製品ページだけでは紹介しきれない部分を紹介させていただく、このシリーズ。
FUJIの自転車買ってみたいけど悩んでる、もしくは買ったけどもっと深く知りたい。そんな方のために少しでも役に立てれば嬉しい。「中の人」が相も変わらず主観たっぷりで想いを書き綴ります。
今回紹介するのは、デビューから2年強とまだ日が浅いながらも、「FUJI = シングルスピード系が強め」のブランドイメージをほんのり塗り替えたゲームチェンジャー?とも言える現代版ATB、「ALTERR」です。
2026年で3期目を迎える比較的新しいモデルですが、実は今から40年ほど遡ったある自転車に、着想のルーツがあるんです。
そもそも、山岳・市街地の両用を目的とし開発されたATB(All Terrain Bike=全地形型自転車)は、ピュアな山遊びを行うために発生したMTB(Mountain Bike)に対し、より曖昧で自由度の高い定義のもと、文化の震源地である米国を中心に、1980年代後半から1990年代初頭にかけて絶大な人気を誇ったカテゴリの自転車。
事実、当時はMTB〜ATBというカテゴリにおいて各社が競い合うようにさまざまなモデルをリリース。その波は1980年代後半〜1990年代前半にかけて日本にも多大な影響を及ぼし、当時のアウトドアブームと相まって社会現象とも言えるぐらいの大きなムーブメントにもなりました。
日本から米国へと海を渡り「総合自転車ブランド」として成長していた当時のFUJIも、やはり例外なくそんな時代背景を色濃く影響受けており、大胆にもモデル名にブランド名を冠した「Mt.FUJI」(1984)など、一部のショップで現在ビンテージフレームとして高価で取引されているような名作をいくつかリリースしていたんですね。
MOUNT FUJI LTD (1983)
SUNDANCE (1984)
Mt.FUJI (1984)
Mt.FUJI LTD (1985)
そして、ここからおよそ30年近くの時を経て、2014年。
ALTERRの前身との呼び声も高い「MTF」(2014)というモデルが突如リリースされたのは、ここでいう”中の人”がこれらかつてのアーカイブからの影響を受けてのことでした。
MTF (2014) Salmon Pink
OLD MTBスタイルながら、アヘッドステムやディスクブレーキ台座など現代規格に合わせたパーツチョイスを可能に。
カスタマイズでチョイスするパーツによっては、ヴィンテージのMTBフレームをレストアするのとはまた違ったスタイリングや乗り方にも挑戦できるモデルだった。
フルサス化/軽量化/ハイテク化が急激に進化を遂げた2000年代の競技用MTBではなく、かつてのクロモリMTBやATBが掲げていた「山でも街でも乗れるタフな万能車」という自由なコンセプトにこそ、「現代の普段使い自転車に求められる要素」への共通点を見出した、というワケなのです。
緩めのシートアングル角に伝統的な26インチホイール+ポリッシュシルバーパーツ+ブルムースハンドル+ダブルクラウンのフォークという、さながら80s〜90sのMTB〜ATBのようなスタイルを持ち、一方でアヘッドステム+ディスクブレーキ台座を備えるという現代的な規格をブレンドする独自性で、リリースから2年という短命で終わってしまったものの、ごく一部の愛好家からはやや強めの支持もありつつ….。
そして、そこからさらに時が過ぎ、2024年。古き良きクロモリATBが掲げていたコンセプトへの共感はそのままに、さらに現代的な感性を取り入れたATB『ALTERR』をリリース。
ALTERR (2024) Gaudy Berry
ALTERR (2025) Turquoise
前述のMTFが廃盤となって以降、10年が経過したここに至るまでの間に、かつてオンロードを主戦場としていたサイクリストたちも多様化。バイクパッキングやグラベルバイクなど「日常」と「非日常」の境界線をより緩やかにするような新しい波も広く受け入れられるようになり、時を経て自分たちが再びここに至ったのはもはや必然ともいえるのかもしれません。
とはいえ、そんな私たちですら驚いたこと。それは、不思議なことに10年前にMTFをリリースした当時とは全く違う反応が得られたことでした。
それはなぜなのか。
その要因の一つには、2020年を越えしばらくした辺りから、海の向こう側にいる北米の自転車コミュニティを中心に発生したOLD MTBムーブメント(=当時モノのMTB〜ATBフレームをレストアして現代の感性で楽しむ)が急激に浸透していたことが考えられます。この文化が短期間でそこまで注目されるに至ったのは、当時をリアルタイムに過ごした50代オーバーな世代だけではなく、30代前後の比較的若い新たな世代が反応したこと、そして彼らなりのクリエイティビティによって単なるヴィンテージのレストアではなく、新たな再解釈が加えられたインパクトも大きかったからなのでしょう。
フラットバーをトラディショナルなクランカーバーやBMXバーにアレンジしたり、より日常用途に合わせたカゴやラックの装着させたり、時にはフレームに台座を溶接してディスクブレーキ化させたり…。そのどれもが、いわゆるレストアで終わらない新たな要素が盛り込まれており、そんな「既視感と違和感のバランス」が絶妙だったのかもしれません。そして、そんな彼らの愛車が、SNS上で世界中の好奇心旺盛なサイクリストを刺激するのに、さほど多くの時間は必要なかったといえます。
