも展開しているイメージが強い。
クッカーはEVERNEWのアルミクッカー 900FDを購入。浅型と深型のセットで携行性に優れ、沸かす、炊く、煮る、焼く、と簡単な調理はカバーできる。ひと回りコンパクトなものを考えていたが、実際に手に持ったところ想像よりも軽く感じた(187g)。素材は当初(プロっぽい気がして)チタンと決めていたが、妻の助言もあり熱伝導に優れたアルミのものにした。ムラなく調理しやすいので、自分のような料理初心者には特にいいだろう。アルミ製はチタンに比べて結果的にかなりリーズナブルでもある。
設営をスムズーに終えられたのは良かったが、時間があって、いざ一人になってみると何をすれば良いか戸惑った。ごろんと寝転んでみると、居心地のいい空間ができている。夕方近くになると少し風が出て涼しくなってきた。
ポンチョの上にとまったバッタを撮っていたら、ポンチョの内側にはイトトンボもやってきた。琵琶湖には多くの流入河川があり水環境が豊かなため、都道府県単位で見れば滋賀県はトンボの種類が日本でもトップクラスに多いそうだ。
雲の多い天候だったが、傾いた日の光が自分好みの風景を作ってくれた。SNSでいいねの通知が止まらなくなるような見栄えのいい写真ではないが、この一瞬を拝めただけでも自分的には今日来て良かったと思える。
日没が近づいてきた。この場所(湖岸緑地 木浜1)は南西を向いているので、ちょうど対面に比叡山が見える。まだ17時台だが、稜線に陽が沈むと一気に暗くなりそうだ。いよいよ夜がくると思うと少し不安にもなるが、ワクワクした気持ちの方が大きい。(無事に明日を迎えることができるのだろうか。)
湖畔での野営風景
すっかり陽が落ちたので、夕食の準備に。普段から料理をほとんど全くしない自分にとって、ソロキャンプの最大かつ唯一の課題が食事だ。何を作るか、作れるのか。また、料理が決まらないと持ってくる装備(火器、調理道具)も決まらない。キャンプ慣れした人であれば、途中で立ち寄ったスーパーで旬の食材を見つけて献立を考えるのだろうが、そのレベルに至るにはかなりの時間を要しそうだ。
実はアウトドアショップに行けばキャンプ用レトルト食品もかなり充実していて、いつかはそういうものも紹介してみたいが、初ソロキャンプの記事として発信するにはちょっと手抜きな気がした。「やってる感」が出せないように思ったのだ。そこで今回は、下準備は自宅で済ませて現地では温めるだけのものにしようと思いつき、普段から大好きなアヒージョにすることにした。
食材はジップロックに入れ、凍らせたペットボトルで冷やしながらきた。が、安全をみて鶏肉は断念した。みじん切りしたニンニクや塩はラップに包んだだけだ。ペットボトルは水分補給の目的もあり何本も持ってきたので、荷物はかなり重くなった。
まず初めに、オリーブオイルにニンニクだけ入れて、しっかり香りをつける。
んー、もうこれだけでいい匂い。
具材を入れて割り箸で混ぜる。弱火でじっくり温めると……もうほとんど完成。何だ、この簡単さは!料理ってもっと難しいものではなかったのか。簡単な献立を選べさえすれば、これから自分でも取り組めそうだ。(感動)
一度自然の中に身を置くと使える食材や道具は限られるので、気軽に…というわけにはいかないかもしれないが、料理のスキルは計画と準備で補えそうだ。また今回気がついたのが、下準備を自宅で済ませておくと現地で調理が不要な分、包丁やまな板なども用意しなくて良いので装備が軽くなるということ。料理を語るには知識が追いつかないが、もしそういう方法が今後も可能ならULキャンプの一つの有効な手段だと言えそうだ。
では、いただきます。
琵琶湖と対岸の街の灯りをぼーっと眺めながらシンプルな夕食をいただいていると、目だけでなく耳の感覚も研ぎ澄まされてくる。マツムシ、コオロギ……あたりだろうか、とにかく虫の鳴き声が賑やかだ。無事に設営し、夕食も済ませ(&予定していた記事の撮影も終え)、あとは眠くなれば寝るだけだ。