かつてATBの生みの親たちが提唱した「山でも街でも乗れるタフな万能車」という自由さに共感し、40年の時が経っても、あの頃の「古き良きクロモリATB」に魅せられてしまう人間の共通点。
それは、自転車に対して「速さよりも楽しさ」というどこか本能的な感性を追い求めてしまう人なのかもしれません。
「どこへでも行ける自由」を形に
さて、ついつい開発に至るまでの部分が長くなりましたが、ALTERRのコンセプトを一言で表すなら、やはり「どこへでもいける自由」を形にしたものである、という部分でしょうか。
前述の通り、クロモリATBが目指した「山でも街でも乗れるタフな万能車」という初期衝動を軸に据えながら、さらに現代的な感性を混ぜて「どこへでも行ける」=「どこに行くか決まってなくてもついつい乗りたくなる」そんな乗り物は作れないだろうか、という考えに至りました。
また、基本的なジオメトリは黎明期のATBを参考にしながらも、現代のパーツ事情や設計思想に合わせて所々で最適化。たとえばハンドル周りだと、130mmなど今では一般的ではない長さのステムが普通に存在した1990年代前後とは事情が違うため、短めのステム+やや長めのトップチューブという構成によって、操作性と安定性を両立させるための設計に。ディスクブレーキや広いタイヤクリアランスも合わさることで、現代のグラベルバイク的な発想(=高速巡航性と俊敏性を最優先するロードバイクに対して、安定性と操作性の両立を目指す自転車)とも共通するようなジオメトリで味つけしています。
やや寝たシートチューブ角/ヘッド角など、長めに設定されたホイールベースはトラディショナルなクロモリATB譲り。あえて部分的にブラックパーツを挿したり、ところどころに当時モノのパーツを差し込むと、時代感がさらにマシマシに。
「古いのに新しい」という矛盾
タイヤサイズには伝統的な26インチを採用しながらも、同時にタイヤクリアランスは最大2.3までの太さを許容し、選ぶサイズによって違った楽しみ方ができるように。日本人にとっては大きすぎたり、競技者以外には馴染みのない27.5er / 29erではなく、街乗りを主軸におきながら、同時に幅広い環境において、取り回しとエアボリュームを両立するための選択をしています。
一方で、ブレーキは伝統的なリムブレーキに拘らず、現代的なディスクブレーキを採用。路面状況や天候に左右されにくく、ビギナーや女性でも安定した制動力が期待できる機能性を優先しました。
また、機能面の細部には現代的な要素を盛り込みながらも、全体構成はホリゾンタルなダイアモンドフレームとシルバーパーツを組み合わせることで、やはりスタイル面でも「古き良き日のATBスタイル」をオマージュすることにこだわりました。ポリッシュカラーのリムなど、現代のパーツ事情では決して需要が少なく敬遠されがちなディテールも、かつてのカタログで見たあのスタイルを表現すべく、積極的に取り入れています。
ディスクブレーキはもちろん、ラックやギアの取り付けに活躍する豊富なダボ穴も、80〜90年代にはまずみられないディテール。
「余白を生む」拡張性
たとえ着想が伝統的なATBスタイルであったとしても、日常使いや現代のギアとの相性を考えるなら、やはりカゴやラック〜バイクパッキングなどを想定した気配りは欲しいところ。もちろん、センタースタンド台座やフォーク周りのダボ穴は抜け目なく装備。ヴィンテージのMTB〜ATBのフレームには存在しないこういった拡張性こそが、実はALTERR の隠れた個性であり、一部のサイクリストのためだけのマニアックな車体で終わらせないための私たちなりの選択なのです。もちろん、実際にこれらの拡張性をフル活用するかどうかはオーナー次第ですが、こういった余白を備えた車体がうむ「設計の余裕」こそが、ひいては用途や行き先を決めない「心の余裕」へとつながるのではないかと信じています。
誰だって、目的地までの最短距離を流す日もあれば、ふと思い立って遠回りしたくなる日もあるし、舗装路を軽快に走りたい時もあれば、未舗装の道に吸い込まれるように進みたくなる時もある。
そんな日々の気分の振れ幅も、全部受け止めることができる自転車を目指して。用途を決めてから乗るのではなく、乗ってから行き先が決まるような「感覚」を大事に設計しています。
センタースタンド台座など、ヴィンテージのクロモリフレームにはまずないディテールで、ユーザー層も幅広い。
最後になりますが、実はこの ALTERR をベースにした特別なプロジェクトを、現在進行系で調整しております。
詳細はまだ多く語れませんが、奇しくもFUJI同様に「日本とアメリカ」それぞれの背景をあわせ持つブランドとのコラボレーションで生まれた特別な一台を、まもなく公開予定です。少し先の発表まで、ぜひお楽しみにしていただければです。
いつも通りの日常に、自分だけの「冒険」を自然に溶け込ませるために、実は特別な準備は必要ありません。むしろ、あなたのそばに「どこに行くか決まってなくてもついつい乗りたくなる自転車」があれば、それで十分。
もしあなたがALTERR を手に入れたその時は、ぜひ「いつも通り」から少しだけ外れてみることを試してみてください!