子どもとビデオ通話をしたところ、ファミキャンで寝るいつものテントとは大きく異なる片屋根のポンチョタープを見て、その開放感に驚いていた。うん、自分もここですんなり眠れるのか疑問ではある。
こちらが今日の寝床。軽量コンパクトを目的にマットは100cmと短いものを使用しているので、脚の下にはバックパックを敷いている。枕代わりには着替えを入れた袋を用いた。まだ早いので、寝転がって本を読んだり、ネットを見たり。モバイルバッテリーを持ってきていて良かった。本の方は清水義範さんという方の「夫婦で行くイスラムの国々」という紀行(集英社文庫 2009年)。淡々とした文章で現地の文化や暮らしの様子をリアルに伝えてくれる、長く好んで読んでいる1冊だ。
寝る前に夜の雰囲気も撮影。思ったとおりに撮れたものの、あとで見ると、中の荷物の影が気になる……。いつか満天の星とも撮ってみたいな、とも思う。
着替えを利用した枕はゴツゴツして寝づらかった。夜中少し雨が降ったが、幸い風がなくなっていたので寝床を奥に移動してなんとか凌げた。代わりに(無風になったからか)蚊が耳元でうるさくなったので、シーツを頭まで被って寝た(蚊取り線香は持ってきた2巻を消費してしまい、虫除けはあまり効かなかった)。今回のようなULキャンプでは、ちょっとしたことは逆に楽しめるくらいの気持ちの余裕が必要だと悟った。
そして朝に思うことは
朝は突然やってきた。トンビの鳴き声で6時前に起こされたのだ。あの、ピーヒョロロロロ……ってやつだ。睡眠時間は短かったが、無事に朝を迎えることができた嬉しさからか目覚めは良かった。対岸の比叡山に雲がかかっていて、神秘的とさえ思える。
ちなみに「トンビ」という呼び方は間違いではないが、どちらかと言えば「トビ」の方が日本鳥類目録に記載されている種名という意味でより正式に近いそうだ。
魚が時々水面の上で跳ねる。鳥や虫も忙しく活動している。普段の街なかでの暮らしでは忘れがちだが、この雄大な自然を前にして改めて人間の小ささを感じる。
初のソロキャンプ、しかも開放感のあるポンチョの下で寝るという、ちょっと刺激的な体験をした朝なので、食べて寝て起きるという日常生活での繰り返しが実はありがたい、尊いことのように感じた。
というわけで、色々なものに感謝しながら、朝食の準備を。
朝食のメニューはコーヒーとバケットのみ。少々味気ない気もするが、シンプルだからこそ味や香りを楽しめるし、今後いろいろやっていくのに向けた初のソロキャンプということで、スタートに相応しい内容だ。
……というのは後付けだが、実際には対岸の山々を臨みながらの野営明けのコーヒーとパンは実に美味しく、癖になりそうな感覚だった。想定外の楽しさだ。夜も良かったが、朝もなかなか気持ちが良い。無事に夜を越せた喜びや、充実感が伴っているからかもしれない。
ソロキャンプに何を求めているか。それは人それぞれ違うだろうが、日常生活と切り離された開放感を挙げる人は多いだろう。そのために自分の場合は、多少不便でしんどいとか、不安でドキドキするくらい刺激があった方が非日常的でリフレッシュできるし、自然の中に身を置くことでフラットに物事を整理し自分の生き方を見つめ直せると思う派だ。
キャンプには様々なスタイルがあって、そのそれぞれに良さがあるが、鉄道と、自転車と、バックパックひとつでこんな体験ができるUL輪行ソロキャンプは今回、最高だと思うことができた。次回のテーマは季節柄、ちょっと寒い中でのULキャンプと、簡単で温かい料理について取り上げられたらと思う。
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